食道がん術後補助療法としてのペプチドワクチンの有用性を証明 食道がんにおける5年生存率を約2倍に改善|The大学Times

食道がん術後補助療法としてのペプチドワクチンの有用性を証明 食道がんにおける5年生存率を約2倍に改善大学通信 2020.8.31

1. 本件のポイント
● 近畿大学医学部における第2相臨床試験において、がんペプチドワクチンの術後補助療法と
しての有用性を世界で初めて証明
● がんペプチドワクチンの投与で、進行食道がん患者の5年生存率を約2倍に改善
● CTL※2を増幅させるワクチン療法により世界初ペプチドワクチン治療薬の承認へ大きな期待

2. 研究の概要
本研究では、食道扁平上皮がん細胞に特異的に発現し、そのがん細胞を特異的に攻撃する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)※2を強力に誘導する3種類のがん抗原ペプチドを使用しました。
術前化学療法、または化学放射線療法施行後に根治切除術が行われた進行食道がんの症例を対象に5年生存率を調べたところ、ワクチンを接種しなかった場合は32.4%であったのに対し、ワクチンを投与すると60.0%と約2倍予後を延長することが示されました。(図1)さらに3種類のがん抗原ペプチドのペプチド特異的CTLの誘導能をみると、CTLを誘導したペプチドの個数が増えるにしたがって再発が抑制され(図2)、2種類以上のペプチドでCTLの誘導が確認された症例の食道がん特異的生存期間が有意に延長していました。
本研究は、がんワクチン試験において第2相臨床※7試験(薬の有効性をみる臨床試験)にて、世界でも初めてポジティブな結果が得られたということで注目に値するだけでなく、免疫チェックポイント阻害薬※3と同様に基礎研究分野の新発見が、医師主導の臨床試験へと発展した、これからの新しい創薬のあり方を示す成功例と考えられます。
なお本研究に関しては、研究費の問題があり実施が困難だったところ、現在病気で苦しんでおり新薬を期待する患者さんの善意と、東京大学医科学研究所ヒトゲノム前センター長の中村祐輔教授が立ち上げた患者会による支援の寄付で近畿大学単施設にて試験を継続することができました。

3. 研究の背景
日本人の食道がんの95%近くを占める扁平上皮がんは、進行が早く周囲の重要臓器へ容易に浸潤するため切除不能となりやすく、また早期から広範囲かつ高頻度にリンパ節に転移する、極めて予後が不良の疾患です。ステージ1を除く切除可能進行食道がんでは、術前に化学療法で全身の微小転移の根絶を図るのが標準治療とされていますが、術前化学療法を行ったにもかかわらずリンパ節転移が3個以上残っている半数以上の患者の5年全生存率は20%前後しかありません。そのため術後補助療法による再発予防が求められますが、現在有効な治療法はなく、その開発が急務の課題でした。
また、PD-1の発見により、免疫チェックポイント阻害薬の開発、臨床試験が大きく進む中で、がん細胞の免疫監視機構からの逃避を無力化する免疫チェックポイント阻害薬と相補的な関係にあり、がんを攻撃する武器を持つCTLを増幅せるワクチン療法の確立が大いに期待されておりました。

4. 論文掲載
    論文名:Phase II adjuvant cancer-specific peptide vaccine therapy for
esophageal cancer patients curatively resected after preoperative
therapy with pathologically positive nodes; possible significance of
tumor immune microenvironment in its clinical effects
「術前治療後に治癒切除も病理学的リンパ節転移陽性の食道扁平上皮癌症例に対する術後補助療法としてのがんペプチドワクチン第2相臨床試験」
 掲載誌:Annals of Surgery(インパクトファクター:10.13)
著 者:近畿大学医学部・・・筆頭著者:安田卓司,
錦耕平, 平木洋子, 加藤寛章, 岩間密, 白石治, 安田篤, 新海政幸,
木村豊, 助川寧, 千葉康敬, 今野元博, 佐藤隆夫, 塩崎均,
順天堂大学大学院研究基盤センター・・・竹田和由
東京大学医科学研究所・・・中村祐輔

5. 研究詳細
投与されたがん抗原ペプチドは、抗原提示細胞表面のヒト白血球抗原(HLA)を介して抗原提示されますが、HLAには様々なタイプがあり、結合性が異なります。今回は日本人の6割が有しているHLA-A*2402に結合性が高く、また扁平上皮がん細胞に特異的に発現している3種類の新規がん抗原ペプチド(URLC10、CDCA1、KOC1)を用いて試験を行いました。試験デザインは、術前化学療法または化学放射線療法施行後に根治切除術が行われ、かつ病理学的検索でリンパ節転移を有していた臨床病期ステージ2・3進行食道がん症例を対象に、HLA-A*2402陽性の患者にはがんペプチドワクチン治療を行い、HLA-A*2402陰性例には再発が確認されるまでは無治療で経過観察を行うこととしました。がんペプチドワクチン治療は単独で術後2カ月以内に投与を開始し、3種類のがん抗原ペプチドを最初の10回は毎週、次の10回は2週間毎に皮下または皮内に投与し、計20回を治療中の再発の有無にかかわらず投与を完了することとしました。探索的第2相試験で、各群30例を目標症例とし、最終的にワクチン群:33例、対照群:30例の登録が得られました。有害事象は注射部位の皮膚反応のみで重篤なものはなく、早期再発で通院困難となった3例以外は全例治療を完遂できました。
本試験の主要評価項目である無再発生存期間※4はワクチン群で良好な傾向にとどまりましたが、食道がん特異的生存期間※5では5年生存率が対照群の32.4%に対し、ワクチン群は60.0%とハザード比※6は0.554、p=0.045と有意に予後を延長することが示されました。3種類のがん抗原ペプチドのペプチド特異的CTLの誘導能をみると、CTLを誘導したがん抗原ペプチドの個数が増えるにしたがって再発が抑制され(図2)、2種類以上のがん抗原ペプチドでCTLの誘導が確認された症例の食道がん特異的生存期間は明らかに延長していました。
さらにどの様な症例にこのがんペプチドワクチン治療が有効か、腫瘍の微小環境の観点から検討を追加しました。腫瘍の微小環境は、切除標本における免疫染色で、腫瘍内へのCTLの浸潤の有無とCTLへ抑制性シグナルを伝えるがん細胞表面のPD-L1の発現の有無で評価しました。その結果、ワクチン群の約6割に相当するCTL(-)/PD-L1(-)の腫瘍をもつ症例においては、食道がん特異的5年生存率は対照群の17.7%に対し、ワクチン群は68.0%と50%近い生存率の改善を認め、ハザード比は0.31(95%信頼区間:0.11-0.77)、 p<0.010と著明な効果が得られました。(図3)一方、わずか5例ではありましたが、CTL(-)/PD-L1(+)の腫瘍をもつ症例ではワクチン投与の効果は全く認められず、ワクチンにより誘導されたCTLの効果がPD-L1を介した抑制性シグナルで打ち消されたと推測されました。上記の結果は、確かに誘導されたCTLは予後改善に寄与しているということを示すと共に、PD-L1発現例では免疫チェックポイント阻害薬との併用が有効である可能性も示唆するものとしてがんペプチドワクチン治療の有効性と共に今後の免疫療法の個別化に向けて新たな発展性を示すものとして意義深いと考えています。
また、本研究は基礎研究から医師主導臨床試験、そして企業主導の第3相臨床試験※7へと更に橋渡しされた創薬のモデルケースです。第3相臨床試験の症例登録は終了しており、来年最終解析予定です。本研究と同様の有効性が証明され我が国から世界初のがんペプチドワクチン治療薬が承認されることが期待されています。

6. 用語解説
※1 がんペプチドワクチン
がん細胞は抗原となる特異的な異常タンパク質を細胞内に有しており、その分解産物であるペプチドの一部は細胞表面に提示され、T細胞がその細胞を異物と認識する目印となります。前者を「がん抗原タンパク質」、後者を「がん抗原ペプチド」と呼びます。がん抗原タンパク質の中で最もT細胞に認識されやすい部分を抗原決定基といいますが、その部分をがん抗原ペプチドとして用いるがん抗原ワクチン治療を「がんペプチドワクチン治療」といいます。
(一般的に、ペプチドはアミノ酸2~50個までの結合体、それ以上の結合体はタンパク質と呼ばれます。)
    ※2 CTL
Tリンパ球の中で特に細胞障害性T細胞と呼ばれるもので、キラー細胞とも呼ばれます。がん細胞やウイルス感染細胞などを殺傷します。
※3 免疫チェックポイント阻害薬
免疫は促進と抑制のシグナルのバランスで調整されています。ペプチドワクチンで誘導されたCTLは特定のがん細胞を攻撃しますが、がん細胞は細胞表面にPD-L1分子を発現し、CTL細胞表面のPD-1分子と結合し、CTLに対してその作用を抑制するシグナルを送り、免疫の攻撃から逃避します。その抑制性シグナルをブロックしてCTLの攻撃能を賦活するのが本薬の作用で、オプジーボ、ペンブロリズマブなどがこれに該当します。
※4 無再発生存期間
術後に無再発で生存している期間のこと。
※5 食道がん特異的生存期間
手術日から食道がんが原因で死亡するまでの期間のこと。
※6 ハザード比
ハザード比とは統計学上の用語で、臨床試験などで使用する相対的な危険度を客観的に比較する方法です。ある臨床試験で検討したい治療群Aと従来の治療の対照群Bとを比べたとき、ハザード比が1であれば2つの治療法に差はなく、ハザード比が1より小さい場合には治療群Aの方が有効と判定され、その数値が小さいほど有効であるとされます。図2でいえば、ハザード比が0.31なので、ペプチドワクチンはCTL(-)/PD-L1(-)の患者の食道がんによる死亡リスクを69%減少させたという意味になります。
※7 第2相、第3相臨床試験
臨床試験には3つのステップがあります。第1相臨床試験は薬の適正な投与量や毒性をみる試験です。第2相臨床試験は薬の有効性と安全性を評価する試験です。第3相臨床試験は薬の承認を目的に主には企業が主体となって有効性と安全性を大規模無作為試験で明らかにする試験です。

▼本件に関する問い合わせ先
広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp

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