【玉川大学研究成果】Society5.0を支える安心・安全なグローバルネットワーク実現に近づく 太平洋横断級10,000km超のセキュア光ファイバ通信に成功 -- 位相変調方式のY-00光通信量子暗号により、これまでの10倍の伝送距離を実現|The大学Times

【玉川大学研究成果】Society5.0を支える安心・安全なグローバルネットワーク実現に近づく 太平洋横断級10,000km超のセキュア光ファイバ通信に成功 -- 位相変調方式のY-00光通信量子暗号により、これまでの10倍の伝送距離を実現大学通信 2020.12.7

 本成果の詳細は、2020年12月6日(日)から10日(木)までオンラインで開催される光通信分野を代表する国際会議であるECOC(46th European Conference on Optical Communications)にて発表されます。



【今回の成果】
 Y-00暗号は、暗号鍵(3)により多値光信号を発生し、信号受信時に不可避な量子雑音のもつ真の不確定性を利用して光ファイバからの盗聴を防ぐ技術です。これまでに、光の強度を変調する方式で、最長1,000kmの光ファイバ伝送距離を実証(4)しています。今回、光の位相を変調するY-00暗号化を採用し、コヒーレント光受信(5)することで、これまでの伝送距離を大きく上回る10,118kmの暗号化光ファイバ通信に成功しました。玉川大学の独自技術である粗密光位相ランダマイズ法(6)を用いることで、高い安全性との両立を実現しました。
 図1に今回の成果により実現が期待されるY-00暗号を用いたセキュア光海底ケーブル通信のイメージを示します。光海底ケーブルは、50〜60km程度毎に光増幅器にて光信号が増幅され、例えば日米間においては総長約10,000kmとなります。今回は実験室において光海底ケーブルを模擬した実験系を構築し、約50km毎に光増幅が行われる総長10,118kmの光ファイバを、40ギガビット毎秒(DVD1枚を1秒以下で転送できる通信速度)で暗号化通信する実験に成功しました。図中に示すように、盗聴者が光ファイバ中の信号を傍受しても、量子雑音の影響で受信に誤りが生じます。よって、その内容を解析して正しいメッセージを解読することが困難となる安全な通信を実現できます。


【背景】
 Society 5.0に代表されるこれからの超スマート社会では、IoTにより身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながり、金融決済や個人情報等の多くの重要な情報がやり取りされます。世界中に張り巡らされている光ファイバを用いた通信システムが、この仕組みを基盤として支えています。より安全・安心な通信インフラの実現に向けて、光ファイバ通信のセキュリティ向上は重要な課題です。玉川大学では、光通信システムの安全性を高めるY-00暗号の研究に基礎理論の確立から応用展開まで一貫して取り組んでいます。Y-00暗号では、データ(平文)を暗号鍵を用いて多くの異なる光強度/位相をもつ光信号(暗号)に変換します。隣接する光信号間の距離が極めて短くなると、受信時の光・電気変換で必ず生じる量子雑音の影響で、鍵をもたない受信者は平文を正確に復元することができません。つまり、光ファイバからの盗聴を防ぐことができます。量子雑音は真にランダムな性質をもち、決して避けることのできない物理現象です。よって、コンピュータ等の技術進展により破綻することがない極めて安全な光通信システムを実現できます。
 これまでに、光の強度を変調するY-00暗号を用いて、光ファイバ伝送距離1,000kmの暗号化通信に成功しています。光ファイバの伝送距離は日米を結ぶ光海底ケーブルにおいては約10,000kmであり、Y-00暗号の応用範囲を広げるために、さらなる伝送距離の延長が期待されてきました。

【実験実証の詳細】
 位相変調方式のY-00暗号を用いて10,000km超の長距離通信実験を行う構成を図2に示します。データと暗号鍵をY-00暗号生成部に入力し多値信号への変換を行い、波長1550nmのレーザ光の位相を変調してY-00暗号を発生しました。IQ変調器によるデータ変調後に粗密光位相ランダマイズ法にて暗号化を行いました。粗密光位相ランダマイズ法は、二つの位相変調器を同期して駆動することで単体の電気デジタル・アナログ変換の分解能を超える極めて多値の光位相のランダマイズを可能とします。暗号化後の光信号は218値の位相レベルをもちます。偏波多重化を行った後のデータレートは40Gbit/sで、長距離光ファイバ伝送は光周回伝送システムを用いて行いました。受信側では、フリーランニングのレーザを局発光として用いるイントラダインコヒーレント受信を行いました。デジタル化後に、暗号の復号化を統合したデジタル信号処理にてデータを復調しました。
 図3に光ファイバリンクへの光信号入力パワーを-7dBmとしたときに、伝送距離を変化させたときの受信Q値を示します。赤線がY-00暗号、青線がリファレンスの非暗号化信号です。伝送距離10,118kmにおいて、Q値は軟判定誤り訂正符号閾値を超えており、適切な信号品質を確保しています。受信信号のコンスタレーションからは、暗号の復号化によりQPSKデータ変調が回復する様子が確認できます。粗密光位相ランダマイズ法により実現される218値の位相レベルをもつY-00暗号では、量子雑音が隣接する約230の信号を覆います。これにより盗聴者が暗号を受信しようとしたときのシンボル誤り率(7)は0.9965以上と極めて大きくなり、盗聴に対する高い安全性を実現しています。



【今後の展望】
 今回、位相変調方式のY-00暗号を用いることで、初めて盗聴に対する暗号化を施した太平洋横断級の10,000kmを超える光ファイバ通信を実現しました。今後は、さらなる高速化や波長多重技術を用いた大容量化を行い、Y-00暗号の光ファイバ通信システムでの実用化に向けて研究開発を進めていきます。



■学会発表:
国際会議 46th European Conference on Optical Communications(ECOC 2020)
 Ken Tanizawa, and Fumio Futami, ''Security-Enhanced 10,118-km Single-Channel 40-Gbit/s Transmission Using PSK Y-00 Quantum Stream Cipher,'' 46th European Conference on Optical Communications (ECOC 2020).



■注釈・用語など
(1) Y-00光通信量子暗号
 2000年にNorthwestern大学のYuen教授により提案された「盗聴者が暗号文を正しく取得できない」ことを特徴とする光通信向けの暗号。データ信号(平文)を、共有する鍵((3)に示す暗号鍵)を用いて多くの異なる光の強度や位相に変換することで暗号化する。受信時の光・電気変換で生じる不可避な雑音((2)に示す量子雑音)の影響で、暗号鍵をもたない受信者が正確な光の強度や位相を取得することができない。



(2) 量子雑音
 電子や光子が粒子性をもつことに由来して生じる雑音。真にランダムであるということが証明されている。光伝送においては、光・電気変換で不可避に生じ、通信の性能限界を決める。



(3) 暗号鍵

 データ信号を暗号・復号化するために必要となる鍵となるバイナリデータ。Y-00暗号においては、通常、送受信者の間で共通の鍵を用いる。

(4) 玉川大学プレスリリース(2019年5月9日)
 「Y-00光通信量子暗号を用いた通信距離1,000kmの暗号通信に成功」
 https://www.tamagawa.jp/research/quantum/news/detail_15991.html

(5) コヒーレント光受信
 信号光と受信機に設置されたレーザ光(局部発振光)とのビートを検波する(光ヘテロダイン検波やホモダイン検波と呼ばれる)ことで、信号光の振幅と位相を測定する方法。小さなパワーの信号光を受信できる。また、検波した信号をアナログ・デジタル変換後にデジタル信号処理を行うことで、信号の線形歪を電気領域で補償できる。この特徴を活かして、長距離光ファイバ通信のための信号受信方式として広く用いられている。



(6) 粗密光位相ランダマイズ法
 二つの電気デジタル・アナログ変換の出力を直列に配置された光位相変調器にそれぞれ入力することで、光の領域で多重化し高分解能に位相のランダマイズを行う方法。それぞれの光位相変調器は、粗な位相変調と密な位相変調の役割を担う。Y-00暗号化において極めて多値に位相をランダマイズするために玉川大学量子情報科学研究所が独自に提案した方法である。



(7) シンボル誤り率
 通信における信号品質の評価指標。送信したシンボルと異なるシンボルが受信される(誤りが生じる)確率を示す。0のときまったく誤りのない理想的な状況、1に近づくにつれて誤りが多く適切な信号品質が確保できない状況を表す。

以上

▼本件に関する問い合わせ先
玉川学園 教育情報・企画部 広報課
長野
住所:〒194-8610 東京都町田市玉川学園6-1-1
TEL:042-739-8710
FAX:042-739-8723
メール:pr@tamagawa.ac.jp

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