肝細胞がん免疫療法の効果を予測する画像バイオマーカーを発見 免疫療法の効果がない患者に対するMRI診断の有効性を証明|The大学Times

肝細胞がん免疫療法の効果を予測する画像バイオマーカーを発見 免疫療法の効果がない患者に対するMRI診断の有効性を証明大学通信 2021.8.20

【本件のポイント】
●肝がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測する画像バイオマーカーを発見
●EOB-MRIという造影MRI検査で、免疫チェックポイント阻害剤の効かない患者を判別
●画像バイオマーカーでの予測は患者の負担が少なく、個別化治療の第一歩となる重要な成果

【本件の背景】
肝がんは世界で毎年約75万人が亡くなり、日本でも毎年約2万7千人が亡くなる極めて予後の悪いがんです。治療法として、がんが肝臓内に限られている場合は切除、ラジオ波治療、肝動脈化学塞栓療法などがありますが、これらの治療法で効果が得られない、もしくは脈管浸潤や遠隔転移などをきたして進行がんになった場合は、免疫チェックポイント阻害剤を用いた薬物療法が主な治療法となります。
しかし、一部の症例においては、肝がん細胞の変異によってがん細胞内に免疫細胞が入り込めなくなり、免疫を活性化する免疫チェックポイント阻害剤の効果が十分に発揮されないことが知られています。がん細胞内の遺伝子変異を知る唯一の方法は腫瘍生検ですが、腫瘍組織をとるには出血のリスクを伴い、患者にとって大きな負担となります。そのため、腫瘍生検とは別の方法で、治療開始前に免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測し、患者の負担を減らす方法の確立が求められています。

【本件の概要】
研究グループは、ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)などの免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測する研究を行い、「EOB-MRI」という造影MRI検査が画像バイオマーカーとして極めて有効であることを世界で初めて実証しました。
EOB-MRIは、肝がん診療には欠かせない、日常的に広く行われている検査の一つです。肝がん患者において、免疫チェックポイント阻害剤療法の直前に撮影されたEOB-MRIの画像とその後の病状の経過を調べたところ、画像中に背景の肝臓と比べて同等または少し白く映ったしこり(結節)は、免疫チェックポイント阻害剤療法の効果が少なく、増大する速度が速いことが示されました。
画像バイオマーカーで免疫チェックポイント阻害剤療法の効果が予測できるようになれば、患者の負担を減らすことができます。また、免疫チェックポイント阻害剤が効きにくい症例では、早期に分子標的治療に切り替えることで予後の改善につながる可能性もあり、本研究成果は肝がんの個別化治療への第一歩となる非常に重要なものだと言えます。

【掲載論文】
雑誌名:''Liver cancer''(インパクトファクター:11.740@2020)
論文名:Higher Enhancement Intrahepatic Nodules on the Hepatobiliary Phase of Gd-EOB-DTPA-enhanced MRI as a Poor Responsive Marker of Anti-PD-1 / PD-L1 Monotherapy for Unresectable Hepatocellular Carcinoma
(EOB-MRI肝細胞相で信号強度の高い結節は、切除不能肝細胞がんに対するPD-1/PD-L1単独療法への効果不応の予測バイオマーカーである)
著 者:青木 智子1、西田 直生志1、上嶋 一臣1、盛田 真弘1、千品 寛和1、田北 雅弘1、萩原 智1、依田 広1、南 康範1、山田 哲2、祖父江 慶太郎3、鶴崎 正勝4、工藤 正俊1*
*責任著者
所 属:1 近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)、2 信州大学医学部、3 神戸大学大学院医学研究科放射線医学講座、4 近畿大学医学部放射線医学教室(放射線診断学部門)

【研究詳細】
本研究は、Wnt/β-カテニンシグナル※3 の活性化状態が、EOB-MRIの肝細胞相※4 において、背景の肝臓より信号強度が高いか等しい結節(等〜高信号結節)として現れるという仮説に基づき、切除不能肝がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の治療抵抗性を予測することを目的として行われました。免疫チェックポイント阻害剤単独療法の直前にEOB-MRIを撮影していた18症例68結節を対象としており、その内訳は、背景の肝臓より信号強度が高いか等しい結節(等〜高信号結節)が23個、背景の肝臓より信号強度が低い結節(低信号結節)が45個でした。
これらの症例について、EOB-MRIの肝細胞相を調べたところ、等〜高信号結節を有する患者では、治療効果があった患者の割合(ORR)は12.5%、病勢コントロール率(DCR)は37.5%でした。一方、低信号結節のみを有する患者では、治療効果があった患者の割合は30.0%、病勢コントロール率(DCR)は70.0%でした。また、無増悪生存期間中央値※5(PFS中央値)は、等〜高信号結節の患者で2.7カ月、低信号結節の患者で5.8カ月。各結節が20%以上増大するまでの時間の中央値は、等〜高信号結節では1.97カ月、低信号結節では未達(半数以上の結節で増大を示さない結果)でした。
これによって、EOB-MRIの肝細胞相で等〜高信号を示した結節は、低信号を示した肝がんと比較して、免疫チェックポイント阻害剤単独療法の効果が有意に劣ることが明らかになりました。また、等〜高信号結節は免疫チェックポイント阻害剤の治療中により早く増大し、腫瘍が再発あるいは進行するまでの期間が有意に短くなることも示されました。これらの結果は当初の仮説を裏付けるものであり、EOB-MRIの肝細胞相において、等〜高信号の結節が免疫チェックポイント阻害剤単独療法の反応性低下を予測するバイオマーカーになり得るということを強く支持するものでした。
現在、日本における切除不能肝がんに対する一次治療は、令和2年(2020年)9月に適応となった「アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法」が推奨されており、今後、この画像バイオマーカーが免疫チェックポイント阻害剤単独療法だけでなく、ベバシズマブ併用療法でも有用であるかを検証する必要があります。

【用語解説】
※1 免疫チェックポイント阻害剤:がん細胞の一部は、ヒトの免疫機構に備わっているブレーキ機能「免疫チェックポイント」にシグナルを送ることで免疫から逃れ、増殖を繰り返す機構を備えている。がん細胞を免疫チェックポイントに結合させなければ、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなる点に注目して開発された治療薬。

※2 EOB-MRI:従来のMRI検査に加えて、肝細胞に発現する輸送体の発現活性を介した造影剤の取り込み機能を評価することができる造影MRI検査。肝特異的造影剤「EOB/プリモビストR(ガドキセト酸ナトリウム)」を用いる。

※3 Wnt/β-カテニンシグナル:Wnt/β-カテニンは、肝細胞がんや他のがんで検出される細胞増殖能が増強する遺伝子変異の一つ。遺伝子が活性化することで腫瘍を取り巻く環境では様々な情報伝達が起こるが、この遺伝子が活性化することにより、OATP1B3という輸送体が増えるため、EOB-MRIで用いられる造影剤が腫瘍内に取り込まれて高信号結節(白い結節)として認識できる。この遺伝子変異はがん細胞に対する免疫機能を低下させる役割も持っており、一般的に免疫チェックポイント阻害剤が効きにくいといわれている。

※4 肝細胞相:肝特異的造影剤「EOB/プリモビストR(ガドキセト酸ナトリウム)」を投与し、20〜40分ほど経過してから撮像するT1強調画像。肝細胞がんでは、一般的にOATP1B3という輸送体の発現が低下するため、細胞内への造影剤の取り込みが低下し、低信号の結節として描出される。一方、OATP1B3の発現が増えると、細胞内へ造影剤の取り込みが亢進して、高信号の結節として描出される。

※5 無増悪生存期間中央値:抗がん剤治療の成績に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪もしくは死亡が確認されるまでの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

【関連リンク】
医学部 医学科 教授 工藤 正俊(クドウ マサトシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/569-kudou-masatoshi.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/

▼本件に関する問い合わせ先
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