落石災害を防止する「防護工」の最適配置にむけた方法を開発|The大学Times

落石災害を防止する「防護工」の最適配置にむけた方法を開発大学通信 2021.9.15

 我が国では特に近年、降雨や地震による自然災害が頻発しており、人々の命と暮らしを守るため、災害リスクの軽減に向けた技術の活用が一層求められる状況にあります。しかしながら、道路等のインフラを所有・管理する国や自治体の予算は有限であることから、その効率的な使用は必要不可欠です。今回開発した方法は、斜面周辺に建設された道路における落石による危険から対象を防護する「防護工」の配置について、比較的少ない計算時間で落石の速度やエネルギー、危険度を定量化し、落石リスクと建設予算を考慮した提案を可能とするものです。

 本研究成果の発信を通じて、リスク情報の活用による、災害リスクの軽減に向けた意思決定プロセスの整備が進むことを期待しています。なお、これらの研究成果は地盤工学会誌(2021年6月)等に掲載されました。

<本研究のポイント>
〇3次元地形状に基づいて、落石の危険性を評価
〇リスク(=確率×影響度)を定量化し、トータルコストによる防護工の最適配置を提案

<概要>
 斜面周辺に建設された道路は降雨や地震による落石の被害を受けます。防護工(※1)や予防工(※2)を多く設置するほど被害を小さくできますが、道路を所有・管理する国や自治体の予算は有限であるため、その効率的な配置が求められています。
 この度、東京都市大学 建築都市デザイン学部 都市工学科の吉田郁政教授らは、比較的少ない計算時間で実施できる落石のシミュレーション技術、及びそれに基づいて予算に応じた防護工の最適な配置を決定できる方法を開発しました。
 開発した方法では質点系解析を用いて落石の挙動を解析し、その危険度を判定します。国土地理院により提供される3次元地形情報より斜面地形をモデル化し、落石を質点(※3)とした力学モデルにより落石の速度、エネルギーを求め、その危険度を定量化、さらに、トータルコスト、すなわち、防護工の初期建設費と落石のリスクの和の最小化による防護工の最適配置を算出します。
 リスクは落石による被害確率とその際の影響度の積で定義され、被害確率は、衝突時の落石エネルギーに基づく確率論的危険度評価手法により算出、影響度は交通遮断による経済損失や人身損失などから評価します。通常は何らかの予算制約があるため、トータルコストのみから、その最適配置を決定することは現実的ではありません。そこで、今回開発した方法では、初期建設費の総和に対する予算制約を設け、制約条件付き最適化問題として線形計画法(※4)により解くことで、防護工の最適配置を求めることができるようにしました。
 提案手法を実際の斜面地形に適用して求めた最適配置の試算例を示します。図1は、延長約3kmのある道路周辺の地形をモデル化して実施した質点系解析の結果を示しています。ここでは表示用に質点個数を5000個としていますが、確率論的危険度評価では数十万から100万個程度の質点を用います。暖色系の線は速度の大きな落石の軌跡を表しており、エネルギーの大きな危険な落石であることを示しています。
 図2は、こうした質点系解析結果に基づいて求めたトータルコスト最小化による防護工の最適配置を示しています。防護工の選択肢として、初期コストが安い(落石に対する強度が弱い)順番に防護工なし、A、 B、 Cの4つを想定して(コストの比率:0、 35、 75、 200)、10m区間ごとにトータルコスト最小化の観点からそれぞれの区間の選択結果を示しました。

※図の出典:地盤工学会誌,69(6),pp.20-23, 2021.6

 なお、これらの研究成果の一部は、以下に投稿し、掲載されました。
・吉田郁政,落石防護工の最適配置に向けての確率論的アプローチ,土と基礎(地盤工学会誌),69(6),pp.20-23, 2021.6
・津田悠人,宍倉輝海,塚本裕朗,吉田郁政,菅野蓮華,森口周二,道路に対する落石のリスク評価に基づいた落石対策工の最適設計,土木学会論文集 A2(応用力学), Vol.76, No.2, I_531-I_541, 2021.

<研究の背景>
 ある特定の個人について、何歳で結婚し、何人子供を育て、何歳で亡くなるかを正確に予測することは不可能です。しかし、平均的な日本人の男性あるいは女性が何歳で結婚して、何人子供をもうけて、何歳で亡くなるかは正確に示すことができます。そうした統計情報は生命保険の設計や様々な政策のための重要な基礎資料となっています。
 このような予測は落石の挙動についても同様のことが言え、どの岩塊が崩落しどのような経路を伝わってどこまで到達するかを正確に予測することは最新の解析技術をもってしても困難ですが(斜面や岩塊の形状など全てを詳細にモデル化することは不可能であることに加え、境界条件や岩塊形状が明確な落石実験であっても再現性には限界がありばらつきがあるため)、こうした解析手法は落石挙動の確率分布の評価に対しては有効であり、落石対策の開発や設計などに対しては現実的かつ有効な手段となります。そこで、確率論的に危険度を定量化して防護工の最適配置を決める方法について検討を行いました。



<研究の社会的貢献および今後の展開>
 これまで経験に基づいて決定することの多かった災害対策の優先順位ですが、異種のハザード(災害の種類)や構造物に対する優先順位を合理的に決めることは容易ではありません。リスクを定量的に評価することで、より合理的な災害軽減が可能になります。ただし、リスク評価には多くの仮定を必要とし、評価された値自体に大きな不確定性が存在することを認識する必要があります。今後、経験も含めた様々な情報、要因(法令等)とリスク評価結果を活用した意思決定の仕組みRIDM(risk informed decision making)の整備が望まれ、本研究成果がこれらの一助となることを期待します。


<用語解説>
※1 防護工:
発生した落石から防護するための対策工 例.防護柵やロックシェッドなど

※2 予防工:
落石の発生を予防する対策工 例.ワイヤーロープ掛工、吹付工など

※3 質点:
大きさのない、質量を持つ点。力学的に単純化したモデルの考え方

※4 線形計画法:
1次式の制約条件のもとで、1次式の目的関数を最小化する解を求める手法

<共同研究者>
東北大学災害科学国際研究所計算安全工学研究分野、東電設計株式会社






▼本件に関する問い合わせ先
企画・広報室
住所:東京都世田谷区玉堤1-28-1
メール:toshidai-pr@tcu.ac.jp

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