母親は育児未経験のメスに子育てを指導する マウスの子育て教育の実態とオキシトシン関与の仕組みが初めて明らかに。 麻布大とニューヨーク大の共同研究成果がNatureに掲載|The大学Times

母親は育児未経験のメスに子育てを指導する マウスの子育て教育の実態とオキシトシン関与の仕組みが初めて明らかに。 麻布大とニューヨーク大の共同研究成果がNatureに掲載大学通信 2021.9.14

<本研究成果について本学の茂木一孝教授のコメント>
 「群れに属する育児未経験のメスに対して母親が子育てを教える行動は、ヒトや霊長類ではよく知られていますが、新たに、マウスでも同様な教育行動が見られること、その過程に愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが関与していることが明らかになりました。本学では早くからオキシトシンに注目し、ペットと飼い主など異なる種の間のコミュニケーションにも関与していることを明らかにしています。今後、さらにオキシトシンの重要性について研究を進めたいと考えています」

研究のポイント
・育児経験のないメスマウスが子育て中の母マウスと過ごすことで母性がすみやかに発達しました(図1)。
・母マウスは、未経験のメスを子のいる巣に引き入れたり、未経験メスの目の前に子を置くなど、積極的に子育てを教えていました。
・未経験メスを母子と同居させず、母マウスの子育てを見せるだけでも母性が発達しました。
・こうした子育て行動の伝達や発達にオキシトシンが関与していることが明らかになりました。

<研究成果の概要>
 母性は、遺伝的にプログラムされた生得的な行動で、交配や出産によって発達します。ヒトを含む霊長類では、育児未経験のメスでも、群れの母親から指導を受けたり、育児を見ることで母性の発達が加速することがわかっています。しかし、他の動物種でこうした経験による母性の発達があるのか、ある場合にどのような神経メカニズムが関与しているのかはこれまで不明でした。
共同研究グループは、マウスにおける母性の発達に着目しました。

 育児経験のないメスが、一定時間内に子を巣に回収できるかを調べる「子マウス回収テスト」で母性の発達を測定しました。1日に1度このテストを実施したところ、単独で飼育した場合には、3日後に約5割の確率で子を回収するようになりましたが、子育て中の母マウスと一緒に飼育した場合には母性の発達が早まり、1日後には約5割の確率で子を回収するようになりました(図2)。

 そこで、未経験メスと母子を同居させ、24時間体制で撮影しました。同時に、母性行動を開始させるホルモンとして知られる「オキシトシン」を産生している脳内視床下部の神経など、未経験メスのいくつかの脳領域の電気信号を測定しました。
 その結果、母マウスが未経験メスを巣に引き入れる行動が頻繁に行われていることが始めて観察されました。また子が巣から離れた場合、母マウスは時に未経験メスの目の前に子を置き、子マウスを巣へ運ばせるように促す行動も見うけられました。
 未経験メスは、巣に引き入れられる回数が多いほど母性が発達しました。巣に引き入れられた際にオキシトシン神経が活性化すること、オキシトシン神経を遺伝薬理学的に抑制すると母性の発達がみられないことも明らかになりました。
 また、未経験メスと母子を透明な仕切りで隔てて、観察はできるが接触はできない状況にしても、未経験メスの母性は仕切りがないときと同様に発達しました。この結果から、未経験メスの母性は、母マウスの子育てを見る経験だけでも発達することがわかりました。
 
 本研究から、マウスの母性も経験によって発達すること、そのメカニズムにオキシトシンが重要な役割を担っていることがわかりました。また霊長類と同様に、母マウスが未経験メスに積極的に子育てを教えることも初めて明らかになりました。群れの中での共同育児がみられる動物において、オキシトシンを介した母性行動の社会的伝達が普遍的に存在するのか、さらなる研究が期待されます。

掲載論文
・掲載誌: Nature(オンライン版)
・DOI: https://doi.org/10.1038/s41586-021-03814-7
・原題: Oxytocin neurons enable social transmission of maternal behavior
・和訳: オキシトシンニューロンは母性行動の社会的伝達を可能にする
・著者名: Ioana Carcea, Robert C. Froemke, Regina M. Sullivan, Naomi Lopez Caraballo, Bianca J. Marlin, Joyce M. Mendoza Navarro, Maya Opendak, Veronica E. Diaz, Luisa Schuster, Maria I. Alvarado Torres, Harper Lethin, Daniel Ramos, Jessica Minder, Sebastian L. Mendoza, Chloe J. Bair-Marshall, Annegret Falkner, Dayu Lin, Adam Mar, Youssef Z. Wadghiri(ニューヨーク大学)
 茂木一孝,菊水健史(麻布大学獣医学部)、大山瑠泉(麻布大学ヒトと動物の共生科学センター)
 Grace H. Samadjopoulos (ラトガーズ・ニュージャージー州立大学)
 Justin S. Riceberg (マウントサイナイ医科大学)
 西森克彦, 日出間志寿(福島県立医科大学)

<関連情報>
麻布大学 ヒトと動物の共生科学センターについて
 「ヒトと動物の共生科学センター」は、文部科学省・私立大学研究ブランディング事業「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」の後継事業として位置づけ、麻布大学 附置生物科学総合研究所内の研究部門に,プロジェクト研究の発展型として本センターが立ち上がりました。研究を基軸として、それにかかわる学生の教育、そして社会とのつながりを深めることで、ヒトと動物・環境の新しい共生の形を探求し、実現することを目指します。
 ヒトと動物の共生科学センター 特設サイト https://azabu-chass.themedia.jp

<参考情報>
●麻布大学について
 麻布大学は、昨年2020年に学園創立130周年を迎えた、獣医系大学として二番目に長い歴史を持つ大学です。私立大学として動物学分野の研究に重点を置くトップクラスの実績を基盤に、新たな人材育成に積極的に取り組んでいます。
本学は、獣医学部(獣医学科、動物応用科学科)と生命・環境科学部(臨床検査技術学科、食品生命科学科、環境科学科)の2学部5学科と大学院(獣医学研究科と環境保健学研究科)の教育体制に、学部生:2,411名、大学院生:88名が学んでいます(2021年5月1日現在)。1つのキャンパス内(神奈川県相模原市)で、人・動物・環境に関する教育・研究を実施している国内唯一の大学です。
 麻布大学の概要: https://www.azabu-u.ac.jp/about/


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FAX:042-850-2505
メール:koho@azabu-u.ac.jp

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