[帝京大学]帝京大学理工学部の榎元廣文講師、山根久和教授らが植物ホルモンの種子内分布の可視化に成功|The大学Times

[帝京大学]帝京大学理工学部の榎元廣文講師、山根久和教授らが植物ホルモンの種子内分布の可視化に成功大学通信 2017.2.27

【研究の背景】
 種子の発達、休眠や発芽には、アブシジン酸やジャスモン酸の生合成中間体で独自の生理機能も有する12-オキソ-フィトジエン酸などの植物ホルモンが関与していることが知られている。また、遺伝的な変異によってアブシジン酸や12-オキソ-フィトジエン酸の量が少ない種子では、種子が十分に発達できない、あるいは十分に発達する前に発芽してしまうなどの異常を起こすことが知られている。
 アブシジン酸と12-オキソ-フィトジエン酸の種子内での分布を明らかにすることは、アブシジン酸と12-オキソ-フィトジエン酸による種子の成長制御機構を理解する上で重要である。また、遺伝的な変異体などで植物ホルモンの分布異常を検出することは、種子の発達異常に関する機構の解明につながると考えられる。
 近年、生体組織の構造を保ったまま物質の局在分布を調べることができる方法として「イメージング質量分析法」の利用が進められている。イメージング質量分析法とは、組織切片上の物質をイオン化して物質を検出・分析することで、特定の物質が切片のどこにどれくらいあるかを可視化する手法のこと(図1)。現在、イメージング質量分析法のイオン化法として、主にマトリックス支援レーザー脱離イオン化法が用いられている。しかし、このイオン化法では検出限界や物質のイオン化補助に使用されるマトリックス由来の物質が低分子量の領域に検出されるなどの問題があるため、ごく微量で分子量の小さい植物ホルモンの測定にはうまく適用できていなかった。

【研究の内容】
 最近、脱離エレクトロスプレーイオン化法というイオン化法が開発され、新たにイメージング質量分析法に適用された。このイオン化法は、電荷を帯びた溶媒を組織切片上にジェット噴射することで物質をイオン化している。したがって、イオン化にマトリックスを必要としないことから、分子量の小さい物質の測定に適していると考えられている。そこで、榎元講師らの研究グループは、脱離エレクトロスプレーイオン化法を用いたイメージング質量分析法を利用し、インゲンマメの種子切片を測定することにした。質量分析計には、物質の質量を高精度に測定できる四重極-飛行時間型のタイプを使用。また、測定前に、ジェット噴霧させる溶媒や質量分析計で検出するイオンモードの検討など、測定条件の最適化による検出感度の向上を行った。測定に際しては、通常利用される一段階の質量分析測定に加えて、より精度の高い二段階の質量分析測定であるタンデム質量分析測定も行い、アブシジン酸と12-オキソ-フィトジエン酸が正確に検出されているか確認を行った。
 これらの測定の結果、今回、脱離エレクトロスプレーイオン化法を用いたイメージング質量分析法により、実際にアブシジン酸と12-オキソ-フィトジエン酸の分布を観測することができた(図2)。インゲンマメの種子では、アブシジン酸は幼根や子葉などの内部に多く観測されたのに対し、12-オキソ-フィトジエン酸は種皮などの外側に多く観測された。

【今後の期待】
 今回、植物ホルモンであるアブシジン酸と12-オキソ-フィトジエン酸の分布を、種子組織から直接可視化することに初めて成功した。今回の手法を応用することで、今後、種子の発達や休眠、発芽の際のこれら植物ホルモンの動態を、空間的情報を保ったまま追跡できると考えられる。今回は切片上を200μmごとに測定しているが、測定間隔をより密にすれば、さらに高い空間分解能での観察も可能である。
 また、本手法は検出条件を測定したい物質に合わせて最適化することにより、アブシジン酸や12-オキソ-フィトジエン酸以外の植物ホルモンの検出にも応用できると考えられる。いろいろな植物種の種子組織の中で、植物ホルモンがどのように分布しているか直接測定できるようになれば、古来より農作物の生産に必要不可欠な種子の発達、休眠や発芽における植物ホルモンの働きの更なる解明に役立つ夢の技術の一つとなると期待される。

 なお、この研究は文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成事業の支援のもとで行われたもので、研究成果は2017年2月17日10時(英国時間)、Nature Publishing group(ネイチャー パブリッシング グループ)の科学論文誌『Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)』オンライン版に発表された。

<発表論文掲載情報>
・論文著者:Hirofumi Enomoto, Takuya Sensu, Kei Sato, Futoshi Sato, Thanai Paxton, Emi Yumoto, Koji Miyamoto, Masashi Asahina, Takao Yokota, Hisakazu Yamane.
 (榎元廣文、扇子拓也、佐藤圭、佐藤太、タナイパクストン、湯本絵美、宮本皓司、朝比奈雅志、横田孝雄、山根久和。)
・論文題名:Visualisation of abscisic acid and 12-oxo-phytodienoic acid in immature Phaseolus vulgaris L. seeds using desorption electrospray ionisation-imaging mass spectrometry.
 (インゲンマメ未熟種子中のアブシジン酸および12-オキソ-フィトジエン酸の脱離エレクトロスプレーイオン化-イメージング質量分析法による可視化。)
・科学論文誌名:Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)
 英国時間2017年2月17日、午前10時(日本時間で午後7時)にオンライン掲載

<研究助成>
 本研究は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1311014)の支援を受けて行われました。

【用語解説】
■質量分析:物質をイオン化し、分離・検出する分析法。検出された情報からイオンの質量が分かる。どの質量のイオンがどれだけ検出されるかにより、物質の種類、存在量を知ることができる。
■イメージング質量分析:質量分析測定を画像化に応用した技術。組織切片上の物質に対して質量分析を行いながら、位置情報も記録することにより、組織切片上にある生体分子や代謝物の局在を可視化する。
■タンデム質量分析:質量分析測定を二回連続して行うことで、物質を高精度に検出する手法。一段階目の質量分析でイオン化された物質から、特定の質量のイオンだけを選んで、二段階目の質量分析でそのイオンが断片化したものを検出・測定する。得られた情報から、もとの物質の種類、存在量を高精度に調べることができる。
■マトリックス支援レーザー脱離イオン化:物質とマトリックスを混合させ、そこへレーザーを照射して物質をイオン化させる技術。ここでのマトリックスは物質のイオン化を補助する物質のこと。イメージング質量分析に利用されているイオン化法の一つ。
■脱離エレクトロスプレーイオン化法:電荷を帯びた溶媒を組織切片上にジェット噴射することで物質をイオン化させる技術。イメージング質量分析に利用されているイオン化法の一つ。
■四重極-飛行時間型質量分析計:イオンの選択性の高い四重極型と質量分解能の高い飛行時間型の質量分析計を組み合わせたバイブリッド型の質量分析計。通常の質量分析に加え、タンデム質量分析も高精度に行うことができる。
■植物ホルモン:植物自身が合成し、植物内でさまざまな成長生理現象を制御している物質群。アブシジン酸やジャスモン酸類も植物ホルモンの一種。

▼研究に関する問い合わせ先
 帝京大学理工学部 バイオサイエンス学科
 講師 榎元廣文
 〒320-8551 栃木県宇都宮市豊郷台1-1
 TEL:028-627-7312
 FAX:028-627-7187
 E-mail:enomoto@nasu.bio.teikyo-u.ac.jp

▼取材に関する問い合わせ先
 帝京大学宇都宮キャンパス 総務グループ庶務チーム
 TEL:028-627-7106
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図1

図2