[東京農業大学]東京農業大学、他者を認識する社会記憶の神経メカニズムを解明〜自閉症の病態解明・改善等へ期待〜|The大学Times

[東京農業大学]東京農業大学、他者を認識する社会記憶の神経メカニズムを解明〜自閉症の病態解明・改善等へ期待〜大学通信 2017.4.18

【背景と概要】
 他者を記憶しておくことは我々が円滑な社会行動を営むために必要不可欠な能力である。しかし、他者を認識する「社会記憶」を脳に定着させるメカニズムは不明だった。本論文では、喜田教授らは、マウスを用いて社会記憶を固定化(定着)する脳内の神経メカニズムを解明した。興味深いことに、社会記憶は脳内の一箇所に貯蔵されるのではなく、海馬、扁桃体、前頭前野および帯状皮質に分散して貯蔵されること、特に、海馬が記憶を貯蔵する脳領域のネットワークのハブ(集積場所)として働くことを明らかにした。
 このような発見により、記憶は脳内の複数の領域に貯蔵されること、さらに、記憶のタイプ毎に貯蔵する領域が異なってくることが示唆され、脳内に記憶が保存される全容解明に近づいたと言える。  
 一方、社会記憶は社会行動(社交性)を決定する素因となるため、「自閉症」の病態解明と社会行動の観点からの改善方法の開発に寄与することが期待される。

【論文内容】
 マウスは鼻を相手に接触させて臭いを嗅ぐ行動をとることで相手を認識する。さらに、このような社会行動を行うことで、相手を記憶している。本論文では、この社会行動後に活性化される領域を、神経細胞の活性化に伴い発現誘導される初期応答遺伝子群の発現を指標にして同定した。その結果、海馬、扁桃体、前頭前野および帯状皮質では、十分な社会行動を行い社会記憶が形成されるような条件下において顕著な遺伝子発現が観察された。従って、この4つの脳領域における遺伝子発現が社会記憶の固定化に必要であることが強く示唆された。
 次に、社会記憶に対するこれら4領域の役割を解析した。それぞれの脳領域にタンパク質合成阻害剤を注入して遺伝子発現を阻害した影響を解析した結果、これら脳領域のどの領域の遺伝子発現を阻害しても、2時間程は相手のことを覚えているものの、一日(24時間)経過すると相手のことを思い出せないことが明らかとなった。従って、これら全ての脳領域が社会記憶の固定化に必要であることが初めて示された。
 最後に、これらの脳領域の役割の差異を検討するために、in silico(数理学的)解析を行った。各マウス個体内の初期応答遺伝子の発現レベルの相関性を指標にして、神経回路の機能的な結合性(脳領域間のネットワーク)を評価した結果、社会記憶を形成するために、脳内に海馬、扁桃体、前頭前野および帯状皮質を中心とするネットワークが形成されていることが明らかとなった(図(A))。さらに、脳内の2領域間の機能的な結合性(領域間のつながり)の強さを比較した結果、扁桃体と帯状皮質では社会行動の開始と共に他の脳領域との結合性が高まるのに対して、海馬と前頭前野では社会記憶を形成する際に他の領域との結合性が高まることが明らかになった。最後に、結合性の高い領域を抽出した結果、社会記憶が形成される際に、海馬と他の領域とのネットワークがより強固になることが初めて明らかとなった(図(B))。
 以上の結果から、マウスの社会記憶は海馬、扁桃体、前頭前野および帯状皮質の4つの脳領域に貯蔵されていること、特に、社会記憶の形成に伴い、海馬を要として扁桃体、前頭前野及び帯状皮質にまたがる記憶貯蔵回路が構築されて、この神経ネットワークに社会記憶が貯蔵されることが初めて明らかになった。従って、記憶は脳内の一つの領域に貯蔵されるのではなく、複数あるいはそれ以上の脳領域からなるネットワークに貯蔵されること、すなわち、記憶貯蔵の実態が明らかとなった。

<掲載情報>
【論文名】 Functional Connectivity of Multiple Brain Regions Required for the Consolidation of Social Recognition Memory
【著 者】 谷水俊之、Justin Wenny、岡野絵美子、門間和音、Paul Frankland、喜田聡
【雑誌名】 The Journal of Neuroscience
【公開日】 平成29年4月12日

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