【体育大学特集】スポーツへの期待に応えた体育大学の多様な取り組み|大学Times

大学Times Vol.14(2014年9月発行)

【体育大学特集】スポーツへの期待に応えた体育大学の多様な取り組み

少子高齢化社会で、スポーツへの期待がますます高まっている。地域や国際社会においても重要な役割を担っていくだろう。こうした社会の変化に応えて、体育大学もさまざまな挑戦を続けている。アスリートや教員・指導者輩出といった役割に加え、学びの領域や育成する人材もいっそう多様化している。昨今の動向を紹介しよう。

スポーツに対するニーズの多様化

2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。前回大会(1964年)から半世紀以上が過ぎ、人々のスポーツに対するニーズや意識も変化してきました。このことは、スポーツの秘める可能性がいっそう広がっていることを意味します。

2011年8月に施行された「スポーツ基本法」の前文は、“スポーツは、世界共通の人類の文化である”という言葉から始まります。さらに、基本理念では、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利であるとし、スポーツは、青少年の健全育成や、地域社会の再生、心身の健康の増進、社会・経済の活力の創造、我が国の国際的地位の向上等国民生活において多面にわたる役割を担うとされています。

平均寿命が80歳を超える高齢化社会においては、人々は意識してスポーツに取り組み健康を維持していく必要があるでしょう。とりわけ、幼児期からスポーツに親しみ、運動習慣を身につけていくことが有効です。このように、従来からスポーツと関連の深い教育や指導の領域においても、幼児・児童から社会人の生涯スポーツまでその対象が広がっています。

各体育大学や体育・スポーツ系の学部では、こうした社会の変化に対応したさまざまな取り組みを推進しています。体育大学の門を叩くにあたり、競技成績が優れていなければならない、卒業後のおもな進路は保健体育教諭やスポーツ指導者である、といった限定的な認識をまず払拭しておきたいと思います。

最先端のスポーツ科学に触れる

体育大学の華と言えばクラブ活動でしょう。国内外での選手たちの活躍がメディアでしばしば取り上げられています。それぞれ実績と伝統を誇り、各大学の特徴となっていることは言うまでもありません。

もちろん、競技力の向上は、学部学科での学びとクラブ活動が両輪となって実現されるものです。実技科目に加えて、トレーニング、コーチング、スポーツバイオメカニクスから、スポーツ心理学、スポーツ医学、栄養学、生理学、テーピング等のスポーツ外傷・障害の予防および保護まで、多面的に学ぶカリキュラムが用意されています。

例えば、スポーツ科学においては、測定によって得られたデータをどのようにしたら有効に活用できるかということが重要です。データの客観性は保障されているか、さらに問題点はないのか、深くデータを読み解く能力やデータを基に戦略を立案・実践できる能力が求められます。また、近年スポーツに限らずコーチングの概念が広く注目を集めています。旧来型の一方的な指導ではなく、対象者と対話しながら自立的成長を促すアプローチです。体育・スポーツ領域の研究は日々進化しており、優れたアスリートに囲まれながらこうした最先端の知見に触れることができるのも体育大学ならでは学びと言えるでしょう。大学院に進学し、研究を深める道も拓けています。

スポーツ推薦等が行われる中で、残念ながら入学後に自分の競技力に自信を失い、挫折から目的を見失う学生があることも事実です。しかし、スポーツを愛する気持ちは変わりないはずです。進路選択にあたり、スポーツに関わる研究テーマや学んだ知識や技能を活かす道は多様であることを、生徒には理解しておいてほしいと思います。

幼児・児童教育への展開

体育大学が教員・指導者養成に注力してきたことは周知の通りです。指導法や教育法、学級運営や生徒指導、心理や発達に関する科目を配置するとともに、教員採用試験対策等も充実した体制を整えています。多くの指導者が巣立ち、その知見やノウハウを日本全国に広め、生徒の体力向上や人格形成に主導的な役割を果たしてきました。

前述のように、少子高齢化社会において子どもの体力・健康の問題に関心が高まっています。幼児・児童期に、遊びを通して創造性を育んだり、人との関係性について学んだりすることはその後の人間形成に大きな影響を与えます。子どもの心身の成長にスポーツが大きな役割を果たすことは言うまでもありません。これまで以上に、幼児・児童教育(小学校教諭、幼稚園教諭、保育士養成等)への期待が高まり、体育系学部から独立させ教育系学部を立ち上げる例も見られます。

そもそも、子どもの体力は本当に低下しているのでしょうか。文部科学省のスポーツテストの結果を見ても、数値が顕著に変化しているわけではありません。エアコンの普及や公衆衛生の向上などによる身体的な防衛力の低下が、子どもの意欲や忍耐力に影響を及ぼしているという見方もあります。このようなことからも、幼児・児童教育に携わる指導者には、高度な専門性と、子どもの体の発達を生活や情操面も含めて総合的にサポートできる能力が必要です。実践の場が豊富な体育大学は、子どもに関わる領域を志す上で最適な環境と言えるでしょう。

健康、福祉への貢献

いわゆる社会体育も今後いっそう期待が高まっていく領域でしょう。野外活動、レクリエーション、高齢者スポーツ、障がい者スポーツなど、生涯スポーツの時代において貢献できるアプローチは多岐にわたります。社会体育系の学びでは、実習や地域社会と連携した活動を積極的に展開しており、そこで培った社会人基礎力はスポーツ関連以外の職業を目指す上でも大きな強みとなるはずです。

医療・福祉もスポーツと関連の深い領域です。養護教諭を目指すことができるほか、国家資格である社会福祉士の受験が可能な学部・学科・コース等を設置する体育大学もあります。医学や社会福祉を専門とする教員も在籍しており、大学院に進学しさらに高度な研究に取り組む学生も見られます。

これまで福祉は、支援が必要となってからそれにどう応えていくかという観点が主でした。しかし、超高齢化の時代を迎え、いかに健康を維持するか、病気や怪我を予防するかという観点が重要になっています。そこに、スポーツと福祉の領域が連携する大きな意味があります。

このようにスポーツは子どもから大人、高齢者まで、人の一生に深く関わっているのです。体育学部の学びが貢献性の高く裾野が広いものであることがおわかりいただけるでしょう。これまで、体育・スポーツ、教育、社会体育、健康・福祉といった従来から軸としてきた領域を見てきましたが、引き続き関連領域について紹介していくことにします。

スポーツに新たな価値を生み出す
スポーツマネジメント

スポーツを軸に教育、あるいは健康・福祉の取り組みを展開していくにあたり、行政や地域社会と連携しながら活動をリードしていく人材が不可欠です。例えば、生涯スポーツを推進していくためには、市民との関係性の構築、施設や用具といった環境整備、魅力ある企画立案など、スポーツに精通していることに加えて、高いマネジメント能力が求められます。行政、民間、地域における奉仕的活動等、活躍の場は多彩であり、体育大学もこうしたマネジメントやコーディネート能力を備えた人材育成に力を入れています。

オリンピック・パラリンピック、サッカーワールドカップやWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)をはじめとする世界大会の中継が人気を集めています。また、市民マラソンなどへの参加者も増え、用具やグッズへの関心も高まっています。情報化や健康志向により、スポーツを取り巻くビジネスは、今後もさらなる発展を遂げていくでしょう。

スポーツマネジメントの領域では、スポーツが生み出す価値を多くの人に伝えていく仕組みやノウハウの構築、コミュニケーション能力やマーケティング・企画立案能力の習得などを目指します。体育学という一領域を脱皮し、社会学、経営学、経済学、商学、文化・メディアなどの領域と関連しながら、学際的な学びへと展開しているのです。こうした研究・教育の中で、各種大会に選手を恒常的に輩出し、運営をサポートしている体育大学は大きな強みを発揮できるでしょう。

体育大学は多様な人材に期待

体育大学の使命は世界に通用する競技者養成が大きな使命であることは変わりありませんが、これまで紹介してきたように、社会のスポーツへの期待の多様化にともない、スポーツを軸に多様な人材を育成していくことも、今後いっそう重要になります。

スポーツが好きであれば、さまざまな学びのアプローチが体育大学にはあるのです。例えば、データの収集や分析が得意であればスポーツ科学の研究に活かすことができますし、社会や経済の仕組みに興味があればそれと関連付けてスポーツを活かす道を模索することもできます。さらに特に女子においては、舞踏やダンス、表現といった芸術・エンターテイメントの領域に魅力を感じる生徒もいるでしょう。生徒には、スポーツの競技歴や記録といったことに必ずしもとらわれず、さまざまな専門性や教養を身につけることができる場として、体育大学への進学を柔軟に考えてほしいと思います。

“スポーツを学ぶ”ということに加えて、興味・関心のあることを“スポーツを通して学ぶ”といった視点で考えてみることもいいでしょう。体育・スポーツという他者や社会への貢献がわかりやすいテーマを通して学ぶことで、それを活かす方向性も明確になってくるはずです。それに応える環境が体育大学にはあります。

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広がる卒業後の進路

中学校・高等学校の保健体育教諭、養護教諭、幼稚園教諭、保育士、地域やスポーツクラブ等での指導者、公務員の行政職や警察官・消防官・自衛官などに加えて、スポーツで培われたチームワークやリーダーシップを活かし、民間企業でも業種を問わず体育大学出身者が幅広く活躍しています。メーカー、卸売・小売、商社、金融・保険、情報・通信、交通・運輸、サービス業など、就職先も多岐にわたります。特に定着率の高さは、体育大学の学生ならではの評価と言えるでしょう。教員採用試験や資格取得対策、キャリア支援もきめ細かく行われています。

医療や健康関連領域での活躍も期待されます。従来からトレーニングコーチやアスレティックトレーナー等の進路を希望する学生は見られましたが、スポーツの裾野の広がりとともに、こうした仕事がより身近な存在となっていくでしょう。専門性が高い領域だけに、関連資格を取得したり先端知識を習得したり継続的な勉強が欠かせません。チーム医療やサポートが推進される中で、柔道整復師などの資格を取得し、コ・メディカル(医師以外の医療従事者)として治療に携わることもできます。いのちと直接向きあうだけに、使命感や責任感がいっそう求められる仕事です。

基礎的な勉強をしっかり学んでおく

スポーツが好きなことが必須条件です。さらに、部活動に熱中することだけに満足せず、生徒には各教科の基礎的な勉強にもぜひ取り組んでほしいと思います。

スポーツの学びがさまざまな広がりを持つだけに、高校での勉強が大切です。読む、書く、話すといったコミュニケーションやプレゼンテーション能力、資料やデータを読み解く力が求められるのは言うまでもありません。スポーツの情報化や国際化が進む中で、ITスキルや語学力も将来役立つでしょう。他の学問と同様に、問題を発見したり、仮説を立てて検証したり、物事を筋道を立てて考えたり、スポーツは非常に知的な営みなのです。どうしたら速くなるか、強くなるか、日頃の部活動においても問題意識をもって取り組む姿勢を習慣づけることが重要ですし、そのような学生はスポーツのどの領域を目指しても必ず伸びるはずです。各大学で行われているAO・推薦や一般入試においても、こうした点が評価されます。

競技面でも学修面でも、伸びしろが大切です。その意味でも、自分の実力や進路に限界を定めず、興味があることや得意なこと、身につけなければいけないことに積極的に取り組み、さまざまな可能性を探ることが期待されます。

いっそう開かれた体育大学へ

体育大学が今後いっそう課せられた使命を果たしていくために、スポーツ・教育・福祉等のさまざまな領域において、地域社会との連携がますます重要になってきます。体育大学がスポーツを軸とするコミュニティの拠点となることが期待されています。それが、ひいては地域の活性化や住民の健康増進、生活向上へとつながっていくのです。体育大学が持つ本格的な仕様のスポーツ・トレーニング施設も、地域のためにさらに有効に活用されるべきでしょう。

これまでも、スポーツ教室の開催や高大連携授業、スポーツイベントへの参画など、地域社会との活発な交流が行われてきました。今後はこうした取り組みをさらに組織的に展開して、体育大学が持つリソース(施設・人材・ノウハウ等)を活かし、地域社会に還元していくことが必要になるでしょう。全国で教員・指導者・公務員等として活躍する各大学が誇る卒業生とのネットワークも有力な存在です。同時に、さまざまな取り組みの中に教育の一環として学生がどう関わっていくかということも課題です。いわゆるサービスラーニング、アクティブラーニングと呼ばれる学びが、体育大学でもさらに推進されていくと思われます。

また、官民学が連携した研究の展開やその成果をすべてのステークホルダーと共有していくことも高等教育機関としての使命です。とりわけ、少子高齢化、地域コミュニティの衰退といった今日的な課題への取り組みは、教育、健康、福祉、防災といったさまざまな局面において極めて重要であり、体育大学への期待が高まっていると言えます。

国を超えた交流へ

アスリートの国際競技力向上は、国を挙げて取り組んでいる喫緊の課題です。体育大学も社会の期待に応えられるようさまざまな強化策を打ち出しています。ジュニア期からトップレベルに至る育成体制においても、出身者が指導者として尽力しています。

日本選手の活躍は、見る人に感動や希望を与えます。諸外国に我が国の存在を示すことにもなるでしょう。ところで、スポーツを通して人を勇気付け、国際社会に貢献する道は競技での活躍ばかりではありません。冒頭で示した“スポーツは、世界共通の人類の文化である”という「スポーツ基本法」の前文は、このことを象徴しているのではないでしょうか。

体育大学出身者には、海外チームでトレーニングコーチやアスレティックトレーナーとして活動する人がいます。JICA(国際協力機構)等のボランティアとして、途上国でスポーツの指導や普及に努める人もいます。将来の活躍の場は日本国内にとどまりません。

グローバル化が進む一方で、経済的格差や国際間の対立といった容易に解決できない問題が山積しています。世界共通のスポーツであれば、国家や人々の心の垣根を超えて、平和で豊かな未来の実現に貢献できるのではないでしょうか。

世界の人々と交流したり、先端研究の文献を理解するためにも、語学力は必要です。海外に日本の文化や伝統スポーツの魅力を伝えるために、自国について理解を深めることも大切でしょう。地域社会にとどまらず、国際社会への貢献もスポーツの大きな役割であり、体育大学では幅広い教養や国際性を養う教育にも力を入れています。

あらためて体育大学の強みとは

学士力、あるいは社会人基礎力といったことが盛んに議論されてきました。ここで重要なのは、習得した知識や能力をいかに実社会で活かすことができるかという視点です。この点において、実践の場が豊富にある体育大学での学びが非常に有効であることは言うまでもありません。実習や部活動において、計画→実行→評価→改善のサイクルを身を持って体験しています。そこでは困難や挫折を克服する喜びも実感していることでしょう。同時に、先輩後輩や仲間、子どもや高齢者、地域の人々との関係性の中で、日々の学びに取り組んでいます。実社会を生きるトレーニングが、おそらくは他の学問領域に比べ、きわめてリアルな形で展開されているのです。

近年は、体育大学というより、スポーツ総合大学という広い概念でとらえるほうが適切であると考えます。スポーツに関わるすべての営みを横断的に科学するといったとらえ方です。まさに、時代にふさわしい学問領域であると言えます。興味関心や将来の希望に応じた多様な領域を、スポーツという専門性を明確にしながら学べる点が強みであると言えます。さまざまな才能や個性がぶつかり合いながら、切磋琢磨できる環境があります。

【プロフィール】

川嶋 潤(かわしま じゅん)

取材ライターとして、大学・短大・専門学校等の進学情報媒体・広報誌・受験情報誌を中心に活動。
JCDA認定 CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)。
特定非営利活動法人 国際教育企画および専門学校にて、講師・キャリアカウンセラーとして学生・若年者の就職・進路選択支援にも携わる。