そもそも就職とは何か?全学を挙げたキャリア支援と可能性を広げる教育で“生き方”を見つける。−国際基督教大学(ICU)−|大学Times

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そもそも就職とは何か?全学を挙げたキャリア支援と可能性を広げる教育で“生き方”を見つける。−国際基督教大学(ICU)−

グローバル教育に必須といわれ、昨今特に注目を集めているリベラルアーツを、戦後間もない頃から実現してきた国際基督教大学(以下、ICU)。リベラルアーツの実践が、学生にどんな影響を与え、就職にいかなる恩恵をもたらすのか。また、どのようなキャリア支援を行っているのだろうか。その実態を、ICUで学生部長を務められ、学生支援にも詳しい布柴達男教授にうかがった。

就職とは生き方を見つけること

貴学ではどんなスタンスで、学生の就職支援に取り組まれていますか。

学生には、ICUで身に付けた、ものの見方や学ぶ姿勢を、どのような形で社会に還元できるかを考える一つの機会として、就職活動を捉えてほしいと考えています。その観点でみると、卒業生は重要なロールモデルになります。本学には、卒業生の同窓会が主催するキャリア相談会があります。参加者は30〜40代が多く、だいたい7、80人です。学生2に対して卒業生1の割合になるくらいの卒業生が、積極的に参加してくれます。一般的には業種別に集まるケースが多いですが、ICUでは「世の中にインパクトを与える仕事」「戦略を考える仕事」「困っている人を助ける仕事」といった具体的なテーマごとに卒業生が集います。

たとえば、「困っている人を助ける仕事」というと本当にたくさんありますから、テーマで考えて職業を探すと業種を越えたさまざまな仕事が見えてきます。しかし、単に業種だけで考えると、限定された仕事しか見えてこないでしょう。キャリア相談会で卒業生が話をする際にも、今の仕事が自分の生き方とどう絡んでいるか、ICUで学んできたことがどのように活かされているかに主眼が置かれています。転職した卒業生もいますが、さらに自分を活かしてこういう生き方をしたいという思いから、前向きな転職をするケースが多いです。つまり、本学で考える“就職”は、“生き方”と密接にリンクしています。

大学全体がキャリアセンター
〜充実の就職支援体制

就職支援や就業力育成として、他にも取り組まれていることはありますか。

国際基督教大学(ICU)

もちろん就職相談グループが中心となって、同窓会が主催するキャリア相談会以外にも、就職に向けた各種セミナーやガイダンスを積極的に行っています。たとえば、SPIや適職診断、筆記・Webテストといった就職活動をするうえで必要となる知識を提供するセミナーや、就職戦線の動向を伝えるガイダンスの実施などです。さらに、学生が卒業生から直接業界の話を聞ける場を提供するために、2005年からキャリアサポータズ登録を行っています。卒業生も非常に協力的で、現在約3,800人が登録しています。

また、キャリア形成支援行事の一環として、ICU PLACEMENT WEEK(学内合同説明会)を開催しています。これは、学生にさまざまなキャリアビジョンを提示しながら、就労意識を高めてもらうものです。あくまで学業を優先し、授業と重複して開催しないことを原則としているので、現在は春休みの間に実施しています。

他にも特徴的な取り組みとして、毎年11月の終わりに、ICU CAREER DESIGN WEEK(働くを考える)という、学生たちにいろいろな分野の仕事を知ってもらうための、あるいはさまざまなキャリアパスを考えるきっかけとなるためのイベントを行っています。まさに自分はどう社会に貢献するのかを問い、これからのキャリアを考えるための1週間で、職種や業界を知るための講演会や、企業提供型の仕事体感ワークなどを実施しています。このイベントの目的は、働くこと、つまり生き方を、さまざまな意見を聞きながら自分なりに考えてもらうことにあります。

以上のような取り組みに加え、ICUでは入学当初からものの考え方や学び方を、十分身に付けさせることに力を注いでいます。日々の学業も就業力を育み、生き方を見つけるための場になっているのです。このように、ICUでは、充実したキャリア支援と日常の学びが相まって、大学全体がキャリアセンターとして機能しているといえるでしょう。

リベラルアーツが可能性を開く

貴学は文理を含めたリベラルアーツを実践する日本でも数少ない大学ですが、その教育が学生に与える影響について、生き方を見つけるということも含めて教えていただけますか。

多くの場合、高校時代は理系・文系の枠に括られますが、ICUではその括りを自ら解放して学ぶことができます。こうした異なる背景を持った学生たちが対話することで、まったく違った切り口が出てきますし、文理を問わずさまざまな授業で論じあった後に、自らの専門分野をじっくり選べます。

生物がしたいけれど、物理や数学もやらなければならなくなるから、諦めて文系を選択したという学生は結構多いです。ICUであれば文系出身でも基礎科目で生物を取り、「やっぱり生物がしたい」と感じて、その道に進むこともできます。私の研究室の2014年3月卒業生の6人全員が、生命科学系の分野に就職・進学しました。卒論が終わった後のパーティで、6人全員がICUに入学する前は文系だったということを知ってびっくりしました。授業の中でも彼らが文系だったということは、全く感じませんでした。この体験からも、生物に限らず特定分野へのモチベーションを持った高校生は多いと考えられますが、早くに決めすぎて可能性を失ってしまっているのではないかと感じています。

論じあうことで磨かれていく自己

学生にものの考え方や学び方を身に付けてもらうために、普段の授業等で何を意識してされているのですか。

ICUでは、日々の授業の中でも、自らの生き方を見つけるための訓練になるような機会を常に用意しています。例えば、私は一般教育科目で環境研究を教えていますが、その中で「環境問題」をテーマにするにしても、なぜそんなことが起こっているのか、それが引き起こされることでどういう副産物が出てくるのかということも含めて、学生に自分で考える習慣を身に付けてもらえるように意識しています。

他大学では先生が教壇に上がって、一方的に講義するということも多いでしょう。しかし、ICUでは授業の中に常に対話があるのです。環境問題には、文理に関係なくたくさんの切り口があります。そうなると、一人だけで授業をすれば私だけの視点で教えることになるので、人文科学、自然科学、社会科学など、さまざまな分野の先生にご協力いただいて授業をしてもらうようにしています。その後、学生自身で「環境問題」を考えてもらうのです。そして、問題を解決するための小さな一歩でもいいから、自分たちで提案してプレゼンテーションを行います。これは、教室の中だけでやるのではありません。食堂にポスターを貼って学内中に呼びかけ、そこに集った人たちともディスカッションをします。その際には、私はいつも学長や大学関係者にもお願いして、できる限り参加していただくようにしています。そして、対話の中で得られた案を実際に実現させる学生も出てきているのです。

このような取り組みが、学内のさまざまな分野の授業で行われています。こうした経験を日常的にしていると、「今自分は何をすればいいのか」「将来どう生きたいか」を自然と考えるようになります。

学生数約2,600名だからできる教育
〜さらなる理想の教育・支援を

お話しにうかがったような、教育を実現するための鍵は何でしょう。

密度の高い教育を学生に提供するためには、授業を行う際のクラスのサイズが重要な要素になります。たとえば、大きなクラスで授業をすると、全員でディスカッションするのが難しいのです。私がかつて勤務した大学では、800人のクラスで授業をしたことがあります。しかし、ICUで担当している授業では多くて60人です。この人数であれば、授業中に出てきた問いに対して、グループでディスカッションしたり、お互いにシェアしたりしても時間内に収まります。話し合ったことをまとめて、他人に伝えるというプロセスは、自らを客観視することにもなりますし、さまざまなグループからフィードバックを得ることで、より多様な考え方やものの見方に接するチャンスにもなるのです。ICUが少人数の教育にこだわっているのは、このような対話が大切だと考えているためです。

また、ICUが3学期制であることにも意味があります。たとえば前期・後期の大学であれば2回しか科目登録ができません。しかし、ICUであれば3回機会があります。3回ということは、それだけいろいろなものを見るきっかけを作れるということです。さまざまなことがICUの仕掛けになっていて、それが就職や大学院進学、つまりどのように生きて社会に貢献するかに収束していきます。

一番難しいのは本学の理念を理解していただき、それに合った学生に入学してもらうことです。学力が高い学生という意味ではなく、ICUが提供する教育環境で、もっと自分を伸ばしていける人に来てほしい。そうすると、どんな入試をするべきかについてはもちろん、カリキュラムの改革や学生のサポート体制、キャリア支援についても常に考えなければなりません。初代学長は、「ICUは明日の大学だ」と言いました。自己をしっかりと持ちながら、さらに理想の明日に向けて、大学も学生も常に進化し続けています。