【これからの日本を変えるこの分野】京都造形芸術大学|大学Times

  1. 大学Times
  2. 特集記事一覧
  3. 【これからの日本を変えるこの分野】京都造形芸術大学

大学Times Vol.20(2016年4月発行)

【これからの日本を変えるこの分野 京都造形芸術大学】“社会と芸術”の関わりを重視した教育を推進 アートとデザインの力で社会を動かす

「藝術立国」という理念のもと、芸術やデザインの学びを通じて、人類が直面する困難な課題を克服する「想像力」と「創造力」を鍛え、社会の変革に役立てることのできる人材の育成を目標に掲げる京都造形芸術大学。社会性と柔軟な思考を併せ持った表現者を育てるには何を大切にしているのか?京都造形芸術大学の事務局長で全国の高校でも多数の講演を行っている吉田大作氏にお話をうかがった。

成長社会から成熟社会へ
正解の見えない時代に求められること

人口の増加とともに右肩上がりの経済成長を遂げた時代に社会で求められたのは、いかに正確に効率よく仕事ができるかというスキル。そのため、教育の現場でも、限られた時間内に効率よく「正解」に辿り着く能力が評価されてきた。しかし、現在の日本は人口のピークを過ぎ、少子化・高齢化社会を迎え、生産年齢人口の減少とともに内需も縮小している。また、国の「将来推計人口」によれば、東京五輪が開かれる2020年には、現在と比べ300万人減少すると言われ、2050年には3,000万人減少すると試算されている。人口の減少は、国内の内需縮小を加速させ、社会保障制度や地方自治体の存続にまで大きな影響を与えると言われている。つまり、現在は「正解を導き出すこれまでの方程式が通用しない時代」と言える。

「正解が見えない時代を生き抜くためには、自ら課題を発見する観察力を持ち、具体的な形や仕組みで解決策を生み出す力を身につけることが重要です。実はこれは芸術が最も得意とすることです。人口知能も含め、社会の構造はますます変化していきます。社会や企業が求める力も変わっていきます。“芸術大学は就職に不利”というのは固定観念であり、何十年も前のイメージに過ぎません。これからの社会を見据え、自身がそれとどう関わっていきたいのかをよく考えた上で進路を決めてほしい」と吉田氏。

「日本文化」の型から学び
本物の国際人として世界に羽ばたく

世界で活躍する日本人のアーティストやクリエイターは、必ずといっていいほど日本の歴史や文化に対する深い理解がある。歴史の中から先人たちの知恵や工夫を学び、伝統的な「型」を十分身につけた上で、その型を破り、新たな価値を生み出している。

そのため、京都造形芸術大学では、茶道・華道をはじめ、さまざまな伝統芸能の家元などを教員に迎えている。「教養科目」として日本文化の型から学ぶ授業は、和太鼓、琵琶、能、狂言、日本舞踊、水墨画など11科目。すべての学生に本物の日本文化を学べる機会を開いている。

「最近、よく“グローバル”という言葉を耳にしますが、その言葉には本来、“地球全体の”という意味合いがあります。私たちが目指すのは“インターナショナル”。つまり、自国の歴史や文化を大切にした上で、国際的な関係を構築すること。“英語を学び、海外体験をすること=国際人”なのではなく、自国の歴史や文化をしっかりと理解し、他国の歴史や文化に敬意を払い、共に新しい価値を生み出す人材を育成したいのです」

実社会とつながるプロジェクトで
“リアル”な気づきと成長をつかむ

京都造形芸術大学

企業や自治体から大学が依頼を受け取り組む「リアルワーク・プロジェクト」は、実社会の課題に取り組む、まさに“リアルワーク”。国内外の企業の新商品のデザイン開発や、自治体のまちづくり、医大付属病院と連携したホスピタルアートなど年間およそ50件を受託。そのどれもが依頼側が費用を支払う、実社会のビジネスそのもの。学科・学年を問わず、希望した学生が集結したチームで、依頼主の課題に応じながら解決策を考え形にするプロセスに、学生の大きな気づきと成長が得られるのだという。

京都造形芸術大学

すべての学生が使える共通工房の「ウルトラファクトリー」は、世界で活躍するクリエイターも同じ場所で制作をする刺激的な工房で、国や企業からも高い注目を浴びている。「ウルトラプロジェクト」では、作家の全制作過程のチームの一員として学生が参加することで、希有な経験から学生の自信が生まれている。

考えるだけでなく現場に入って行動し、芸術を通して社会に貢献

京都造形芸術大学

現在、地方の課題解決に向けて全国各地でさまざまな取り組みを行っている。
「よくご当地キャラをつくってほしいという依頼が寄せられますが、それををつくったところで、他の地域のようにうまくいくとは限りません。それは、地域の資源や抱えている課題はそれぞれ異なるからです。私たちはまずは現場に足を運び、地元の方からヒアリングし、リサーチするところから課題解決を始めます」

島根県隠岐郡の海士町は、本土からフェリーで3時間半の離島で人口の減少などの問題を抱える地域。現在、元気なまちづくりの事例として全国から注目を集めている。京都造形芸術大学は、そこでも歴史遺産の活用、芸術を活かした保育、空き家のリノベーション、カフェの運営、特産品の開発など、多面的な課題解決に在学生、卒業生、教職員が継続的に取り組んでいる。

瀬戸内海に浮かぶ小豆島では、瀬戸内国際芸術祭2013を契機に、単に芸術作品を展示して終わりではなく「観光から関係へ」をテーマに、住民、行政、アーティストやデザイナー、来島者が一丸となって「何度も訪れたい希望の島・小豆島」をつくりあげることを目指し、32億円もの経済効果をもたらす。これらの市町村ではプロジェクトに参加した学生が自治体の職員に次々に採用されるなど、現場での働きぶりが評価されている。

情報デザイン学科の卒業生である黒島慶子さんは、在学中から故郷・小豆島の課題解決をテーマにする中で、地元でつくる醤油の素晴らしさに気づいたという。現在、世界で唯一の醤油ソムリエールとして『醤油本』を共同出版するなど、醤油と小豆島の魅力を発信している。 私たちがめざす「芸術立国」とは、芸術を学んだ学生たちが、地域社会や日本、世界をよりよく変えていくことなのです。

日本のココが変わる

吉田大作 先生

例えば空き家問題のひとつを見ても、産業、雇用、福祉、交通、医療、教育の課題など問題が複合的に絡み合っている。その課題を抽出→見える化→点と点を結び、多様な切り口でアイディアを創出→問題解決する形や仕組みをわかりやすく提言する。その一連のプロセスを担えるのがアートとデザインの強み。本物の芸術を学び、想像力と創造力で問題解決をする人が世の中に増えれば、大きなエネルギーになる。

吉田大作 先生
京都造形芸術大学 事務局長

1年間に100本以上の講演依頼を受け、毎年国内外の2万人の高校生・大学生に講演を行う。大学では、全13学科21コースの学生を対象とした『キャリアデザイン』の授業を担当。「日本で最も高校生や大学生に直接講演をしている一人」と数えられる。その過程で得られた国内外の教育の現状やキャリア指導の視点から、日本の教育環境に対して様々な問題解決の提言を行っている。全国各地の高校から、「進路を検討する前に考えておくべきこと」「プレゼンテーションの鬼」「コミュニケーション」「問題解決ワークショップ」などの進路講演の依頼を受ける他、教員向けの研修、保護者向けの講演、企業や自治体での企画・広報・プレゼン研修なども多数行っている。