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【これからの日本を変えるこの分野 学習院大学 文学部哲学科】人文学がひそかに注目される今、混沌とした現代に大学の“源流”にある哲学を学ぶ意義を問う

実学を学び資格や技術を身につけようとする潮流が大学にもあるが、その一方で今、人文学が見直されている。TVで人気の町歩き番組は地理学や歴史学に直結し、人の心や心理を読む番組も散見される。大学の源流は哲学者プラトンが開いた「アカデメイア」であるとも言われており、混沌とした現代における人文学や哲学を学ぶ意義について、学習院大学で哲学・思想史を研究する小島和男准教授に伺った。

自分自身を良くするために、哲学を学ぶ

「もう大人なんだから…」は
2000年以上前から言われていた

学習院大学 文学部哲学科

最近は「役に立つ学問」「役に立つ人材」という言葉をよく耳にするようになりましたが、哲学では「役に立つとはどういうことなのか」ということから考えます。たとえば「幸せとは何か」「お金は幸せとどう直結するのか」ということに疑問を持つ人は、哲学的な思考の素地があると思いますが、時には人から「そんなことよりも、もう大人なんだから現実に目を向けて働きなさい」と言われてしまうかも知れません。しかし「もう大人なんだから…」というのは、ギリシャ時代から言われていたことです。実は2000年以上前も今も、そう変わらないのです。過去の哲学を学んで物事を俯瞰してみると、現代でもより真実に近づけるのだと思います。

自分が自分であるために
何をすれば良いかを追究する

2世紀の小説家で散文小説の祖と言われるアプレイウスは、“哲学のすすめ”として次のようなことを述べています。 「自分が“良くなる”のはどうしたら良いか。外見をカッコ良くしても数十年後には衰え、今ある財産も無一文になるかも知れないし、不慮の事故で身体の健康を損なうかも知れない。自分自身に一番近く、何が起こっても取り去れないのが教養であり、学問=哲学である」

つまりお金や良い暮らしのため、名声を得るために学問をするのは本末転倒で、自分の魂、言い換えれば自分自身を良くするために学問を行うのだというのです。

またローマの哲学者エピクテトスはかつて奴隷で、自分の考えや秘密を「権内」、手や足など肉体を「権外」と表現しています。「権外」である自分の手足はどうなっても、自分自身である「権内」は誰にも侵害されることない、という話です。自分が自分であるために心を鍛えるのです。

現在の人文学の中でも特に哲学や歴史学などは、現世の利益から離れた、ある意味での純粋さがあるのだと私は考えています。

「2000年以上答えの出ていないこと」から
若いうちに物事の“根本”を考える重要性

18歳から22歳という感性豊かな若いころに哲学を学ぶと、“より良い考え方”が身に付くかもしれません。たとえば盲目的に突っ走らなくなることや、物事を俯瞰してみるようになることで一面的な見方をしないので、冷静に判断できるようになるということです。物事の根本を考えるうえでも、実際の生活でも、これはとても重要だと考えています。

また「死とは?」「心とは?」「幸せとは?」「正義とは?」というような、2000年以上明確な答えが出ていない事が、世の中にはあるということを、過去の書物を読んで学びながら理解することで、安易に人に騙されなくなるかも知れません。氾濫する情報の中で、人はともすると影響されながら、自分にとって都合の良い方向に流されがちですが、考える力が身に付くことで「これで本当にいいのか?」と自分を疑い、反省するようになるのです。

どの大学のカリキュラムも、今後も教養科目の充実を図っていく方向だと思いますので、一般教養でも哲学概論をぜひ学んでほしいと思います。

卒業後の進路は倫理の教員も輩出
哲学的な思考を次の世代にも

本学の哲学科を卒業後は一般企業のほか、大学院へ進んで高等学校の倫理の教員になる者もいます。時代の流れで学生の気質も変化をしていますが、大学では研究室でもサークルでもいいから自分の居場所を複数見つけて、心が折れるまで思いつめる前に、先ずどこかへ逃げ込んで欲しいと思います。

また哲学科では「フィロラボ」という哲学カフェ(哲学対話の場)を設けて学生同士が語らいを持っています。外部の方も歓迎です。テーマは「友人」「  」(空)「私以外は私じゃない」など、フランクな内容です。Facebookやツイッターで発信もしていますので、ぜひ見てみてください。興味があって参加したい方はぜひぜひご連絡ください。
https://www.facebook.com/philolabo/
https://twitter.com/philo_labo

読書好きで「変わってる」「浮いている」人は哲学を学んでほしい

高校生活で、回りから「協調性がない」とか「変わっている、浮いている」と言われて困っている生徒さんは、ぜひ哲学科を目指してください。哲学とは個人的な学問ですので、各々の個を尊重しますし、同じような仲間が多く、決して浮いた存在にはならないでしょう。また、人文学系に進む場合、本を読むことが好きならば、総じて楽しく学ぶ事ができるはずです。

日本のココが変わる

小島和男准教授

「哲学に世界を変える力はない。世界を理解することと変えることは違うから」とはアメリカの哲学者トマス・ネーゲルの言葉ですが、今の日本に必要なことこそ、「理解すること」なのではないでしょうか。哲学はものの見方を変えてくれますし、これまで分かったつもりになっていたことがそうではないかもしれないということを教えてくれます。今まで無自覚に信じていた価値観を覆し反省する体験が、混沌としていく世界で自分が自分として生きるためにはまず必要だと思うのです。そのような体験をした人間が増えれば日本はまだマシになっていくでしょう。たぶん。

学習院大学文学部哲学科 小島和男准教授
学習院大学文学部哲学科卒業、学習院大学人文科学研究科哲学専攻博士後期課程単位取得退学後、学習院大学文学部哲学科助手を経て博士(哲学)取得。2009年 学習院大学文学部哲学科准教授に着任。
著書『プラトンの描いたソクラテス』(晃洋書房)『面白いほどよくわかるギリシャ哲学』(共著、日本文芸社)『西洋哲学の10冊』(共著、岩波ジュニア新書)