【これからの日本を変えるこの分野】多摩大学 経営情報学部|大学Times

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大学Times Vol.25(2017年7月発行)

【これからの日本を変えるこの分野】多摩大学 経営情報学部

VR(バーチャルリアリティ)という言葉を耳にするようになって久しい。直訳すれば「仮想現実」。ゲームセンターやユニバーサル・スタジオ・ジャパンRなどのテーマパークで体験している人も多いだろう。また、目元に装着してVRを体験できる3Dゴーグルも販売され、一般家庭でも簡単にVRゲームを楽しむことができるようになった。鳥のように世界中の空を飛んだり、自分が巨大な人間に変身したり、まさしく夢の世界を現実で体感できるのである。
存在しないものを体験できる技術は、これからの日本をどのように変えていくのか。多摩大学経営情報学部でVR技術を活用したシステム開発のゼミを主宰する出原至道教授に伺った。

日常サポートとして期待される近未来のVR技術

コンピュータは“道具”
科学技術を生活に直結させてより良い社会を提案する

多摩大学

大学時代の専攻は、都市工学という比較的新しい分野を選びました。特に大学院では、データ分析を中心とした「都市解析」という分野で、科学や技術と生活との直接的な関わりを研究しました。人間の生活そのものを対象とするような技術分野に関わりたいという思いがありました。

本学ではコンピュータそのものを研究するのではなく、コンピュータを道具として使いながら、人間の社会をいかにしてより良くしていくかということを考え活用しています。それには単なる技術の素養だけでなく、心理やデータ分析、経済、マーケティングまで含んだ知識が必要で、この点が経営情報学部で情報技術を扱う意味だと思います。これは多摩大学の基本理念である「国際性・学際性・実際性」のうちの「学際性」に通じるものです。

「合意できないこと」の事実に合意して
新たな気づきをもたらす

本学は小さい大学でありながら、教員の専門性があらゆる方向に向いていることが大きな特長です。教員同士の仲が良く、お互いが何を研究テーマにしているかを知っているので、「こんなことができないかな」と議論を重ねることもよくあります。私のゼミは開発系ですので「良いものを作る」ことが本分ですが、例えばマーケティングの先生からは議論を通じて「良いものを作れば必ず売れるわけではない」ことを学び、技術者でも開発だけでなく「こんなところで役に立つ」というところまで示す能力を身につける重要性に気づいていくのです。このような本学の持つ多様性が、社会に出てからの能力を高めています。

また開発系の学生だけで一つの集団を作るには人数が少ないことから、異なる分野の研究を行っている学生と一緒にチームを組み、協創して発表会などを行っていることも多摩大学の大きな特長のひとつです。他のゼミから刺激を受けながら自分たちの研究に活かすことも、ゼミ中心教育には欠かせない要素となっています。

エンタテインメントでは実用化
将来はスマホ不要で相手の情報を知るツールにも

VR(バーチャルリアリティー:仮想現実)には大きく分けて二つあります。一つはリアルに存在しないものがあたかもあるように体験できるもので、アトラクションやゲーム機などの分野で実用化されています。視覚と音だけでなく、触覚や嗅覚などを体験できる仕組みが実用化されつつあります。

もう一つは現実世界にVRが入り込んで自然な形で拡張するもので、例えば城跡を見学するときにタブレット端末をその場にかざすと、かつてこのように天守閣が建っていたと表示されるAR(オーグメンテッドリアリティー:拡張現実)技術があります。

現在は何かを手に持って操作することで情報を引き出していますが、今後は自然な行動の中で対象の情報がマンガの吹き出しのように表示されるなど、日常生活に入り込んだ生活サポートが実現可能となっていくでしょう。パーティ会場など初対面の人と相対したときにこの技術があれば、短時間でより深いコミュニケーションが望めるようになるかも知れません。

技術的発想とマーケティング的発想を使い分け
“絵空事でない”システム開発を実現する

技術系の発想の仕方は「積み上げ型」です。堅実な反面、飛躍したことを思い浮かべることが苦手なので、学生にはどうやって作るかではなく「こんなことができたらいいよね」だけを考える訓練を行っています。この中から毎年応募しているIVRC(*1 触って遊べる仕掛けを作る全国コンテスト)や、フランスで開催されるLavalVirtua(*2 ヨーロッパ最大級のバーチャルリアリティの祭典)への応募作品のテーマが生まれてきます。

アイディア出しが終わると、今度は全員技術者の顔になって、期限までに「動くモノ」をきっちりと実装していきます。厳しい審査を通過しなければ作品展示はできませんが、たとえば、Laval Virtualには2004年以降ほぼ毎年審査を通しています。

天然資源の乏しい日本はソフトウェア開発に重点を

VR技術が発達すると、コンピュータはその存在を意識させずに日常に入り込み、人間の感覚を拡張するようになります。たとえばほとんどの人にとってキーボードは不要になるでしょう。

その裏で行われている、大量のデータを集めて分析する技術の進歩は、これまで人間が到達しなかった新たな情報処理の扉を開きます。そこではコンピュータが“有能なアシスタント”として活躍します。現在、情報処理システムの分野はアメリカが世界をリードしていますが、これに対抗して、天然資源の乏しい日本が世界でイニシアチブをとるには、ソフトウェア開発に力を入れることが重要ではないかと考えています。

*1 http://ivrc.net/
*2 http://www.laval-virtual.org/

日本のココが変わる

多摩大学経営情報学部 出原 至道教授

「AI(人工知能)が発達するとエンジニアとしての働き方が変わる」という予測があります。現在のコンピュータはすべての人に対して同一のサービスを提供していますが、今後は各々にカスタマイズされたサービスを提供できるようになるでしょう。このサービスやシステムも結局は人間が設計・製作するので、すべての仕事がコンピュータに替わるわけではありません。10年後には技術者の仕事が変わりはじめ、20年後にはコンピュータの判断の方が明らかに正確で安心だということにはなるでしょう。

VRは医療や福祉の世界にも進出します。寝たきりの患者が3Dゴーグルを着けて別世界を体験することで開放感を得る仕組みが、フランスの起業家によって始まろうとしています。VRは、単に新しいもの好きな一部の人のものから、社会的弱者を含む広く一般の人々の生活を豊かにするものになっていきます。

多摩大学経営情報学部 出原 至道教授
東京大学工学部都市工学科卒、東京大学大学院工学系研究科都市工学専 攻修士課程修了、同博士課程修了。博士(工学)。多摩大学助手、准教授など を経て、教授。応用情報処理技術者。日本VR学会。仏検2級。