大学Times Vol.27(2018年1月発行)
昨年9月より施行された新しい国家資格「公認心理師」。受験資格の取得には、基本的に大学と大学院で心理系の学科を履修する必要があるため、高等教育の現場でもさまざまな動きが起きている。
現代社会において、心の健康バランスに悩む人の数は急増しており、その症例も複雑化・多様化が進んでいる。彼らへのケアをより確実に行うため、さまざまな分野において心理方面の支援を的確に行えるプロフェッショナルの育成が急務とされてきた。そのニーズに応えるべく、2017年9月15日に施行されたのが新資格の「公認心理師」制度である。従来の臨床心理系資格である臨床心理士や心理カウンセラーは民間資格だが、公認心理師は同分野における初の国家資格であるため、かかる期待や注目度も大きい。
文部科学省と厚生労働省が共同管理する公認心理師法では、公認心理師の行う業務について、以下のように定められている。
保健医療、福祉、教育その他の分野において、専門的知識及び技術をもって、
一 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
二 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
三 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
四 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
第一項から第三項までは、既存の臨床心理職の役割を定義したもの。第四項の「普及」「教育」という要素が、国家資格になる上で新たに付加されたものといえる。
公認心理師となるには、一般財団法人日本心理研修センターの開催する公認心理士試験の受験資格を得た後、試験に合格し、登録簿に登録される必要がある。
その受験資格については、以下の3通りの条件のどれかを満たす必要がある。
●大学で心理系の該当学科を履修のち卒業し、さらに大学院の該当学科も修了する。
●大学で心理系の該当学科を履修のち卒業し、さらに特定の施設※で2年以上心理系の実務経験を積む。
※公認心理師が主な対象とする「保健医療」「福祉」「教育」「司法・犯罪」「産業・労働」の5分野に該当する施設。具体的には、病院、診療所、介護療養型医療施設、児童福祉相談所、老人福祉施設、学校、裁判所、刑務所、生活支援センターなど。
●上記2つと同等以上の知識及び技術を身につけていると認定される。
また、受験資格の方針は以下の通りとなる。
●大学・大学院の該当する科目は、臨床心理学をはじめとする専門的な知識・技術があると証明できるもの。
●受験資格は大学院課程修了者が基本。それ以外の場合、それと同等の能力があると証明できるもの。
つまり、公認心理師の資格取得には、心理系の該当科目を持つ大学および大学院での修学が基本的に必須であり、2018年1月現在、多くの学校がカリキュラムの対応・調整を進めている。
なお、制度の施行前から既に大学に在学中または卒業後で、該当科目を履修済の人などに対しては、受験資格が取得できるなどの経過措置がしばらく適用される。
晴れて公認心理師の資格を得た者は、心理学に関する専門的知識と技術を有していることが証明され、「公認心理師」の名称で患者へのカウンセリングや心理査定などの仕事をすることができる。第1回の試験は2018年12月までに実施されることとなっており、その後も年1回のペースで実施される予定だ。
公認心理師に対応した、2018年4月からの新カリキュラムを構築中。心理臨床力を培う以外にも、社会調査士にも対応していく。
心理職人材の育成実績、カウンセリング研究所などの学内設備、教員人材を活用し、心理臨床のプロを社会に送り出すことをめざす。
2018年度以降の心理学科では、資格取得希望者に対して必要な講義科目が履修できるよう、2年次後期に資格希望者の登録を行い(必要に応じ選抜あり)、3年次より医療・福祉・教育・司法・産業の5領域の実習を行えるようにカリキュラムを準備中。
心理学のほぼ全領域をカバーする講義科目があり、大学院ともども、受験資格の取得に必要な科目全て履修できるカリキュラムを用意。公認心理師の養成に万全の体制で臨む。
受験資格取得にあたり、心理的支援を必要とする人々の役に立つ公認心理師として必須の資質といえる「科学的な心理学への理解」を、カリキュラムの肝としている。
2018年度入学生を対象に、公認心理師カリキュラムへの対応を含む、将来の進路に応じた教育体制を整備予定。
2018年度より同学部の人間心理学科が地域包括支援学科に組み込まれる。それに伴い、公認心理師養成に向けてカリキュラムの再編を行っている。
これら以外にも、多くの大学・大学院が公認心理師の受験資格取得のための対応を始めている。