【美大特集】武蔵野美術大学|大学Times

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大学Times Vol.29(2018年7月発行)

【美大特集】武蔵野美術大学 デザインがこれからのビジネスや社会を変革する力となる

武蔵野美術大学は、来春、造形構想学部ならびに大学院造形構想研究科を新たに開設する。新学部は、これまで武蔵野美術大学が独自の造形教育と教養教育によって培ってきた「創造的思考力」を駆使して、実社会に潜むさまざまな問題を自ら見出して解決し、世の中に新たな価値を創出できる人材の育成を目指す。学部新設の経緯、学びの領域や特徴、卒業後の進路などについて、長谷川敦士教授に伺った。

造形構想学部クリエイティブイノベーション学科 長谷川敦士教授

造形構想学部は社会の要請に応える
オルタナティブな美術大学の新提案

これまでデザインは、どちらかというとプロジェクトの後工程の表現手段としてとらえられていました。それは、これまで企業の事業開発やマーケティングというものは基本的に作られたものをいかにして売るかということに主眼が置かれていたことが理由です。つまり、企業の意思決定においてデザインは用いられていなかったのです。

しかしながら、昨今企業の事業開発の考え方は、ものではなく「体験」をいかに提案していくかという方向に変化してきました。「体験」は単に製品を利用する体験だけでなく、利用前にどういう状況なのか、どういった環境で利用するのか、どういった組み合わせで利用されるのか、と想定しなければならない要素が増え、複雑化してきています。

企業がこういった「体験」を提案することに方針を変えていくと、そこでは事業自体を考える際にデザインの考え方が必要になってきます。このビジネスで活用されるデザインの考え方は「デザイン思考」と呼ばれ、いま多くの企業が取り入れているのです。

この背景にはITの普及などもあり、ビジネスの回転のスピードが速くなって、あたかもゲームのルールや枠組みができる前に、ルール自体が変わってしまうようなことが起こっている。こうした社会やビジネスの変化に適応するために教育プログラムを再構築する、アプローチを変えたデザイン教育が求められていたのです。そこで武蔵野美術大学では、従来の美術教育が足りなかったから新しい学部をつくるのではなく、これまでとは違うもうひとつ別の考え方からデザイン教育を見直し、社会に適応する新たな造形構想学部をつくったのです。

多摩美術大学

自ら課題を発見し、新たな解決策や価値を導き出す実践的な知恵を修得

1・2年次は基礎課程を鷹の台キャンパスで学びます。この課程においてもっとも特色のある授業は、2年間を通じてアートやデザインの実技??造形教育を行う「造形実習」です。これは、見る力を養い、そして考えたこと、感じたことを表現できるようにするトレーニングで、このプログラムを通じて、ものごとを造形的に考える方法を学んでもらいます。また、学生にインスピレーションを与えるために、社会やビジネスの現場でデザイン思考を実践している方々とのトークセッションを行うことも予定しています。さらに、現代産業論を学び、デザインやテクノロジーがどのように産業と関わり、イノベーションを起こしてきたのかについて理解を深め、今後のデザインの活かし方を考えます。

3・4年次の専門課程は市ヶ谷の新キャンパスで、「創造的思考力」を実社会に応用するための具体的な方法を身につける2年間です。ビジネス、テクノロジー、ヒューマンバリューの3つの専門領域について、プロジェクトベースで実践的に学び、研究します。さらに、社会や企業における課題に対して、どうやって取り組んでいくかを学ぶプログラムとして「クリエイティブイノベーション演習」を設けています。学外の企業や自治体などと組んで、外部の人たちと共に、社会課題や企業の将来の姿などを探索していく産学のプロジェクト実践といった学びの場となります。社会との関わりをもちながら、実現性をふまえたプロジェクトを推進することは大きな学びとなるでしょう。これからの社会のなかでのクリエイティブな思考方法の活かし方を身につけてほしいと考えています。

こうした企業の課題を研究する場合、大学院造形構想研究科在籍のクリエイティブリーダーシップコースの院生とチームを組み、院生がリーダー、学部生がメンバーとなって、学生だけでプロジェクトに取り組みます。もちろんグローバルな視点も必要ですから、学生が積極的に海外留学やインターンシップを経験できるようなカリキュラムも用意します。

卒業後に考えられる4つのロールモデル

卒業後は、企業内で製品の使いやすさなどユーザーの側面から考えるUX(User Experience)デザイナー、技術的な側面から新しい技術をどう活かすかを考えるデザインエンジニア、デザインのスキルとビジネスを統合して考え、事業開発も行えるサービスデザイナー、そして起業やユニークな発想で社会問題を解決する起業家(アントレプレナー)の4つを、本学科の輩出する人材像として考えています。また分野としては、製造業の商品開発や商品企画、さらにサービスデザイン部門などをはじめ、情報通信業、社会システム関連分野、地方自治体などの公的機関など多様な分野で活躍することを期待しています。

クリエイティブ能力よりも社会課題に関心がある人こそトライしてほしい

美術大学の入試はデッサンなど造形力が必要だと思われがちです。しかし、本学科では特別な準備が必要な実技試験を課さない新しい入試制度を導入します。むしろ、一般大の入試と同じと考えていただければ結構です。入学後に造形教育はしっかりと学びますから、総合的に物事に取り組む、クリエイティブな問題解決に興味のある人が向いています。従来の美大受験の形や、文系・理系という分け方にとらわれないさまざまな入試制度を設けることで、多様な人材を迎え入れ、今までにない美術大学をともに創造したいと考えています。

武蔵野美術大学 造形構想学部
クリエイティブイノベーション学科

武蔵野美術大学

武蔵野美術大学は創立90周年を迎える2019年の4月、造形構想学部及び大学院造形構想研究科を開設します。造形構想学部のクリエイティブイノベーション学科では、ビジネス、テクノロジー、ヒューマンバリューの3つの領域を融合した学びを展開し、同時開設される市ヶ谷キャンパスにてプロジェクトベースの実践的な教育を大学院造形構想研究科と一体となって行います。こうした新たな美術大学としての試みの場といえる本学部・研究科で、「創造的思考力」を応用・発揮し、よりよい未来へのイノベーションを生み出せる人材を養成したいと考えています。