【社会への扉】女子栄養大学|大学Times

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大学Times Vol.29(2018年7月発行)

【社会への扉】難関採用試験の「養護教諭」 新卒合格率は全国平均の3倍を誇る女子栄養大学の強さの秘密

全国の小・中・高等学校において、各校1〜2名と就業者数の少ない養護教諭。免許状取得可能大学が増加の一方、採用試験は既卒者とも競合する中で、新卒生にはますます狭き門となっている。長年にわたり、国立大学の養護教員養成課程よりも多くの合格者を輩出しているのが、埼玉県の女子栄養大学であることをご存じだろうか。これまでに約1,500名の採用実績を誇り、卒業生は全国の国公立・私立学校で多数活躍している。保健養護専攻学科長の遠藤伸子教授に話を伺った。

女子栄養大学 栄養学部保健栄養学科保健養護専攻

学科創立時からトップ水準の採用実績を堅持

本学科は1980(昭和55)年の開設です。毎年60名前後が入学し、これまでに約1,500名の卒業生が養護教諭として採用されました。2018年3月卒業生も53名が採用試験に臨み、38名が養護教諭に採用されています。公立学校の新卒合格率の全国平均が13.6%(平成28年度卒業生公立学校採用データ)に対し、本学新卒者の合格率は34.4%(平成28年度卒業生)と約3倍の採用実績をあげています。

本学科では、子供の成長と健康に不可欠な栄養教育をはじめ、看護学の経験豊かな教授陣による医療的ケアも行える教育者を育成しているのが大きな特徴で、今日の多岐にわたる養護教諭の仕事に必要な知識と技術、すべてを学ぶカリキュラムを編成しています。

現在、全国160以上の大学で養護教諭一種免許状が取得できますが、体育や看護、こども教育、心理学系学部で追加科目を履修し、他の資格・免許の二次目的に取得するケースも少なくありません。国立大学の養護教育教員養成課程の定員も10〜30名程度で、実際に教員採用試験を受験する学生は半数程度と聞いています。

時代とともに複雑化する子供の健康課題

女子栄養大学 栄養学部保健栄養学科保健養護専攻

養護教諭は、子供たちの成長と心身の健康を支援するのが仕事です。時代の流れとともに子供の問題も変わり、年々複雑化しています。第二次世界大戦後、養護教諭が全国の学校に赴任した当初は、感染症対策と栄養改善が大きな課題でした。昭和30年代以降からバブル期までの高度成長期は、う歯(虫歯)と肥満に対する指導が増え、その後はいじめ、自殺、暴力、不登校、さらにこの5年で食物アレルギーによるアナフィラキシーショックなどへの適切な対処も重要課題となっています。このように、子供たちの心身の問題は複雑で多岐にわたっており、養護教諭の役割と仕事は年々増大する傾向にあります。

また子供たちへの「食育」も、重要課題のひとつとなっています。在学中に修得した豊富な栄養知識[保健養護専攻は栄養学部に属し学士(栄養学)として卒業]を子供たちに伝えることができるのも、本学の大きな強みではないかと考えます。

学校現場の問題を踏まえ保健室を“運営”する

養護教諭は、ヘルスアセスメント(心身の健康状態を的確に分析し問題の有無を判断)能力も求められています。たとえば、食物アレルギーを発症した際の重症度・緊急度のアセスメントなどです。その他、子供の誤食事故が発生したケースを想定した研修の企画など、養護教諭が中心となって、緊急事態に対処するための学校全体の体制づくりを担っています。他の先生方も救急通報や経緯記録などさまざまな役割が求められているため、不測の事態に備えた「校内研修」を執り仕切るのも、養護教諭の仕事です。

また「チーム学校」という考えのもと、地域社会の人々やスクールカウンセラーなど専門家を学校に取り込み、子供の健康と成長を皆で見守るという取り組みが行われていますが、ここでも養護教諭はコーディネーターとしてマネジメントを行います。多くの人を動かし、保健室を運営する能力も求められています。

使命は「子供たちに寄り添い、護る」こと

3年以上勤務した養護教諭は、兼職発令を受けて保健の授業を行うこともできます。今日では栄養、性教育、薬物、がん教育、歯、AEDなどの救急対応、発達障害や性同一性障害など、授業で扱う項目が増加しています。切実でデリケートな内容もあり、子供たちへの健康教育がますます重要になるだけでなく、養護教諭が取り組む課題も広範囲になっているのです。昨今、子供の貧困問題が顕在化していますが、栄養状態の問題に留まらず、自己肯定感の弱さが目立つ傾向にあることから、こころの問題へも波及しています。

このようにさまざまな問題を抱える子供たちに寄り添い、護るのが養護教諭であり、人柄形成にも寄与する職責を担っているのです。

現場の“声”を授業に
採用試験対策の蓄積も

全国で活躍する本学卒業生からの声を、学科の授業や採用試験対策に役立てています。現場のニーズをタイムリーに把握でき、現在重要視されている課題を授業に反映することで、採用試験突破の大きな力になっています。さらに、先輩達が残した詳細な受験報告データは全国にわたり、各地の採用試験ノウハウが蓄積されているので、安心して受験準備に臨めます。

女子栄養大学 栄養学部保健栄養学科保健養護専攻

養護教諭同窓会と在学生の相互支援

本学には「あさば会」という、本学を卒業した養護教諭の同窓会があります。セミナーや講演を催したり、情報発信や大学院進学の支援、研究指導も行っています。セミナーでは年々多様化する子供への配慮を学ぶべくLGBT(性的少数者)の方を招いて話を聞いたり、日々発達する医療ケアについても学びました。また同窓会を通じて、卒業生から保健室でのアルバイト(健康診断や移動教室など)や学生ボランティアの要望を受けることもあります。学校体験学習とは別に、学生は在学中から学校の現場に携われるだけでなく、活躍する先輩の姿を目の当たりにしながら、就業意識を高めることにも繋がっているようです。

さらに本学は養護教諭として活躍する卒業生が全国にいますので、受験する都道府県の採用試験についてアドバイスをもらうなど、卒業生と在学生がお互いに支援しあう関係が構築されているのも、特色のひとつではではないかと思います。

やり甲斐ある女性の職業としても有望

養護教諭は女性限定の職業ではありませんが、養護教諭として就業する人のほとんどが女性で、男性の養護教諭は全国で65名ほどです。近年、女性の社会進出とともに晩婚化や非出産が進んでいますが、家庭を持った養護教諭の中には出産後に復職をする人が多くいます。仕事の内容が「生きるために必要な知識」に直結していることから、家庭生活での経験も実務に生きる職業といえるでしょう。

養護教諭は保健室で一人で仕事するイメージがあるかもしれませんが、校内や地域社会も含めて仲間づくりが重要になります。積極的にコミュニケーションのとれる高校生に、ぜひとも本学で養護教諭を目指していただきたいと思います。