【大学ism】法政大学|大学Times

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大学Times Vol.28(2018年10月発行)

【大学ism】本学の「私立大学研究ブランディング事業」を語る@大学全体の研究とブランディング事業を一体化した「新・江戸東京研究」拠点形成 〜法政大学〜

「各大学の差別化」が課題となって久しい。大学の「顔」が見えにくい現状に一石を投じたのが、2016年に文部科学省がスタートした「私立大学研究ブランディング事業」である。学長のリーダーシップのもと特色を打ち出して学際的に研究に取り組み、その成果を広く発信するというものだ。政府の公募助成事業であり、厳正なる審査を経て採択された大学では、現在どのように取り組んでいるのだろうか。法政大学の田中優子総長と江戸東京研究センター長の横山泰子教授に話を伺った。

大学独自のブランディング制定と公募が重なる

本事業の申請経緯について、田中総長は次のように述べている。
「本学では2014年から長期ビジョン「HOSEI2030」のもと、本格的にブランディング・ワークショップを進めながら次の時代の法政大学のイメージを作り続け、今日に至っています。その過程で「私立大学研究ブランディング事業」の公募がありました。本学の特色が活かされる良い展開ができるとの判断から申請し、「江戸東京研究の先端的・学際的拠点形成」という目標をかかげて、2017年度に採択されました」

法政大学

工学・文化学両面での研究を発掘し
結合させた江戸東京学

法政大学は江戸文化研究の歴史が長く、源流は1940年代の近藤忠義(名誉教授)に遡る。また1980年代には建築・都市の研究者の陣内秀信特任教授が「江戸東京学」で活躍し、水都研究の拠点「エコ地域デザイン研究センター」を、田中優子総長は江戸文学・アジア比較文化研究者として同時期に「江戸学」をスタートさせ、「国際日本学研究所」で江戸文化・江戸文学を新しい分析で推し進めた経緯がある。長年の多分野にわたる豊かな研究成果が、江戸東京学の基本的な姿勢として息づいている。

「江戸東京学という現在の概念は、本学の研究成果が寄与しています。そのひとつは、江戸の文化や文学は明治維新で分断されることなく、通時的に500年として捉える点です。ところが、これまで本学の江戸東京研究は各学部で行なっていましたので、優れた研究が点在している状態でした。そこで工学系と文化系がバラバラに研究していた江戸東京学を一つにつなげて、新たな展開をはかるのが、本学における新・江戸東京研究です。各学部に長年蓄積された研究を発掘し、分野を結合してお見せすることで更に育てていこうという取り組みこそ、本当のブランディングであると考えます」

「新・江戸東京研究」というメッセージは
一般市民の関心を引き寄せる魅力も

本事業で特筆すべき点は、すでに月1回以上のシンポジウムや研究会を催していることだ。江戸東京研究センター長、理工学部の横山教授は次のように述べている。
「研究チームを4つのプロジェクトに分け、それぞれの研究内容を持ち寄って議論を重ねています。私のチームでは、本学が東京にあることの意味を考え、“江戸東京のユニークさ”を発見することを研究目的のひとつとしています。ユニークさとは珍しさであり個性です。

他のチームは東京の財産としての水辺に注目する研究や、明治以降西洋アートとテクノロジーを学び導入した東京独特の共存を検証、さらに都市東京の近未来研究に至るまで様々な研究に取り組んでいます。文理融合の研究ですので、最初は議論がかみ合わないこともあり、それを一つずつ繋げていくことに意味があると考えます。

現在、シンポジウムや研究会では700〜800名収容のホールが毎回いっぱいになり、研究者のみならず一般の方も多数来場されています。平素の大学シンポジウムでは考えられない盛況ぶりで、江戸東京には多くの人が関心と親しみをもっていることを実感しています」

研究の集積と新たな情報を地図化する

法政大学

「江戸東京研究の先端的・学際的拠点形成」をめざして採択された本事業は、5年の支援期間を設けている。本事業計画書(江戸東京研究センターwebサイトに公開)には「研究成果の刊行・発信」と明記されているが、そのひとつに聖地地図、妖怪地図、アニメ地図といった主題別地図の作成がある。田中総長はその目的と今後の展望を次のように説明する。

「空間と時間(歴史)、地形など地域文化の情報を集積して表すには、マッピングが有用になります。たとえば都市部に巡らされた堀や運河は船による物資輸送の歴史であり、水源は本学多摩キャンパスの地域です。また市ヶ谷キャンパス目前の外濠は、浄化と水辺の活用が課題であるなど、本学で集積された基礎研究に新たな情報を加えて、東京に集まる多くの外国人や日本人にとっても興味ある地図の作成を想定しています。さらに現代の東京の魅力については、サブカルチャーやアニメなどの情報は、高校生など若い人にも参加してもらうことで、学際的な学びの楽しさを知るきっかけとなり、研究者も新しい発想を受け取れるかもしれません。

最近はシンポジウムに参加した一般市民の方から「今後の東京の在り方をぜひ提言してほしい」とのご意見も頂戴しています。研究者の視点から東京の理想像を示すこともおもしろい試みではないでしょうか」

学生は東京での4年間を大切に過ごしてほしい

横山教授は、本学進学をめざす高校生に「東京の大学で学ぶこと」の意味を考えて受験してほしいと希望している。

「東京は世界屈指の持続的な文化都市であり、たとえば一年中歌舞伎や寄席が観られるなど、江戸東京の文化に触れる機会にも恵まれています。本学学生には、せっかく東京の大学に入学したのだから、自分が今ここにいる意味をかみしめて、東京で経験できることを楽しめるありがたみを感じながら過ごしてほしいと話しています。本学キャンパスも国際化が進んでいます。東京にいながら外国人の友だちもできるでしょう。本学には「学問を楽しむ」という、大学ならではの学びのフィールドが用意されていますので、知らないものを見聞きし、考えることの楽しさを学びたい高校生は、ぜひ本学をめざしてもらいたいと思います」

「私立大学研究ブランディング事業」とは

政府の公募助成事業。文部科学省は「研究を研究者個人の学術的な側面だけに留まらせず、大学の組織的な取組へと昇華させ、全学的な看板となる研究を推進し、その成果をもって、大学の目指す将来展望に向けて独自色や魅力を発信する取組」と位置付け、2016年と2017年で合わせて100校の事業を採択(公募数に対して3割程度)。各大学の学長がリーダーシップを発揮し、成果を広く発信することが義務付けられている。支援期間は3〜5年であることから、今後は研究成果が広く発信され、知識の共有のみならず受験生や留学生の大学選びの新たな指標になることが期待されている。2019年度は新規公募が見送られることが決定した。