【リベラルアーツ教育特集】学長インタビュー 国際基督教大学(ICU)|大学Times

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大学Times Vol.32(2019年4月発行)

【リベラルアーツ教育特集】学長インタビュー 国際基督教大学(ICU)

今から70年前、日本初のリベラルアーツ・カレッジとして開学した国際基督教大学(ICU)。以来パイオニアとして道を切り拓き、その独自教育は現代社会のさまざまな課題を解決するべく、頼もしいグローバル人材を多数輩出している。日比谷潤子学長に話を伺った。

高校生のうちから自分の進路を
絞り込まなくていい

本学では、入学当初から「自分は将来何をしたいのか」を1つに絞らなくてもいいのが特徴のひとつです。高校から大学の学びを経て、その後の長い人生の中で「自分が何をしたいのか」は、変わっていくものだと捉えています。高校生のうちから将来の目標が定まっている人ばかりではではなく、本学の学生でも、入学当初の希望と3年生からのメジャー(専攻)が変わるといったことは珍しくありません。1,2年生では、あらゆる分野を幅広く学ぶことで初めて学問の実体に触れ、その中から興味のある分野をメジャー(専攻)として選択し、専門知識を深めていくというリベラルアーツの良さがあるのです。

時間割作りから「考えて選ぶ」トレーニングが始まる

ICUでは、自分で学びたい科目を1から決め、組み合わせていきます。学生の時間割作成が選択の訓練になっているのも、リベラルアーツの良いところだと思います。限られた時間の中で優先順位を決め、組み合わせ方を考えていくプロセスを学ぶことは、その後の学生生活でのさまざまな「考えて選んでいく」ことに繋がっていくからです。選ぶことは同時に捨てることでもあり、たとえ選択したことがベストでなかったとしても「これは間違いだった」と悔やむことなく、軌道修正ができることを学ぶきっかけにもなるのです。

少人数教育は「議論する力」を育む

リベラルアーツは「少人数で議論する力」も身に付きます。本学では教員と学生の比率が1:20という少人数教育を行っており、全員が濃密なコミュニケーションをもって授業に参加します。学生は皆、事前に文献を読み、講義を聞いたりする中で、「本当にそうなのか」と検討し、考え直すような習慣が身に付くのです。また学生同士でグループワークを行う機会も多いのですが、そこでは相手の話を聞き、自分の考えも話しながらまとめていくといった協働する力も育まれます。
本学ではこれを日本語と英語でできるようになることをめざしています。

複数言語を学ぶ目的は“他者理解”にあり

リベラルアーツのもう一つの特徴は、異文化・多様性の人間理解にあります。複数言語を学ぶのも、そのための手段と捉えています。たとえば同じニュースでも英語版と他言語版の両方を読むと内容が異なるといったケースがあり、一面的な情報だけでは正しい理解や判断ができないことに気づきます。また将来、海外で仕事をすることになった場合、アルファベット以外の言語圏では、地図も読めない状態からスタートしなければなりません。自分が外国人となり、言葉がわからない経験をするのです。成人してからの言語学習は、時間も少なく困難を極めるので、大学生のうちから英語以外にも外国語を学ぶ習慣を身に付けることは、卒業後の大きな力となるでしょう。そして異文化・多様性をもつ人々の状況や気持ちを理解することで、ひいては平和に貢献する人材の輩出にも繋がると考えています。

本学1年生の英語のプログラム(リベラルアーツ英語プログラム)では、日本の学生だけでなく英語を母語としない国の留学生も一緒に20名程度で行いますので、ここからもグローバルの現実を実感できます。濃密なコミュニケーションで進む少人数の授業から必然的に彼らを見る目も変わり、同じ困難を共有しながら、相手の立場に立ち、“他者理解”の心を育んでいくのです。

高校→大学→企業就職の“単線型人生”の終焉へ

昨今はリベラルアーツ教育が経済界で注目されていますが、本来リベラルアーツとは、企業就職に限定的な学びではありません。リベラルアーツという学問分野があるのではなく、多くの学問の中から自分で選んで、幅広く深く学ぶのがリベラルアーツです。哲学や歴史を学ぶのがリベラルアーツと思われている方もいますが、幅広い分野の一部にしか過ぎません。人文科学、社会科学、自然科学をバランスよく学ぶことによって論理的・科学的思考を育み、相手の立場に立って話を聞く力を養い、自ら進んで行動する術を身に付けていくのです。本学の学生は企業就職だけでなく、約20%は大学院に進学しています。その他にも独立起業をはじめ数年後に企業を退職後、リカレント教育で専門知識を深め医師や弁護士の国家資格を取得したり、NGO団体で活動したり、作家など創作の道に進む人もいます。卒業後の長い人生において選択肢をより多く持ち、自ら行動に移せるのも、リベラルアーツ教育の成果であると考えています。

このように本学卒業生の進路状況からも、高校から大学へ進学し、全員が一斉に就職するといった“単線型人生”は終わったと捉えており、リベラルアーツによって人生を自由にするための、大学の4年間では終わらない“学びの基盤”が醸成されるのです。さらに企業就職についても今ある仕事に就くのではなく、時代の変化を見据えた、新しい仕事を創造できる人材になってほしいと考えています。

今は情報が氾濫し、中には入学前から「1年生のうちからすぐにインターンシップに行かなければならない」と考えている学生や保護者の方もいますが、企業就職ばかりに心を奪われることなく、4年間の大学生活をより実りあるものにしてほしいと思います。

「話す」ためには先ず「読む」ことが必要

本学学生は「はっきりとものが言える」「大人と話すのがうまい」といった良さがあり、これは少人数教育の成果ではないかと考えています。自分の意見を言えるのはグローバル社会では必須であり、世代の異なる人とのコミュニケーション能力は、ビジネスにおいても生活面でも大きな力となります。

リベラルアーツの学びに共通するのは、日本語でも英語でも「文章を読む」機会が多いことです。読まなければ、書くことも話すこともできませんので、高校生のうちから興味のある分野について書かれた新書を読む習慣をつけると良いでしょう。

英語が苦手でも他の得意科目のある人は
チャレンジしてほしい

本学一般入試の英語試験が難しい、という声をよく聞きます。確かに外部試験の得点スコアを高く設定した入試方式もありますが、決してそればかりの学生を求めているのではありません。本学では主に日本語を母語とする学生は入学後、英語の習熟度別に分かれて少人数でしっかり学ぶので、入学後に学生の英語力が伸びるのです。むしろ、今は英語が苦手でも、数学など他の得意科目があるという高校生にも、ぜひ本学をめざしてもらいたいと思います。そのためには、受験対策よりも平素の高校での教科書学習をしっかりと行い、その他はメディアなどで自然な英語に触れるのもいいでしょう。「聞く」「読む」題材のボリューム感は必須になりますので、先ずは少しずつ英語に慣れることから始めてください。

国際基督教大学 学長<br>日比谷 潤子

国際基督教大学 学長
日比谷 潤子(ひびや じゅんこ)

ペンシルヴェニア大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。慶應義塾大学国際センター助教授、ダートマス大学客員准教授、国際基督教大学准教授、教授、学務副学長 を経て2012年学長就任。日本学術振興会評議員、日本私立大学連盟常務理事、日本産学フォーラム委員、文部科学省大学設置・学校法人審議会大学設置分科会委員、第10期央教育審議会委員。著書に「日本語教育の過去・現在・未来 文法」、「はじめて学ぶ社会言語学」など。専門は社会言語学。日本学術会議連携委員(言語・文学)。