【リベラルアーツ教育特集】学長インタビュー 玉川大学|大学Times

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大学Times Vol.32(2019年4月発行)

【リベラルアーツ教育特集】学長インタビュー 玉川大学

日本のリベラルアーツ教育は米国リベラルアーツ・カレッジを源流とする教育機関が多い中、総合大学で初めて「リベラルアーツ」学部学科を設置した玉川大学。そこには新時代を見据えた人間教育が垣間見られ、他学部とのシナジー効果もあるという。小原芳明学長に話を伺った。

英訳できない学部名は時代に合わない
冒険だった「リベラルアーツ学部」新設

今から30年ほど前、「男女雇用機会均等法」施行を契機に、女子の四年制大学への進学志向が高まりました。そこで本学では次世代を見据え、併設の女子短期大学を段階的に改組することになりました。2003年に教養科を大学へ移行発展させる際、英語でも通用する新しい学科名を検討しましたが、日本語の「教養」にあたる適切な英語がありません。日本の大学も国際化の動きが強くなり、グローバル時代に対応した新しい名称を検討した結果、米国大学の学士課程の名称「リベラルアーツ」をそのまま据えることとし、文学部にリベラルアーツ学科として発展的に改組しました。4年後には文学部から独立、リベラルアーツ学部を立ち上げて今日に至っています。

昨今は産業界が、人材育成としてのリベラルアーツ教育に注目しています。しかし本学が「リベラルアーツ学部」を設置した当初は名称自体に馴染みがなく、冒険だったと記憶しています。グローバル化が進む今日、他国企業の採用では学生が「どこの大学」ではなく「何を専攻した」のかをみるのが当然であり、これまでの採用方法では対応できなくなっているのではないでしょうか。ようやく、本学の意図と時代が繋がってきたように受け止めています。

専門分野を学ぶ前に
幅広い学問を体験する必要性

本学がリベラルアーツ学部を立ち上げた理由は、「大学でより多くの学問に触れ、その中から深く学びたい分野を選択する」ための“学びの入口”を提供したいという思いからでした。高校生のうちに将来の職業を決め、大学に入学する人ばかりではありません。さらに中等教育で学ぶ分野は限られていますので、高校で体験していない学問分野から「大学で何を学びたいか」と選ばせること自体が難しいのではないかと考えました。そして高校と大学の学びの違いから、「こんなはずじゃない」といった選択分野のミスマッチを未然に防ぐことも可能になります。

高等教育に進学する若者の比率が高くなったことで、専門家教育は大学から大学院の修士・博士課程へ移行し、学士課程こそ幅広い学びが必要ではないかという考えを持っていました。実際に米国でMBA(修士)を取得する学生たちは、その前にビジネス以外の学問分野を幅広く勉強しています。そこには「ビジネススクールでは専門的な勉強しかしないので、その前にあらゆる学問を身に付けてくるように」という背景があり、皆がリベラルアーツ教育を修めているのです。

企業人に問われる「倫理観」を育み
考えるヒントを見つけ出す

これまで日本の大学生は、企業就職に直結した学部で学び、卒業後には企業の戦力として社会に進みました。ところが産業発展が加速する今日、かつての日本企業のような公害問題や会社ぐるみの不正、欠陥隠しなど「自分たちさえ良ければいい」とばかりに、倫理観の欠如した経済活動優先の企業が世間で通用する時代ではないのです。今後IT技術がさらに進めば、ますますその傾向が強くなるでしょう。

リベラルアーツが浸透する欧米では、文学、哲学、宗教、芸術などさまざまな分野から、ビジネスのヒントを得るべく行動することは珍しくありません。たとえば企業の経営幹部が美術館へ通い、美の価値観やバランス、全体のデザインなどから、ビジネスに繋がるさまざまなアイデアを得ようとしています。今の日本でも幅広い知見からビジネスのヒントを得て、“深く考えて行動する”感覚を育むことが重要だと考えます。

コミュニケーション力として学ぶ
「AIとの接し方」と「ELF」英語

コミュニケーションの在り方も大きく変化しています。IT技術が進みコミュニケーション手段が増えましたが、人の間にデジタル機器が常に介在し、相手ではなくてモノをみている状態です。変換できない感情の機微は切り捨てられ、日本独特の謙遜表現は、欧米人から「卑怯な言い方だ」と非難をあびてしまいます。家庭用AIスピーカーなど「AIとの会話」が実用化される今だからこそ、長年人間が営んできたアナログ的な会話との違いから、AIとの埋められない壁を正しく理解することも必要だと考えます。

また今日、英語そのものが変わってきています。本学では全体の英語教育の方針として『ELF(English as a Lingua Franca)』を導入しました。これは、「共通の母語を持たない人同士のコミュニケーションに使われる英語」を修得する学修方法です。たとえば日本人とドイツ人のように互いの母語が異なりますが、コミュニケーションのために“英語”という共通言語を学びます。グローバル化が進む現代社会では、英語を使用する人口の80%は、日本人と同様に英語を母語としない人々です。そのため、世界の多くの人と話すために、ネイティブスピーカーのような“完璧な英語”が必要なのではなく、多くの人と意思の疎通が図れる“使える英語”を修得するプログラムなのです。これは高校までに学ぶ英語とは異なり、実用的でグローバル社会の現実を知ることにも繋がります。

各学部が“サイロ化”から脱出し
シナジーを生む学修体制をめざす

玉川大学

総合大学の問題点は、各学部が“サイロ化”することです。それぞれが「自分たちの世界」になってしまい、研究財産も長年貯蔵され他に活用できないのは残念なことです。そこで本学では学部の壁を取り壊す試みとして、農学部・工学部・芸術学部が融合するあらたな学びの拠点となる「STREAM Hall2019」を建設中です(2020年3月竣工予定)。たとえば農業は生産から加工、流通、輸出へと二次→三次→六次産業化が進み、単体の学問だけでは解決できない課題があるように、世界の学問も変わってきているのです。サイロの中の「ガラパゴス学問」では通用しない今日、各学部の壁を低くすることでシナジーを生み、各々がより活性化されるのを期待しています。この試みが実行できたのも、本学におけるリベラルアーツ学部という学際的な学びの成果ではないでしょうか。

日本語と英語を学び 新しい学問の扉を開ける

リベラルアーツ教育は言語能力が基本になり、国語と英語を身に付ける、バイリンガルをめざしています。そのうえで、高校にない新しい学問分野を幅広く学びますので、学修意欲のある知的好奇心の強い高校生は、ぜひ本学をめざしてください。充実した大学生活が待っています。

学校法人玉川学園理事長/玉川大学学長/玉川学園学園長 小原 芳明

学校法人玉川学園理事長/玉川大学学長/玉川学園学園長
小原 芳明 (おばら よしあき)

1946年生まれ。玉川学園高等部2年次にアメリカのRoxbury Latin Schoolへ留学。同校を卒業後、Monmouth Collegeへ進学。帰国後、玉川大学大学院文学研究科(教育学専攻)で学び再び渡米、Stanford University大学院教育政策分析専攻の修士課程を修了。1987年玉川大学文学部教授。国際教育室長、通信教育部長、副学長を歴任した後、1994年より玉川学園理事長、玉川大学学長、玉川学園学園長就任。2003年玉川学園女子短期大学教養科をリベラルアーツ学科として文学部に移行発展、2007年玉川大学リベラルアーツ学部新設 現在に至る