日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 動物科学科 卒業生インタビュー チンパンジー飼育員の仕事とやりがい|大学Times

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大学Times Vol.32(2019年4月発行)

日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 動物科学科 卒業生インタビュー チンパンジー飼育員の仕事とやりがい

多摩動物公園でチンパンジーの飼育員として働く田口さん。動物の世話はもちろん、来園者にチンパンジーの生態を知らせるために、さまざまな工夫を重ねている。そこには大学で学んだ畜産の知識や、飼育現場で学んだ知恵が役立っている。動物や地球環境に対する思いを伺った。

たぐち ようすけ
1992年埼玉県出まれ。埼玉県立所沢北高等学校出身。日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 動物科学科卒業後、2015年より公益財団法人東京動物園協会 多摩動物公園勤務。チンパンジー飼育担当。子どものころから犬、アヒル、ウコッケイ、フェレット、カメ、カナヘビなどを飼育する動物少年。チンパンジーの飼育、保全、管理に心血を注ぐ。2019年4月より数種類の鳥の担当に。(取材日2019年3月)

早くから飼育員への道を考えていた

動物の飼育に進もうと思われたのはいつごろからですか?

中学生の頃から決めていました。将来についての夢を考える授業があり、その時初めて深く考えたのです。それまではサッカー選手になりたいと思っていましたが、「現実は厳しいだろうな」と思い、だったら自分には何があるかと考えました。そうして考えると、生まれてきてからずっと動物といっしょだと思ったのです。それまで犬やアヒル、烏骨鶏、フェレット、カメ、カナヘビ等を飼っていたのです。カナヘビは自分で飼育日誌も付け、孵化もさせたくらいです。

サッカー少年でもあり、動物少年でもあったわけですね。

ええ、動物を見ることは好きでした。それで最初は獣医を目指そうとしましたが、よくよく考えてみると、動物の命を救うというよりも、病気にならないように事前にケアをしてあげる方が、自分のやりたいことに近く、やりがいがあるのではと思い、飼育員を目指しました。

日本獣医生命科学大学への進学を考えたのは何時ごろですか?

高校の時もサッカー部でサッカーばかりやっていました。ですから3年の初めごろでした。受験勉強は部活を引退した9月ぐらいから始めました。

大学の授業はどのように役立っていますか?

畜産関係の授業が多かったのですが、動物について多く学びました。動物園の飼育もそうですが、基礎は畜産だと思います。栄養のこと、繁殖のこと、生理・生態のこと等、すごく勉強になりました。今も大変役に立っています。

動物園に入るのは結構狭き門だとお聞きしました。

そうですね。私は大学のボランティア活動の中で、レクリエーション同好会というのに参加しました。そこで1・2年の頃、上野動物園の「子ども動物園 ふれあいコーナー」で接客をしました。その時、職員の方と話す機会もあったので、この仕事がどんなものかは分かっていました。ここに入園できたのは周りの方々に恵まれたとからだ思います。自分も勉強しましたが、採用されたのは運も良かったと感じています。2年間非正規の嘱託員として働き、試験に合格して正職員になりました。嘱託員としての経験も役にたっています。

動物園での仕事はルーチンが大切

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今の仕事について具体的に教えてください。

チーム4人で担当しています。私は今4年目です。一日の動きとしては、朝パソコンで連絡事項を確認した後は飼育場に行って、エサの準備です。それから手分けして運動場にオヤツを隠したり、遊べるように枝を設置したり、お客さんに見やすいように放飼準備をします。その間に他の人は、馴致といって馴らしていくトレーニングや熱が無いかを調べたり、メスの発情状態を確認したりします。チンパンジーは知能が高いので、コミュニケーションをとることによって心を開いてくれます。体調が良くないとアピールして、教えてくれることもあります。こうした体調管理がとても大事だと感じています。その後、チンパンジーを外の運動場に出し、寝室の掃除。オヤツやお昼ご飯の後は、キーパーズ・トークといって、お客さんにチンパンジーについて伝えるイベントがあります。これは毎日やっていて、チンパンジーが枝を使って食べ物を落としたり、コインを使って自動販売機で野菜ジュースを買ったりするのを見てもらいます。そして、いかに知能が高いかとか、社会性があるかなどを伝えるのです。その他の時間は、運動場にオモチャを作ったり、枝を設置したりと、定期的に変えて飽きないような工夫を施します。またチンパンジーは知能も高いですが、力も強く、簡単なオモチャだとすぐに壊してしまいます。といって、ただ頑丈に作ればいいというものでもありません。こうしたことを考慮しながら、ルーチンという毎日変わらないことを、いかに丁寧に、だけど効率的にこなして充実したものにするかというのが、この仕事の大事なところだと思います。

どんなところにやりがいを感じていますか?

時間をかけて長くやれば、いろんなことができますが、こちらも疲れが溜まります。それは動物にも影響します。それよりも日々動物を観察して、何か変わったことがないか見てあげ、それで病気にならないように事前にケアすることが大切で、チンパンジーのためにやったことが、小さなことでも役に立てばうれしいです。もちろん、子どもが生まれることや、楽しそうに遊んでくれていることもうれしいですが、毎日のごく小さなことの積み重ねがやりがいとなっているのだと思います。

逆に辛いこともありますか?

やはり動物が死ぬことですね。生き物ですから仕方ないことですが、私たち飼育員の責任も多いです。「何をすれば良かったのか」、「何ができなかったのか」と深く考えます。もちろんそれを引きずっている暇はなくて、ダメだった部分を見直して、それを次に活かすようにしています。

コミュニケーションでの難しさは?

私が入園した1年目は、チンパンジーにバカにされていました。2年目に後輩が入ってきて、私に対する態度が変わり、言うことを聞いてくれるようになりました。新しく入ってきた人が、先輩に対して敬語やぺこぺこした態度だと、彼らはそれを見てどちらが上か下かを判断します。チンパンジーが人間の序列をつくるわけです。こちらも彼らを細かく観察していますが、向こうも観察しています。知能が高い証ですね。

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動物の種を保存するためにできること

動物の種を保存するためにできること

動物園はお客さんに楽しんでもらう、レクリエーション的なものだと思いますが、動物の生態を知ってもらう、教育的なところも大切な役割です。そして多くの人に動物に興味を持ってもらいたいです。今、森林伐採や開発によって、数が減り絶滅の危機に瀕している動物や種がいます。こうした問題に対して、日本人はどうしたらいいか。例えば、グリーンマークがついた商品を選ぶとか、お客さんが少し意識を向ければ野生動物に還元できるのです。種の保存は、人間がやっていかなければならないことで、多摩動物公園は来場者が多いので、伝え甲斐があると思っています。東京の動物園が先陣を切って、いろいろな動物種を守るために動物園で繁殖させていく。現地の生息域内の保全や環境改善、資金面の援助など、できることはたくさんあると思います。地球環境を今より、より良いものにしていき、持続可能にしていくための一助になっていきたいです。

動物には人を和ます力があり、人のためにもなる

最後に高校生にアドバイスをお願いします。

勉強に関しては、この業界は生物系や数学ができればいいと思われがちです。ですが、いざ入ってみると国語や同じ理科でも科学や地学、物理学も必要になります。あまり限定的というより、幅広く勉強することが大事なのかと感じます。また、動物を飼うことも大事で、動物の知識も広めた方がいいです。文化系だった人が「やっぱり動物の仕事をしたい」と、転職してきた人もいます。やりたいことを諦めたことに未練があったそうです。本当にやりたいことだったら、周りの人がなんと言おうと諦めずにチャレンジして欲しい。この仕事はお金を儲けることはないですけど、絶対にやりがいのある仕事です。