【グローバル系大学特集】学長インタビュー 東京外国語大学|大学Times

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大学Times Vol.33(2019年7月発行)

【グローバル系大学特集】学長インタビュー 東京外国語大学

1873年建学の官立東京外国語学校をルーツとする東京外国語大学は、日本近代化の歴史とともに長年にわたり多言語教育を担い、今日まで歩んできた。加速するグローバル社会、同大学は国際人育成の域に留まらず、日本における多文化共生の実現にも貢献しようとしている。林 佳世子新学長に話を伺った。

学生個々の「学修成果の可視化」に応える使命

今、大学教育では学生に何をプラスしたかが重要になっています。大学に社会が求めることが変わってきています。大学で過ごす間に「何かを学べればいい」という感覚から、4年間で「何をどのくらい出来るようになったのかを証明する」こと、つまり学修成果の可視化が大学に求められています。これは企業が採用時に大学での成績を見るようになり、何を学んできたかを学生自身が発言する必要性がでてきたことにもあらわれています。大学は決して「就職予備校」ではありませんが、学生一人ひとりの、次の人生に繋がる学修成果を証明する使命があります。大学で学ぶことは、可視化できることが全てではありませんが、社会の要望にも応えていかなければならないと考えています。

多文化共生のためのパーツとして言語を学ぶ

本学は今年度より3学部になりました。3つの学部のそれぞれで【多文化共生】に寄与する所存です。
昨今は「共生すること」の重要性が叫ばれていますが、本学では共生のツールとして言語を教育しています。グローバル化とは、ともすると英語や米国的価値観が広まっていると受け止められがちですが世界は、決してモノトーンではありません。これまでは閉ざされて遠くにあった世界の諸地域が同じ土俵にのり、触れ合うことができるようになったのもグローバル化なのです。今はインターネットが発達し、情報が瞬時に繋がる社会です。今、世界各地で起こっている紛争やテロリズムなどは決して遠い国の事ではなく、日本にも直接影響してきます。「世界を知る」必要が高まっています。共生のために世界を学ぶ、本学の果たす役割は大きいと認識しています。

国際的環境から日本をみる
世界中から学生が集った「国際日本学部」

本年4月にスタートした国際日本学部には、多くの優秀な高校生が入学してくれました。英語で学ぶ授業を楽しみに入学した人もいます。学生の内訳は日本人と留学生が半々で、留学生はさまざまな地域から来ています(別表参照)。学問としての日本学を英語で学ぶ本学部は、アクティブラーニング系科目が多く、学びを通じて地域貢献もめざしています。POPカルチャーへの関心から日本に興味を持つ人が多くなりましたが、この学部では世界の視点から日本を見て、日本礼讃ではない議論、オールグランドな日本についての知を身につけていきます。本学部の留学生の半数は日本語をこれから学びますが卒業後、日本と世界をつなぐ存在となることを目標に、今はみな日本語を特訓しています。

本学は言語文化学部が言語・文化系、他の2学部(国際日本学部、国際社会学部)はいわゆる国際系学部です。「日本人を国際化する」という趣旨の学部ではなく、世界を立体的に捉える国際社会学部、国際的な環境の中で日本を考える国際日本学部という点で、他大学の国際系学部とは大きく異なると思います。

【世界がキャンパス】を合言葉に
留学で完結する東京外大の学び

入学直後のアンケートでは、新入生の90%以上が留学を希望しています。昨年は1年生の52%が短期留学を経験し、3年次生の65%が長期留学をしています。2019年3月卒業した日本人学生の75.1%が在学中に留学を経験しました。単に外国に行けばいいというものではなく留学の内容を重視しつつ、【世界がキャンパス】を合言葉に、留学200%(在学中に短期と長期の計2回以上)を目標にしています。留学経験を通じてのびやか精神を育み、また外国での苦労は成長の大きな糧となるでしょう。

本学では現在、世界の約200校とアクティブに交流しています。対象も世界の全地域にわたり、学生の交換留学だけでなく、先生方も行き来をしています。世界の情勢が不安定な中、むつかしい問題もありますが、状況を見極めながらできるだけ学生の希望を尊重し、留学の実現をサポートをしています。

世界が日本に集結する【東京2020】
キャンプ地での言語指導ボランティアも

来年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。本学も学生がボランティアに参加しやすいように準備を整え、大会の成功に協力しています。すでにラオス選手団の事前キャンプを受け入れる茨城県の自治体から、言語指導ボランティアの要請も受け、学生が行き来するなどの活動をしています。

世界の日本語教育の危機
日本の発想だけでは立ち行かない現代

昨今は日本ブームなどといわれていますが、実は海外の日本語教育は危機に直面しています。東アジアの言語を教えている各大学では、中国語への転換が見られます。これは中国側が攻勢をかけているという側面もあり、現在は日本の発想だけではうまくいかない状況にあります。世界の中で日本がどう見られているかの知見を深める必要があります。世界で日本語を教える人材の育成も重要です。そのような観点からも、本学の国際日本学部が今後果たすべき役割は大きいと認識しています。

日本との【同化】を求めず
多様性を力に変えることの意味を問う

最近は立ち寄ったコンビニエンスストアの店員さんが、外国の人ばかりというケースが珍しくなくなりました。彼らの日本的な丁寧な対応などには感心しますが、同時に彼らが持ち込んでくれた各々の文化を排斥してはなりません。日本ではとかく【同化】を求めがちですが、彼らを同じ日本人にするのではなく、各々の誇りを傷つけずに受け入れなければならないのです。そうでなければいずれ、日本に来る外国人はいなくなってしまうでしょう。多様性の理解とは、ステレオタイプで決まらないことばかりなのです。多くの外国人が日本に来て社会の一員として暮らす今日、彼らの言語と文化を理解し、彼らと日本社会を繋ぐ存在として本学が培った知見は重要です。私たちの手で「共生のための多様性理解」を広めなければならないという思いに至っています。

本学では「多文化多言語共生センター」を発足させました。日本社会の課題に対して本学ができることを可視化し、サポートすることを目的としています。たとえば外国人幹部を多く育てている会社の要請を受け、彼らに日本を学んでもらうお手伝いもしています。

異なる者への興味を持っている人、自分だけの基準で考えないで世界の多様性に関心を持つ人の興味に応える大学です。そのような高校生は、ぜひ本学の門をたたいてください。

東京外国語大学長 林 佳世子 (はやしかよこ)

東京外国語大学長
林 佳世子 (はやしかよこ)

お茶の水女子大学文教育学部史学科卒業、同人文科学研究科修士課程修了(文学修士)
東京大学人文科学研究科博士課程(東洋史学専攻)、文部省アジア諸国等派遣留学生イスタンブル大学留学、東京大学東洋文化研究所助手を経て1993年4月東京外国語大学外国語学部講師。
同助教授、同教授、学長特別補佐、東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授を歴任。
2013年4月東京外国語大学副学長、2015年4月理事・副学長。
2019年4月より東京外国語大学長就任。