「面倒見の良い大学」を可視化する|大学Times

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大学Times Vol.34(2019年10月発行)

「面倒見の良い大学」を可視化する

入学案内やオープンキャンパスで「本学は面倒見の良さが特徴」とアピールする大学が相次いでいる。かつては大学生になれば「講義も進級も自己責任」といわれ、自主性に任せていた観の強かった総合大学でも、新入生一人ひとりと向き合い、充実した学生生活を送る手厚いサポートを行っているようだ。その背景は何か。大学受験指導のエキスパートである早稲田ゼミナールの阿部圭一氏に話を伺った。

「面倒見の良さ」を打ち出す背景

@大学の差別化として「学生支援」へ

「面倒見の良い大学」という言葉を耳にするようになったのは、2000年代以降です。大学の数が増えて18歳人口が減り、中堅以下の大学は入学者集めに苦労していました。偏差値の序列を変えることは難しいため、各大学は独自のカラーを打ち出して特色づくりをしなければなりませんでした。当初は学部学科の改編や新設を行いましたが、他の大学も追随するので次第に陳腐化し、明確な特色とならなくなったのです。たとえば心理、福祉、看護、管理栄養などは次々新設されたので、その傾向がありました。そこで、次は「学生支援」を特色として打ち出す大学が増えていったのです。

「面倒見の良い大学」を可視化する

A学生の質向上で就職実績を上げる必然性

二つ目は、これまで大学進学をしなかった学力層の高校生が大学に行くようになったことです。AO入試制度が始まったのもちょうどこの頃で、中には推薦入試と合わせて新入生の約9割を学力試験なしで入学させる大学もありました。当然、学生の学力レベルも下がりました。彼らは高校時代から勉学の習慣がないことも珍しくなく、当然進級率にも影響します。留年学生の増加は文部科学省からの注意対象となるだけでなく、休学退学の恐れもあり、大学としては学生の進級率、卒業率の向上が重要になります。そこで学生全体の学習意欲を高めて、学力向上をはかることが命題となりました。学生の質の向上は就職実績にも影響しますので、リメディアル教育など学生個々の学力に合わせた手厚いフォローアップが必要となったのです。

B保護者や先生へのアピールが必須に

三つ目は、中堅以下の大学受験の場合、高校生自身が志望校を決めていないケースが多いという現実です。今は保護者の方がオープンキャンパスに参加して、先生や親のすすめで受験をして入学するケースも多いため、大学は保護者向けの情報発信を求められるようになりました。「わが子はこの大学でやっていけるのか、ちゃんと就職できるのか」という不安を払拭するべく始まったのが、大学による「保護者会」です。

保護者の協力は大学側にもメリットあり

大学の保護者への配慮には様々なものがあります。入試当日に保護者控え室を設置するなどもその一つですが、今、多くの大学では在校生の「保護者会」を開催しています。各学年・学部ごとでの現在の学生の状況や支援態勢の説明、さらには個別相談にも対応します。大規模大学では、各都道府県で開催するところもあります。また、保護者に学生の成績(通知表)を送ることもします。これらも保護者向けの「面倒見の良さ」になりますが、それとともに大学の狙いは、保護者に「子どもの見張り役」になってもらい、勉強することを促して、進級率や卒業率の向上を図りたいということもあるのです。

学生支援は大学教員の協力なくして運用できず

学生支援を徹底し、うまくいっている事例では、金沢工業大学が知られています。地方の理系大学の入学者の中には、高校で数Vや理科を1科目しか履修していないということも多く、高校の勉強を大学でやらざるを得ないという事情がありました。また、教員個室の「研究室」を廃止して、高校と同じような「職員室」に改革しました。これは学生が出入りしやすいようにし、距離を近づける狙いです。その他にも図書館や自習室を深夜まで開館し、教員が当番制で常駐して学生の補修を行う大学や、就職支援の一環として定期的に「上京バスツアー」を実施し、評価を上げている大学もあります。

このような学生支援は、単にシステムを作るだけではうまくいきません。運用する大学教員の理解と協力が不可欠であり、リメディアル教育だけでなく、担任制や定期的に相談の時間を設けるといった、教員の細やかなサポートが前提となる改革なのです。

いまどきの学生は「もっと構ってほしい」

学生を大学に定着させるために、入学直後の短期合宿を実施している大学もあります。目的は「友だちづくり」です。今は多くの高校生がスマホを持ち、コミュニケーション手段も大きく変わりましたが、「構ってほしい」という思いが強く、何かやってもらいたいという期待感を持っているのです。

しかし、高校生が大学に対して期待するのは「学生生活の充実」までです。それより先の就活サポートは、あまり考えていません。大学が就職実績をアピールするのは保護者向けであり、保護者もまた、その点を重要視して大学選びを行っています。

大学ブランドや上昇志向は二の次
「早く楽になりたい」と志望校を決める受験生

今の高校生は「超安全志向」になっていて、「現役受験で大学生になる」ことが優先されており、たとえ一浪すれば上位校に受かる可能性があっても、浪人するよりも「受かった大学に入学する」傾向が顕著です。本人のみならず保護者にもその意向が強く見られます。「大学ブランド」がかつてほど重視されていないとも言えます。

今、特に首都圏私立大学では、大学入学者定員の厳格化による合格者数の削減・合格倍率の上昇によって、入学難易度が上位校下位校を問わず、全体的に難化しています。これによって安全志向がさらに強まり、その結果(皮肉なことに)上位校よりも中堅校・偏差値45以下の大学のほうが合格倍率がより上昇しています。こうした流れは、一般入試のみならずAO入試、推薦入試にも影響を与えており、AO入試・推薦入試の合格倍率も上昇しています。この結果、指定校推薦であっても不合格を出す大学も増えてきました。

真価を問われるのは3年後

しかしこの状況も一過性のもので、人口減がさらに進む今の中学3年生が大学受験のときには(「大学受験年齢人口の推移」グラフ参照)、7,8年前に戻るだろうといわれています。大学の淘汰は避けられない状況かもしれません。今、一息ついている大学も、数年先には学生集めに苦労することになるでしょう。それを見越して、この2,3年間で、「自校のアピールポイント」を強化し、それを広く発信できるかどうかが問われることになります。