【大学ism】静岡産業大学|大学Times

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大学Times Vol.34(2019年10月発行)

【大学ism】静岡産業大学

人から人に伝えるための“情報”は、文字・映像・CG・音楽などの様々なメディアに変換・表現され、いろいろな形で多くの人に影響を与えている。しかし、日本国内における情報伝達の中心となるのは“日本語”であり、社会で通用する情報を創造し活用するためには、まず、日本語力の向上を図ることが不可欠となる。国内の高等教育機関では数少ない日本語教育の研究センターを持つ静岡産業大学に、その取り組みについて伺った。

静岡産業大学

静岡産業大学 情報学部日本語リテラシー研究センター長
谷口 正昭(たにぐち まさあき)教授

早稲田大学大学院教育学研究科国語教育専攻修士課程修了。聖パウロ学園高等学校国語科教諭、独立行政法人日本学生支援機構東京日本語教育センター専任教員、静岡産業大学情報学部准教授を経て現職。この間、城西大学、文教大学、インドネシア国立ボゴール農科大学、中国国立東北師範大学、マレーシア国立マラヤ大学、東京外国語大学等において日本語教育、日本語教員養成に携わる。専門分野は日本語教育学。

「日本語リテラシー研究センター」発足の経緯

「日本語リテラシー研究センター(以下、日本語研究センターと記載)」が藤枝キャンパスに設置されたのは2009年10月。藤枝キャンパスは1998年に改組開学して以来、渡日前入学制度による私費外国人留学生を受け入れてきました。本学ではすべての授業が日本語で行われますので、渡日前入学制度における入学者選抜試験に合格した外国人留学生は一定期間、中国の日本語教育機関で「日本語教育」を受けてから来日します。入学後は外国人留学生を対象にした「日本語」、「日本事情」などの必修授業があり、また、日本語力に不安を持つ外国人留学生にはe-ラーニングプログラムを利用した日本語の補習授業などが用意されていましたが、日常的な日本語の学習支援を行う環境は十分とはいえませんでした。

一方、日本人の大学生においても、講義内容の理解、レポートや論文作成、ゼミ発表、プレゼンテーション等において、基礎的な日本語力の不足が切実な問題として学内から指摘されていましたが、それらに対応する教育体制も整っていませんでした。そこで、日本語リテラシー(読む、書く、話す能力)に関する研究を進めながら、「読むこと」、「書くこと」、「話すこと」を通して学生に論理的思考力、表現力、コミュニケーション能力を身につけてもらえる“学びの場”としての日本語研究センターが誕生しました。

「書く力」を育成するために「個別支援」を実施

日本語研究センターの主な活動としては、日本人学生と外国人留学生対象の日本語リテラシーに関する講義の実施、日本語リテラシー能力向上へのモチベーションを高めることを目指した行事や企画の立案や実施、日本語リテラシーに関する各種資格試験等の受験支援、日本語リテラシー能力向上のための日常的な個別支援などです。特に「個別支援」の活動では、高等教育機関に求められる能力である「書く力」の育成、つまり、アカデミック・ライティングに関する指導を中心とした支援があり、日本語研究センターでの日本語学習支援の「柱」になっています。

「日本人学生に日本語教育を」というと、その必要性に疑問を持つ人がいるかもしれませんが、高校までの「国語教育」は、日本語で書かれた“文化遺産”を正しく読解することが教育の中心にあり、さまざまな文学作品を通して文法、語彙、言葉の知識、そして昔の日本社会などについて理解し、教養を深めていくことを目指します。それに対し、高等教育機関では、自分の考えや意見を、正しい文章で相手に発信することが重要になります。アカデミック・ライティングに必要とされるのは、文章の書き方だけではなく、内容そのものを的確に捉える観察力や表現力、語彙力(量)、思考力などです。長文を書くための力は、限られた時間内での一斉指導によって身につくものではなく、何度も書き直しながら自分の中で考えをまとめるといったプロセスが大切です。書き手が「自立した書き手」として成長していくことを目標に、個別的、長期的な支援体制が必要であり、支援にあたっては、単なる文章添削の指導に留まらず、ある程度まとまった時間をとって、個別の「対話」を通じた指導が行われることが理想的といえます。

参考までに、アメリカではすべての高等教育機関には当たり前のようにライティングセンターが設置されており、母語である英語を指導する教育支援体制がきちんと整えられています。

なぜ、今からの時代に「日本語教育」が大事なのか

近年、グローバル化や少子高齢化社会、生産年齢人口の変化などにより、労働の多くが人工知能(AI)やコンピュータに代替されている時代が来ると予想されています。社会が大きく変化すると、当然ながら、求められる学力も変化します。2020年度から始まる「大学入学共通テスト」では、これまでの知識編重が改められ、学力の3要素とされる「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」、そして「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を多面的・総合的に評価する試験になることが明らかにされました。これまで蓄えられた知識の中から正解を素早く導き出すよりも、学んだ知識を自らの思考・判断・表現にどう活用できるかが求められることになります。

日本人であれば、思考・判断・表現に使うのは母語である「日本語」です。考えたことを言葉に表すためには「日本語」の語彙力(量)が不可欠で、「多くの本を読みましょう」と言われるのはそのためです。語彙力を高められれば、言葉の意味と意味を繋いだ文章の関係性を見抜く力が身につき、相手の思考を理解できるようになります。また、自分の考えを深めるだけではなく、他者とのコミュニケーションの中で自らの考えをきちんと言葉に表し、新たな提案を組み立てることができます。つまり、日本語をきちんと学ぶということは、これからの社会で必要とされる力を身につけることにも繋がっていくのです。

心が感じたことを言葉にして表現する

日本語教育研究センターでは、自らの言葉に対する感性を磨き、総合的な日本語表現力を高めることを目指して「俳句コンテスト」を開催しており、今年は九回目を迎えます。第一回目の高校生・大学生の部の応募者数は730名でしたが、昨年は2213名と、その数は年々増加しています。SNSの広がりによって、自分の内なる心のあり様を臆することなく、短く文字化して、誰かに発信することへの抵抗感は昔の学生よりもなくなっているのかもしれません。ただ、俳句はSNSとは異なり、心が感じたことを表す適切な言葉を探し出し、決められたルールに従い17文字に組み立てなければならないため、分析力や観察力、語彙力が重要になります。

言葉を磨くための素晴らしい教材のひとつであると考え、今年も多くの俳句に出会えることを楽しみにしているところです。

静岡産業大学