大学の“知を社会に生かす”TLOが産学連携を活性化する|大学Times

  1. 大学Times
  2. 特集記事一覧
  3. 大学の“知を社会に生かす”TLOが産学連携を活性化する

大学Times Vol.35(2020年1月発行)

大学の“知を社会に生かす”TLOが産学連携を活性化する

須藤 慎取締役

2019年12月、吉野 彰氏がノーベル化学賞を受賞した。吉野氏は企業研究者であるが、近年は九州大学や名城大学大学院で後進の指導にもあたっている。
大学と産業界、そして国の研究機関などが協働して事業やプロジェクトを推し進める「産官学連携」が注目されて久しい。大学の研究成果が企業に移転することで社会で利用され、企業が得た収益の一部を大学研究者に還元することで研究資金を生み出す仕組みは1998年に法整備され施行したが、運用には双方のマッチングや特許化など、大学の技術移転の実務を行うTLO(Technology Licensing Organization:技術移転機関)の果たす役割が大きいことをご存じだろうか。現在、全国に34拠点があり、企業の新製品開発と大学研究者の資金確保にも貢献している。その中の一つ、国立大学法人電気通信大学のTLO「株式会社キャンパスクリエイト」の須藤 慎取締役に話を伺った。

経済産業省【大学の技術移転(TLO)とは?】より抜粋

我が国の大学等には、研究資源の多くが集中しており、その成果の中には新規産業の「シーズ」として有望なものが多くあるのですが、それが産業に十分活用されているとは言えませんでした。企業(メーカー)には研究部門とは別に特許管理を行う「知的財産部」があるのに対し、大学にはそうした組織が従来存在しなかったことに大きな問題があり、大学の研究成果の特許化及び企業への移転(ライセンシング)を行うTLOの必要性が認識されるに至りました。TLOが整備されることによって、研究者は研究に専念しながらその成果の特許化・産業化によって更なる研究資金を得るという「知的創造サイクル」の仕組みが実現します。

企業と大学の橋渡しをする株式会社

(株)キャンパスクリエイトは2003年にTLOになりました。電気通信大学のOBが中心となって設立し、オフィスも学内に構えていますが、大学の資本は入っていません。

1998年に「大学技術移転促進法」が施行されたことが日本の産官学連携が始まる大きなきっかけです。その当時、米国では20年ほど先駆けてTLO(日本で言う技術移転機関)が成功事例を生み出していたこともあり、日本でも導入に向けて関連法が整備され、全国に大学の技術移転を行う拠点が誕生しました。大学の研究成果を特許権等の権利にし、企業に権利をライセンスして製品化してもらい、社会で普及する橋渡しを行うことがTLOの趣旨です。

当社ではそれにとどまらず、企業のお困りごと(ニーズ)に対して全国の大学の研究者や研究機関、企業等のシーズとマッチングし、課題解決も行っています。

大学と企業、行政との仲介役は
「面倒見の良さ」が重要

意外かもしれませんが、産官学連携には仲介役の「おせっかいなまでの面倒見の良さ」が成功の鍵を握っています。川崎市産業振興財団が地元製造業の活性化のために積極的に地域企業支援を行い成果を挙げている「川崎モデル」に役割が似ており、当社もサービス品質を担保する制度である経済産業省「おもてなし規格認証」(金認証)の登録事業者となりました。全国の大学や研究機関等ともネットワークを持ちつつ、AIを用いたナレッジマネジメントシステムを活用しながら、企業と大学等とのマッチングを行っています。

コーディネーターの“腕と目利き”

企業からの産官学連携に関する依頼で多い業種はIT、製造(メーカー)、AI関連など第四次産業革命に関連するものが多く、海外企業から日本の大学との連携相談をいただくことや、大学だけでなくスタートアップとのマッチングを行うことも最近のトレンドになっています。

マッチングには仲介役のコーディネーターが重要な役割を担い、専門知識だけでなくコミュニケーション能力が重要です。何より双方のヒアリングと調整が大事なことから、女性を中心とした面倒見の良い人材が数多く活躍しています。たとえば論文発表が自身の実績となる大学研究者側と、事業優先で技術のコア部分が他社に漏れないよう外部発表に慎重な企業との間には立場のずれが生じますが、コーディネーターの丁寧なコミュニケーションで考え方の開きを埋めていきます。昨今は「オープンイノベーション」が企業が持続的に成長する鍵といわれますが、マッチングにとどまるのではなくその後のプロジェクトマネジメントも重要なのです。

クライアントからの依頼に対し、どのようにマッチングするかはコーディネーターの目利きの力が重要です。しかし個人の能力や経験によるところもありますので、目利きの伝承も今後の課題となっています。

将来役に立つ研究か否か
社会と結びつけるのがTLOの使命

大学における基礎研究の危機が叫ばれていますが、いつの時期に、どのように役立つか分かりづらい基礎研究に対し、公的な補助金制度が採択されづらいという傾向があります。将来的に社会へ大きなインパクトを与える可能性を持つ基礎研究を行っている、熱意と意欲がある研究者とビジョンを分かち合い、実用化を目指すパートナーとなることがTLOのやりがいです。

経験を通して「なぜ学ぶのか」を腹落ちする

私は電気通信大学の卒業生で、高校時代は数学が最も好きな科目でした。当時は「大学で数学科に入っても、将来役立つか分からない」といわれたものでした。それもあってIT分野を専攻しました。実際には物理など幅広い分野で使いますが大学受験の物理に微積は使いませんでしたし、どの分野で使えるか実感できる環境でもありませんでした。今は数学的知識に基づくデータサイエンティストが産業界から求められており、可能性が広がっています。数学に限らず「なぜ学ぶのか」を腹落ちすることは年齢を問わず重要です。例えば産業界で年々重要性が増しているのは「異文化コミュニケーション」であり、国際面においては英語はそのためのツールとして扱われます。国際交流の現場に触れると英語の勉強にハリが出る方もいるでしょう。その本質的意義を実感する糸口となる機会も、今では探せば見つかります。キャリア論として計画的偶発性理論というものがあり、好奇心を持って様々なことに積極的に取り組むとやりたいことが見つかりやすくなります。自身がやりたいことが見つかったとき、勉強した経験は自分自身の強みとなり、下支えしてくれるのです。

現在、各大学でも産官学連携事業が積極的に行われており、もう一つの顔として社会貢献にもなっているようだ。「産官学連携の事例紹介」ではおもな大学の産官学連携事例をご覧いただきたい。