リベラルアーツ教育特集 インタビュー:デロイト トーマツ グループ|大学Times

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大学Times Vol.36(2020年5月発行)

リベラルアーツ教育特集 インタビュー:デロイト トーマツ グループ

人間の仕事の多くが、将来的にはAI(人工知能)に代替されるという予測がある。それだけに、AIにはない、0から1を作り出すクリエイティブな創造力やリーダーシップ、コミュニケーション能力などが各方面で求められ、人間だからこそ手にできる能力を養う「リベラルアーツ教育」が、ますます注目を集めている。今回は、国内外の大手企業の会計監査やコンサルティングで実績のあるデロイトトーマツに世界のビジネス界からリベラルアーツ必要性の背景を、また日本のリベラルアーツ教育を牽引する国際基督教大学、神田外語大学、玉川大学にそれぞれの教育と人材育成について話を聞き、近い将来何がもたらされるかを検証したい。

デロイト トーマツ グループ
パートナー 神津 友武(こうづともたけ)

デロイト トーマツ グループ パートナー 神津 友武(こうづともたけ)

物理学の研究員、コンサルティング会社を経て、2002年から有限責任監査法人トーマツに勤務。金融機関、商社やエネルギー会社を中心にデリバティブ・証券化商品の時価評価、定量的リスク分析、株式価値評価等の領域で、数理統計分析を用いた会計監査補助業務とコンサルティング業務に多数従事。現在は金融、エネルギー、製造、小売、医薬、公共等の領域で、デロイト トーマツ グループが提供する監査およびコンサルティングサービスへのアナリティクス活用を推進すると共に、データ分析基礎技術開発を行う研究開発部門をリードしている。

業種の垣根がなくなり
大学で学んだ専門知識も5年で陳腐化

デロイト トーマツ グループは日本や海外の大企業の監査・保証業務をはじめリスクアドバイザリー、コンサルティング、法務など、企業経営活動のサポートをワンストップで行う屈指のグローバル企業として広く知られている。同社の神津友武氏は次のように述べている。

「近年、日本の企業においても、たとえばコンビニエンスストアが金融業を始めたり、製造業でも主力商品とはまったく異なる分野の製品を新たに開発して商品化するなど、業種の垣根が次第になくなってきています。この傾向は世界的なもので、日本はむしろ遅れをとっています。現在、日本の株価はバブル崩壊を経てようやく平成元年の水準に戻ったものの、この30年間にアメリカや中国の経済が躍進し、日本経済は成長できていないのが現状です。

これまで日本の大学では専門分野に特化した教育を行い、卒業後多くは企業などでその分野の技術者として歩んでいました。しかし国際間競争が加速する今日、大学で学んだ専門知識が5年で陳腐化すると言われるようになっています。今や大学時代の知識だけで技術者が10年、20年と歩むことは困難であり、一人ひとりが常に学び、新しい知識を身に付けていくことが必要になるのです」

0から1を生む“基礎力”に加え
9から10に進める“構想力”で社会課題を解決

「ゼロから1を生み出す力には自然科学の基礎研究などがありますが、かつて日本はこの分野が得意であり、質の高い研究成果を上げていました。さらに1を2にする力が各々の技術革新だとすると、現代は9から10に進める力、これまでにある技術を組み合わせて社会課題を解決する“構想力”も基礎力と同じくらい重要です。実際に世界最上位クラスの企業経営者たちは、安価で宇宙に人間を送ることや電気自動車の実用化などにも取り組んでおり、あらゆる技術を組み合わせて社会に役立つようにアダプト(適合)させ、課題解決をめざしています。構想力は個々の専門性だけでは立ち行かず、たとえば哲学や倫理観、さらに専門外協力者を集めてプロジェクトに巻き込める、人としての魅力や強い意志なども不可欠なのです。今日の国際社会において、日本人は他国に比べて共同で課題解決を行う際に必要なリーダーシップや発言力が不足しているとの指摘があり、アクティブラーニングを積極的に取り入れた大学での教育は重要だと考えます。その点でも幅広く学び高い視座を持つ教養を身に付けた“リベラルアーツ人材”が求められているのではないでしょうか。当社でも入社直後からジェネレーションの異なる経営者とのコミュニケーションや、海外ビジネスでは自分の意見を言い合うことが不可欠ですので、ここ数年の新卒社員をみても良い取り組みだと感じています」

神津氏はさらに、良い製品を作る「メーカー目線」だけでは国際競争を勝ち抜くことは難しく、人を惹きつけるプレゼンテーションやワクワクさせるデザインなどの融合が大事であり、ここでも構想力が活かされると指摘する。

AI技術の発達でさらに求められる人間の倫理観

「AIの中でも、音声認識や翻訳などの技術は着実に進歩して便利になり、これからは人間と機械が協調する時代を迎えます。一方ではAIが誤った認識をすることで、人間にとって危険な存在にもなりかねません。たとえば車の自動運転装置が何者かにハッキングされ、道路標識を誤認識するだけで自動車が人間に向かって突っ込む恐れがあり、実際にAI兵器による事件が引き起こされる可能性もあるのです。またインターネットを騒がすフェイクニュースの一部はAIが作成しており、人々を混乱させる危険性が常にあるのです。それだけに、AIに情報を教える側である人間の「倫理観」が求められます。認識させる情報の真偽や判断も含めて、人間の力は必要ではないでしょうか」

利益至上主義からの転換
SDGs重視で企業の新しい価値を創出

データサイエンスの目的のひとつは、ビッグデータを活用して新しい価値を創出することにある。ビジネスの世界でも近年は利益至上主義からの転換が図られ、ESGやSDGsといった企業の社会貢献や環境への配慮状況の評価により、投資家の支持を得られるのだという。

「厚生労働省がリアルワールドデータ(電子カルテなどから得られた医療情報)活用を推進していますが、今後は一人ひとりに合った医療を提供できるようになります。また、高齢者の目の疾患で視野が狭くなるという症状がありますが、現在、自動車の運転免許更新には一定以上の視力のみが必要で視野については言及していません。昨今の高齢者の運転事故を鑑みると、狭くなった視野をAI技術が補うことで、自動運転のサポートができるのではないかという考えから、当社と国の研究機関、民間の医療機関や大学などが共同でプロジェクトに取り組んでいます。高齢者に免許返納を求めることが最善の解決策ではなく、車が必要な高齢者が事故なく運転を続けるためには何が必要かと考え、サポート手段を開発しているのです」

高齢者問題は先進国の日本。これらのビッグデータからは、認知症の進行抑止に役立った施設環境や栄養データ、生活習慣などを分析することも可能であり、この知見は日本発として世界へ提供できる有益な情報になると期待されている。AIは感情こそないが、人間がいつまでも誇りを持ち生き生きと暮らすためのサポートには活躍してくれそうだ。

大学では「生涯学び続けるマインド」を
身につけてほしい

「大学の専門教育は必要です。専門分野を軸に持ち、人生経験も含めてバランスよく学んでほしいです。四年間ですべてを学ぶのは不可能ですが、卒業後も学び続けるマインドがリベラルアーツだと思います。ぜひ身に付けて、将来は世界で活躍する人材をめざしてください」