【グローバル系大学特集】学部長インタビュー 東京外国語大学|大学Times

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大学Times Vol.37(2020年8月発行)

【グローバル系大学特集】学部長インタビュー 東京外国語大学

日本における外国研究の歴史は、江戸幕府が開校した蕃書調所(官営学校)によって始まったといわれている。その源流を受け継ぐ東京外国語大学は、世界28言語主専攻を含む計75言語にのぼる群を抜いた学修環境を有し、国立大学における日本のグローバル教育を常にリードしてきた。
昨年度より3学部制(言語文化学部/国際社会学部/国際日本学部)となったが、中でも今、国際社会学部が注目されている。真島一郎学部長に話を伺った。

東京外国語大学 国際社会学部長 真島 一郎(まじま いちろう)教授

東京外国語大学 国際社会学部長 真島 一郎(まじま いちろう)教授

1985年東京大学教養学科文化人類学科卒業、1987年同大学院社会学研究科(文化人類学)修士課程修了、国立コートディヴォワール大学・民族=社会学研究所客員研究員、1992年東京大学大学院総合文化研究科(文化人類学)博士課程単位取得退学。
日本学術振興会特別研究員(PD)を経て1992年東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・助手、同研究所・助教授、同大学院地域文化研究科助教授(兼任)。2010年外務省に出向。在セネガル日本国大使館参事官(ローカルランク)。
2012年東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・准教授に復職し同研究所・教授、同研究所・フィールドサイエンス研究企画センター長、同大学院総合国際学研究院・教授を経て現職。
専門分野は西アフリカ民族誌学(主に仏語圏)、アフリカ社会思想史、社会人類学。

ここには「世界」があるとOC参加で直感

本学を志望する高校生は、オープンキャンパス参加で「ここに決めた」と、保護者の方へ話しているのをよく見かけます。模擬ゼミや模擬授業の体験に加えて、キャンパスのあちこちでサポートをする在校生の生き生きした雰囲気を肌で感じ、世界に対するアンテナの張り方に共鳴し、波長が合うと直感するのだそうです。日本人は内向きだといわれてきましたが、今はグローバル化の波によって日本も各方面で国際化を推し進めています。しかし、日本人が単に国際化するのではなく、先ずは世界に対して深い理解を持つことが大事であり、本学ではそのための密度の濃い学びの環境を整えています。

現地の人の声に耳を傾け理解を深める
語学教育の重要性

日本の大学で国際社会を学び、卒業後は海外で勤務する人もいると思いますが、政治・経済・法律・社会分析のスキルがあっても、海外生活での第一歩は先ず、その土地の人々と接し、耳を傾けることから始まります。その場合、片言の言語能力やウィキペディアで調べた程度の知識だけでは、深い理解などは難しく、到底太刀打ちできません。本学では全学生が入学時に、世界28言語から主専攻を選び、専攻の言語と地域についてしっかり学んで身に付けることを基本としています(世界教養プログラム/全学部共通。国際社会学部は14地域/日本語を除く27専攻言語。別表参照)。英検に例えると、専攻地域の言語を卒業までに1級クラスのレベルまで、習得することが目標になります。

もう一つの特長は、特定の学問分野について、専門的な学知を段階的に学修できる点です。
特に後半は、その学問分野を深く研究し、世界全体を見る視野で「何が今問題になっているのか」洞察する能力を養います。以上の学びによって、本学部では内実の伴った本物の国際職業人の養成を目指しています。

国際社会学部の14の地域/27の専攻言語

世界各地で見えづらい人々の深刻な問題に
フォーカスするのが外語大生

国際人のイメージといえば、たとえば世界の主要な金融センターを縦横に飛び回る姿が浮かぶかもしれませんが、本来の国際化とは大都市のリンクだけではありません。グローバルイシュー(地球的規模で解決が必要な問題)を考えるとき、世界各地で見えづらくなっている人々が深刻な問題に晒されている現実に思いを馳せるのが、本学生の考える国際社会の姿です。学生主催の勉強会も積極的に行われています。たとえば香港からの留学生が「今、自国で起こっている問題を説明したい」と学内掲示板にビラを貼ると、当日は200名収容の教室が他地域を専攻する学生で満席になります。主催者は淡々と落ち着いた論調で学友に語り、聴衆も静かに聴き、質疑が交わされます。気さくな友人関係をただちに“大人スイッチへ切り替え”られることが本学生のカラーであり、自分とは異なる声に耳を傾けることの大切さを心得ている学生が多いですね。

留学の目的はアウェーになって
マイノリティの感覚を実感すること

また本学では留学にも力を入れ、ショートビジット(2~6週間)は単位認定し、長期海外留学(1年程度)は留学先大学で取得した単位を振り替え可能としています。世界65ヶ国・地域172もの協定校に留学できる体制を取り、実践力を養う機会を広げています。留学の目的の一つは、自分自身をアウェーな環境に置くことです。母語が通じない社会で、留学を通じマイノリティとして生きる日常を経験しておくことは、きわめて重要です。さらに、たとえば一口に南アジアといっても、本学が用意している教育体制にはヒンディー語、ベンガル語、ウルドゥー語の主専攻があり、学生は他大学にはない解像度の高い多様性を、カリキュラムの中でも実感していきます。こうして、欧米中心ではない世界像が培われていくのです。帰国後は授業でもサポート体制をとっていますが、留学を始めとする現場での体験を通じて、「ああ、だから教室で学んだことは大切だったんだ」という、実践と座学の活きた関係を認識する効果も学生に生じています。

「大学では“知っていること”が減っていく」の真意

多くの高校生は、高校で学んだ知識が大学進学でさらに積みあがって卒業する、というイメージを持っていると思います。しかし、本学の授業で知識や学びを深めるにつれて、これまで自分が一面的に「知っていた」はずのことが「減っていく」経験をするでしょう。「世界を立体的に学ぶ」という本学部の目的の一つは、世界はそんなに簡単なことばかりでないという現実を知り、「つまりこういうことなんだよね」と軽々に言えなくなる感覚を知ることです。仮に言語が他者理解の単なるツールにすぎないならば、自動翻訳の技術で世界は融合するはずですが、決してそうなりません。単純な理論化が通用しない実践の場でも、十分対応できる人が求められます。困難な状況に対しても常に事象の本質を見つめ、柔軟な思考で向き合える能力が身につくでしょう。

多様性の中で性急に結論を出さず
複眼的に物事をみる

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、オンラインでの授業が続いています。この春以降、学生との対面的なコミュニケーションが断たれた状態にあります。予測しえなかった状況の下で、人との直接のコミュニケーションが断ち切られる事態は世界にいったい何をもたらすのか。そのことを今、本学の学生はレポートや論文の中で深く思考し始めています。また、コロナ禍で困難な状況に置かれた在留外国人の方々に対して、多言語支援のプロジェクトを立ち上げる動きも、本学の卒業生を中心に始まっています。これこそ、「多様性を力に変え多文化共生に寄与する」という、本学のポリシーそのものだと思います。

課題解決には医学的な知見に限らず、人々の社会生活や経済への影響などを分析する社会科学的な視座も不可欠です。国際社会における多様性を考えるとき、性急な結論を出さずこのように複眼的に物事をみることが大事だと考えます。

一緒に考えながら自分の考えを構築する

特定の言語や地域を本格的に学ぶだけでなく、性差別やレイシズム、紛争や気候変動、環境問題に直面しながら、人間の社会はこれからどこに向かうのかを、本学の学生生活を通じて、ぜひ骨太に考えてもらいたいですね。国際社会の様々な問題を共に考え、そこから自分なりの考えを見つけていく姿勢こそ、本学部から社会に巣立っていく卒業生が現に身につけてきた姿、言いかえれば看板倒れに終わらない、本物の国際職業人の姿なのです。