【看護・医療系大学特集】スペシャルインタビュー NPO法人ピースウィンズ・ジャパン「空飛ぷ捜索医療団(ARROWS)」|大学Times

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大学Times Vol.38(2020年10月発行)

【看護・医療系大学特集】スペシャルインタビュー NPO法人ピースウィンズ・ジャパン「空飛ぷ捜索医療団(ARROWS)」

「100年に一度の自然災害」が毎年のように各地で起こり、加えて今年は、全世界がコロナ禍に見舞われている。外出自粛生活の中、未知なるウイルスに立ち向かい、日々献身的に罹患者に尽力する医師や看護師をはじめとした医療従事者の存在が、これほどまでに人々の心に感謝と安心感をもたらしてくれたことはなかったであろう。超高齢化社会を迎えた日本では、医療に携わる人材が今以上に必要になるといわれている。「コロナ禍」の経験は、次世代を担う高校生の進路選択にも影響を及ぼすと推察するが、実際の医療現場では今、何が起こっているのだろうか。NPO法人ピースウィンズ・ジャパンが運営する災害支援・医療支援プロジェクト「空飛ぶ捜索医療団(ARROWS)」のプロジェクトリーダー、稲葉基高医師にリモートで話を伺った。

特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
「空飛ぶ捜索医療団(ARROWS)」プロジェクトリーダー
稲葉 基高(いなば もとたか)

救急専門医、外科指導医、集中治療専門医
長崎大学医学部卒業後、岡山済生会総合病院、千里救命救急センター等での勤務を経て、2018年よりピースウィンズ・ジャパンにて活動開始。
岡山大学救命救急災害医学講座、岡山済生会総合病院にて非常勤。

病院勤務だけではない医師の仕事

「空飛ぶ捜索医療団(ARROWS)」は災害支援と地域医療支援を行うべく、2019年12月にスタートしました。コロナ禍では災害時と同様の支援が必要な状況にありますので、今年は医療・介護従事者へ災害用備蓄のマスクを140万枚、要望のあったビニールガウンを数十万枚支援しました。また介護福祉施設へオンライン研修会を行い、オンライン面会の支援としてタブレット端末を、病院内クラスター防止用のN95マスクやフェイスシールド、不織布ガウンを病院や診療所へ支援しています。人的支援は長崎で発生したクルーズ船乗組員クラスターや愛媛の病院内クラスターに医療チームを派遣し、さらに企業様から寄付を募り、直近ではウイルス対策用の紫外線照射ロボットを医療機関へ贈呈しましたが、これらは活動のごく一部です。

そして今年は7月の熊本豪雨災害や大型の台風9号にも見舞われましたので、いち早く災害現場に入り救助・救命を行いました。

「3密を避ける」中でコミュニケーションを
工夫するチャンス

自然災害での取り組みの中で、難を逃れるために最も大切なのは「人と人とのコミュニケーション」です。しかし今年はコロナ禍の影響で、3密を避けるためにコミュニケーションが取りづらい状況にあり、特に高齢者など災害要支援者へいかに声をかけるかが課題となりました。

ただし、今までの方法が通用しないのは決して悪いことばかりではなく、チャンスの側面もあると考えます。たとえば今回、介護福祉施設へ向けた「コロナ対策研修・相談会」をオンラインで実施しましたが、忙しい中でも多くの参加者があり、効率良く情報やアドバイスを届けることができました。医療系学会も同様で、交通アクセスの悪い地域の医師が東京で3日間参加するのはとても困難ですが、オンラインであれば自宅や診療の合間に参加することが可能です。このように、世の中が大きく舵を切るきっかけにもなっているのです。

「ありがとう」「大変だね」の声が
モチベーション維持に

新型コロナウイルスの蔓延によって、多くの医療従事者は「自分が感染してはいけない」ということを念頭に置いています。そのためには日常生活に制限を加えながら、常に自分を律している現状ですが、医療に携わる人は皆、「これは仕事であり自分の使命」と認識していると思います。決して新型コロナウイルス感染症患者だけを特別扱いすることなく、どのような病気やケガに対しても「目の前の人を助ける」ために、体調管理を万全に行っているのです。

またコロナ禍で苦しい境遇の職業の方もいる中、私たちは「なくならない仕事」でもあります。「ありがとう」「大変だね」と声をかけてもらうなど、皆の期待を背負っているという自覚が、モチベーション維持につながっているのではないかと思います。

春先には医療従事者に対し、差別や偏見から受けた被害が度々報道されましたが、医療現場は仲間の多い職場です。自分と同じ境遇の人はたくさんいるので結束力が強く、仲間と一緒にがんばることができる職業だといえるでしょう。

社会全体の仕事あっての“医療”は
厳しさの中に充足感も

「空飛ぶ捜索医療団(ARROWS)」では東京都の小規模診療所を対象に、「医療現場の声を伝える」独自のアンケート調査を実施(2020年6月、回答数481施設)、集計データをWebサイトで公表している。新型コロナウイルス感染拡大後は、慢性的な消耗物資の不足や受診患者数の抑制など、報道されているような「苦しい病院経営」が続いていることが伺える。一方、医療従事者スタッフ数は「あまり変わらない」が72.8%となった。「20~30%減少」「半数減少」の合計25.5%を大きく上回り、医療従事者の仕事としてのやりがいや、充足感も垣間見られる(下記円グラフ参照)。

現在は【第2波】といわれるように感染者数が再び増えてきており(2020年9月中旬現在)、消耗物資も充足している状況ではありません。市場に出回るようになったマスクなども以前に比べると高額のままで、医療機関は入手が困難な他の消耗物資を確保するためにも高い金額を支払っている状態が続いているのです。新型コロナ以外の患者数の減少で病院経営も苦しく、職員のボーナスカットの話も耳にしました。それでも、苦しいのは医療従事者だけでなく、たとえば飲食や旅行など、もっと大打撃を受けている業界もあります。コロナ禍が去った後、気づいたら「私たちが安らげる店や憩いの場がなくなっていた」のではとても困るし、社会全体でいろいろな仕事やサービスがあっての医療であることを実感しています。

新型コロナウイルス感染症よりも心配なこと

もうひとつ心配なのは、コロナ禍による“3密を避ける生活”を続けることにより、人と人とのコミュニケーションが分断されることです。憩いの場や息抜きの機会がなくなってストレスを抱え、精神疾患の影響や、他の疾患の身体への影響を懸念しています。まだ信頼できるデータは少ないのですが、今後医療機関では、新型コロナウイルス感染症以上に心配な状況になるかもしれません。

さらに、新型コロナウイルス感染症が拡大してから、救急車の搬送時間が長くなっているという、良くないデータが出ています。1年後にはネガティブな影響が各所で表面化するのではないかと案じています。

看護・医療系大学をめざす高校生へメッセージ

医療従事者になって16年、この職業で本当に良かったと思っています。一度も後悔したことはありません。これまでは外科や救急など、時間的にもつらい職場を経験しましたが、その分やりがいや充足感を十分得てきました。医師や看護師になれば、必ず病院に勤務し、専門科の診療をすると思われがちですが、今後はこのスタイルが少し変わるかもしれません。その面ではやや不安定であり、同時に多くのチャンスがあると考えています。超高齢社会が進んで現在の保険医療が今後どうなるかもわかりませんし、IT技術が医療の現場に整備されてくるでしょう。今の高校生が医療従事者として第一線で活躍する20年後、世の中は変わりますが、人の病気やケガはなくなりません。誰かの役に立ちたい、助けたいという気持ちがブレなければ、将来この職業を選択して間違いないと思います。