【農学特集】准教授インタビュー 東京農工大学|大学Times

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大学Times Vol.41(2021年7月発行)

【農学特集】准教授インタビュー 東京農工大学

【農学特集】

東京農工大学は農学部と工学部から構成される日本で唯一の国立大学である。1874年からの前身校を含め、2024年に創基150年を迎える。農学部は5学科で構成、自然科学をはじめ人文・社会科学、獣医学と国際交流にも力を入れ、問題解決力や専門性・創造性豊かな人材を育成している。加用千裕准教授に話を伺った。

東京農工大学農学部 准教授
加用 千裕(かようちひろ)

農学研究院自然環境保全学部門 准教授 (兼任)農学部地域生態システム学科(兼任)大学院農学府 農学部広報・社会貢献委員会委員長

農学部5学科と学びの特徴

①生物生産学科
日本と世界の食料問題、農業生産の現場の問題を広く深く理解し、解決に向けた高度な専門知識を身に付けます。

②応用生物科学科
近年重要視されている、バイオサイエンス・バイオテクノロジーの最先端の教育研究を行っています。

③環境資源科学科
1973年、日本で初めて「環境」を名に冠した学科で、 地域から地球環境まで、広く環境問題を扱います。

④地域生態システム学科
森林、農産地域、都市部を一つの地域と捉え、生態系や人間社会との関わりに着目した問題を自然科学と人文・社会科学のアプローチを融合して解決を図ります。

⑤共同獣医学科(6年制)
獣医師の養成、高度な獣医療をめざします。2012年から岩手大学と連携し、首都圏を中心とした伴侶動物獣医療の実践的な教育を行っています。

5つの学科に共通するのは、入学後から2年前期までは広く教養科目と専門の基礎科目(数学、生物学、地学、物理学、化学)を重視して身に付けます。2年後期からは学生の興味・関心に合った科目を履修しながら専門性を高めていき、卒業年次は指導教員のもとで卒業研究を行います。学生の自主性を重んじ、楽しんで研究・発見を行えるようカリキュラムを整えています。

農学は地球上の諸問題すべてに関わり
「理論」と「実習・実験」で課題解決をめざす

学科全体を通して、「理論」と「実践」の両面をバランス良く学ぶことを重視しています。座学での講義のほか、実習の場として農場があり、学外にも演習林(森林)を所有しているので、土に触れ、乳牛の搾乳や果樹園での収穫、森林に入って生態系の仕組みを学び、必要なスキルを修得しています。近年はSDGsや環境、食糧不足、エネルギーの資源枯渇、気候変動、生物多様性、コロナウイルスのような未知の感染症やパンデミックなど、地球上のさまざまな問題をすべて扱う領域が農学であり、課題解決のためには欠かせない学問なのです。

「国土の約7割」ある森林の有効活用を
自然科学と人文・社会科学の両面で研究

私は森林計画学が専門ですが、「森林計画」とは、対象となる森林を持続可能な形で管理していくためには、どういう計画を立てたら良いかというものです。森林がこれからどのように成長し、どの時期に伐採すると再生産(CO2吸収量や資源量など)できるかを予測しますが、これらを体系化した学問分野です。伐採した木材を日本の家屋や家具など社会で使うことで、全体として地球温暖化とどのように関わり合いがあるかを研究しています。

森林の持つ機能面だけでなく、経済面では、森林資源を地域で加工・使用することで林業など地域内業の新しい雇用が生まれ、売却すれば利益も上がります。地域経済の活性化にも貢献できるのです。環境面だけでなく、社会経済面でも広く森林資源を利用するにはどのように管理すべきか、実践面も含めて教育研究しています。

森林科学は大学ならではの専門領域
世界と日本の異なる現状に目を向ける

森林と気候変動との関係について、高校では体系的に学ぶ機会がありません。1980年代には南・東南アジア・アフリカ・南米の熱帯雨林の森林伐採が世界で問題になり、木を切ると自然破壊に繋がるのではないか、という認識は未だ一部にみられます。地球規模でみると森林減少は現在も続き、それによって地球温暖化が加速しているという側面もあるのです。

しかし日本だけで見ると、戦後に植えた人工林が使えずに余っている状況にあり、世界とは違う現象が起こっているのです。人の手で植えた多くの人工林は、放置すると環境に影響を与えてしまうので管理が必要になります。自分たちの近くの山がそのような状態にあることに興味を持ち、本学に入学した学生もいるのです。

街路樹の剪定枝や下水処理場の汚泥など
都市部はバイオマス燃料資源の宝庫

都市部においても、街路樹などは景観の美しさだけでなく、ヒートアイランド現象を抑える働きがあります。さらに剪定した枝はバイオマス燃料の資源になっているのです。食品廃棄物や下水処理場の汚泥も同様です。これらは今、化石燃料に替わるものとして注目を集め、発電や熱利用で地域に供給しています。この分野でも農学が果たす役割は大きいと考えています。

地球上の問題から地域の課題まで農学がカバーしている領域は幅広く、解決策を提示できるのも強みです。しかし未だに発見できないことも多く、アイデアや熱意のある学生たちに勇気づけられながら、人と自然の共生社会をめざして、教員と学生が一緒に学んでいます。

農学の諸問題を工学のテクノロジーで
解決に導く共同研究

農学部と工学部との共同研究も盛んで、その一例が「野生動物の管理システムの構築」です。クマやシカ、イノシシなどが人間社会に現れて農林業での被害が生じ、経済損失が大きくなっています。解決には、これまでになかった「野生動物の管理の在り方」について考え、構築していかなければなりません。一方では、今まで生態学の分野で蓄積した野生動物のデータが集まり、工学部が得意とするセンサー技術やIoTを使ったビッグデータ解析などを用います。野生動物の行動や生態の解明にはAIを使い、行動予測を明らかにすることで、人的被害や農林業被害を予防できる対策を検討します。今は、一つの学問領域だけで解決できる課題はほとんどありません。本学は、農学部と工学部とのコラボレーションに最適な教育環境を有しているのです。

6割以上の学生が大学院へ進学
学部+修士で学びを深め社会人スキルも修得

本学では「研究」を大事にしていますが、学部4年生の「卒業研究」1年間では研究の入口に立ったに過ぎません。大学卒業後はぜひ修士2年、そして博士課程まで大学院での研究を視野に学びを深めてもらいたいです。「研究っておもしろいな」と気づき始めた頃に卒業では勿体ないです。昨年度の農学部全体での大学院進学率は63.7%で、大学院では研究のほか、より専門性の高い科目を学びます。さらに自分の研究成果をプレゼンテーションする機会も多く、国際学会での発表をめざして英語のスキルをアップする目標も立てられます。将来は研究者にならなくても、コミュニケーション能力など社会人として必要なスキルを身に付けることが可能です。

農学部は男女比5:5
理科数学と英語への抵抗感をなくそう

多様な分野で構成された農学部です。人々と自然との関わりから問題意識が芽生え、興味をもって「解決したい!」と強く気持ちを持つ高校生に、是非ともめざしてもらいたいです。理工系大学でも学生男女比が5:5と、バランスがとれています。自然科学が主力ですので、理科や数学をしっかり勉強してください。さらに将来的には英語が大事です。3年生以降、卒業研究に必要な論文はほぼ英語で書かれているので読解力が必須となります。本学では国際交流にも力を入れ、多くの留学生を受け入れています。今はコロナ禍で休止していますが、1年生から留学できるプログラムもあり、学生に人気です。