【農学特集】教授インタビュー 玉川大学|大学Times

  1. 大学Times
  2. 特集記事一覧
  3. 【農学特集】教授インタビュー 玉川大学

大学Times Vol.41(2021年7月発行)

【農学特集】教授インタビュー 玉川大学

玉川大学は1947年の開学当初から、農学部を設置した農学教育の伝統校である。実践教育を重んじ、LED照射による屋内農園をはじめとしたスマートアグリカルチャーの研究や、農業の6次産業化といった先端的な農学研究をリードしてきた。さらに総合大学の強みを活かした「ESTEAM教育」も軌道に乗り、農学部と工学部、芸術学部との連携を深める新たな教育研究や授業が進んでいる。南 佳典教授に話を伺った。

玉川大学 農学部 環境農学科 教授
南 佳典(みなみよしのり)

専門分野:保全生態学・環境動態学
学びのキーワード:環境変動に対する生物の反応/生物と環境の相互作用/健全な生態系の保全

8学部合同の複合領域
「アーツ&サイエンス」始動

農学部は実践教育を重要視していますが、キャンパス内に実習農地があるのもそのひとつです。敢えて機械に頼らず手で耕し、苗を植える感触を体感しながら、光合成や根の活着など書物だけでは解らない知識を身に付けます。農場実習は、専門分野にかかわらず教員自身も体験することになっており、学生と教員との距離が近く、本学の理念「全人教育」を具現化しているという特徴があります。2021年度から学部を越えた学際的な複合領域として「アーツ&サイエンス」が始まりました。これまでは農学部で製造したワインのラベルを芸術学部がデザインするなどの交流はありましたが、農と芸術の交流が単なる足し算ではなく、掛け算でなければならないという考えのもとで新しい取り組みを始め、授業は英語で行っています。

「自然環境保護学」がめざすもの

先日も神奈川・箱根にある本学の演習林で、本学8学部の学生が参加できる合同授業を行いました。山の中で話す授業は農学部の領域が中心となりますが、最近重要視されている自然保護などの「環境デザイン」について、われわれ生態学を研究している者には考えつかないような発想が、芸術を学んでいる人たちから出ることがありました。これまで芸術学部の学生が森林を歩いて授業を行ったりすることはなかったのですが、新たな発想を醸成するきっかけにもなるでしょう。各学部の学生が自然環境保護を考えるとき、これまで学んできたことをベースにアプローチすることが多いようです。たとえば工学部の学生は建築的なものから考え、芸術学部の学生は生き物についてあまり詳しくないのですが、とても柔軟な発想をみせます。このように単なる座学ではなく、異なるバックグラウンドをもつ学生たちが各々の考えや情報を共有することに意味があるのです。

社会の中でAI(人工知能)が発達すると、ひとつの学部で得た知識や技能だけでは立ち行かなくなります。そのような場合でも、大学で得た幅広い知識で新しい発想が生まれ、新たな職種にも対応できる人材となるでしょう。本学はワンキャンパスに8学部が揃っているので、今後もこの強みを活かしていきたいと考えています。

森が死んだら海も死ぬ
日本列島をひとつの生態系と考える

かつて私たちの先輩の時代には「海は陸の浄化システム」という概念があり、陸地のごみを川に流しても海できれいになるといわれていました。さらに第二次大戦後は、日本中の山々にスギやヒノキをたくさん植林したことで森林が貧弱な生態系となり、後に自然災害が起こると漁場だけでなく、海の生態系全体に被害が出てしまいました。そこで近年は「里地・里山・里海」という山と海が一体であるという考えのもとでの研究が始まっています。特に日本は山国であり、国土全体を海に囲まれているので、湖や河川も含めて日本列島をひとつの生態系として保全するというものです。現在、北海道の屈斜路湖の生態系を研究していますが、山と湖に河川がつながり、釧路湿原から太平洋に注ぐというすべての生態系から保全を考えるというものです。

農学×工学の融合は日本の農業発展の生命線に

農家の方々は環境に敏感です。それは今後の天候や気象がどうなるかを先取りして備えなければ、農作物が立派に育たないからです。農家の方の経験則はご自身のなかで解析されていて、それに基づいて作付や収穫の時期を決めていました。しかしそれだけでは、就農者の高齢化とともに日本の農業は衰退してしまいます。そこでスマートアグリカルチャー5.0という発想が出てきて、熟練した就農者の技術をAIに読み込ませて解析させるようになりました。これから新たに就農する人たちも仕事をしやすくなるでしょう。

農学部でもアグリカルチャーについて中長期的に計画を出す際、AI開発においては工学部との融合が重要になります。そこに芸術学部との新たな発想が加わることで、「日本の農業の未来は明るい」というビジョンを示せるのではないかと考えています。AIは育てることが不可欠です。地道な調査で得たデータを蓄積させなければ、正確な予測が立てられません。今は土いじりしかしていない学生も、ゆくゆくは企業の中でAIなど工学的なアプローチの場でも活躍できるのではないかと期待しています。大学時代に農学部の学生が工学部の学問に触れることで仲間づくりの機会となり、広く世界にも目を向けてもらいたいと願っています。

農学×芸術学 3つの可能性

これまでは「生き物を中心とした自然観」という概念がなく、生態系の保護保全が進まなかった理由のひとつではないかと考えています。コンテンポラリーな芸術家には山中に住み、一日中山を歩いてたくさんの写真を撮り、その中で感じたものを作品にしている人がいます。生物多様性を維持することが重要といわれていますが、人間と自然との共生とは、芸術的な自然観から生まれるアイデアがヒントになるのではないかと考えています。

農学部では収穫の時期に太鼓を演奏しています。これは昔の田楽という日本の伝統芸能に由来しています。農業における祭りや祝い、神事なども含めて「里やま」であり、人間の営みなのです。最近は収穫祭で神楽を取り入れましたが、芸術学部の先生に指導していただきました。田植えの時の伝統的な踊りなど、昔から農学と芸術には接点が多いことに気づきます。

世界的にも、先住民といわれる人々は、独自の伝統的儀式や文化、生活スタイルを維持しています。この中には芸術的要素が含まれていますが、彼らが持っている伝統文化にはこれからの農業に不可欠なものがあり、農学の研究者だけでは考え付かない知識が潜んでいるのではないかと考えています。農学のあるべき姿とは、スマートアグリカルチャーのような先端技術だけでなく、たとえば棚田のような農業を中心とした集落の文化など、伝統とのバランスが大事なのではないでしょうか。完全に機械化した農業だけになると、農地は工場になってしまい、それは農業ではありません。食品を安定して生み出すことにおいて工学的要素は不可欠ですが、一方で農業には伝統文化などの芸術的な発想や精神も大切なのではないでしょうか。他からの良いものを取り入れつつ、自分たちの良いものは遺すというのは、日本人の得意とするところです。日本人のアイデンティティは芸術の中に息づいているので、学際的な視点を養うとともに大切にしてほしい、それが本学のめざす「全人教育」に通じると考えています。

多彩な研究環境で本物に触れる4年間

本学はキャンパス内に実習農場があり、何か疑問があるとすぐに畑へ走って確かめられる環境にあります。「晴耕雨読」の通り実習と座学の行き来から得るものがあり、理論と実践の両方を大切にしています。また北海道の学外施設では循環型農業を体験し、鹿児島では果樹園と海洋生物の観察から農家や漁師の知恵を学ぶなど、フル活用できるのが農学部です。さらに建物の中で食料を生産する施設や最先端の遺伝子研究など、多彩で幅広い農学の学びの環境が整っています。最近は大学院に進学する学生も増え、学部4年間の学びの充実を学生が感じているようです。