【理工系特集】進学を選ぶ学生が増加傾向 理工系学部全体では約4割が大学院へ|大学Times

大学Times Vol.5(2012年6月発行)

【特集】理工系特集 進学を選ぶ学生が増加傾向 理工系学部全体では約4割が大学院へ

ここ数年の不況で、就職に強いといわれている理工系学部への人気が高まっている。文部科学省のデータからも、理工系はここ10年以上、文系よりも高い就職率をキープしている。そんな高い就職率を誇る理工系だが、最近のデータから約4割の学生が大学院へと進学していることがわかった。
今回さんぽうでは、理工系学部の就職・進学状況について分析するとともに、社会的なニーズの高まっている理工系分野として、医療工学と数学・数理科学についてまとめた。

大学院への進学が
当たり前になりつつある

「理工系は就職に強い」といわれているが実際のところはどうだろうか?文部科学省が出した「大学等卒業者の就職状況」を見ると、平成24年4月時点で、文系大学の就職率は93.3%に対し理工系大学は94.6%と1.3%上回っている。過去15年をさかのぼって比較しても、理工系の就職率は文系を上回っており、この数字を見る限り「理工系は就職に強い」というのは間違いではないようだ。

しかし、学部ごとの就職率と進学率を見てみると状況は変わってくる。文系学部のサンプル、社会科学部の就職率が68.4%に対して、理学部39.4%、工学部48.1%と社会科科学部を大きく下回っている。この理由は、先ほどの文部科学省の数字は「就職希望者」をベースに算出された数字で、進学希望者が含まれていないためだ。

では、進理学部・工学部の進学率はというと、それぞれ44.7%・38.2%(参考までに社会科学部全体の進学率は3.7%)。理工系は、学科にもよるが、全体のおよそ4割が大学院へと進学していることがわかる(図1)。一般的に大学院進学=研究というイメージがあるが、最近の理工系学部では、卒業後、就職ではなく進学を選択する学生も半数近くいるというのが現状のようだ。

こういった傾向の理由のひとつとして、就職活動の早期化が考えられる。理工系の学生は、大抵4年生から研究室に入り研究に着手し始める。しかし、就職活動は3年生からスタートするため、面接等で研究内容をアピールすることができない。これでは、理工系も文系もたいして変わらず、“理工系”として評価され企業に就職したい学生にとっては大きなマイナスだ。そのため「理工系就職を目指すなら、研究である程度の結果を出してから」という考えで、大学での研究職と企業への就職の両方を見据えながら修士課程へと進むことは、当然ともいえる。ちなみに、修士課程修了者の就職率は、理学部69%、工学部86%。特に工学部では、修士課程終了後に就職する学生が多いようだ。最近ではこういった齟齬をなくすために、法政大学生命科学部などのように、早期から学生を研究室に配属し研究をスタートさせる学部も増えてきている。

大学での研究職に就くことは、理工系を目指す学生にとっての憧れとも言えるだろう。しかし、今年の3月に科学雑誌『Nature』に掲載された記事によると、国立大学では35歳未満の若手研究者の数が減少し続けているという。その理由は、若者の理工系離れという訳ではなく、そもそも若手の採用枠自体が少ないといった指摘がなされている。他にも様々な視点から原因や打開策が考えられているようだが、結論としてはしばらく若手研究者の減少傾向は続くと考えられている。「日本の科学技術発展のために大学で研究者を目指したい」――そんな気概を持つ若者を、ぜひとも応援したい気持ちはあるが、この現状では研究職一本ではなく、企業への就職も視野に入れた将来設計がしばらくの間は必要となるだろう。

図1 : 理学部・工学部・社会科学部の進学率および就職率

医療現場などで需要が高まる
医療技術者

理工系において、研究者への道は狭き門であるようだが、就職に強いということは揺るぎないと言ってよいだろう。

その一例として、ここ数年、医療現場などでは、医療技術者の需要が高まってきている。医療と工学の知識を持ち合わせた医療技術者は、近年の高度化する医療機器に対応できる人材として、今や医療現場では欠かせない存在となっている。平成24年3月時点での厚生労働省による専門職・技術職の有効求人倍率を見てみると、医療技術者の倍率は2.57%(図2)。この不況にもかかわらず着実に需要が伸びてきていることがわかる。

今年の4月、手術用ロボット・ダヴィンチによる前立線除去手術に保険適用が認められ、先端医療後進国といわれている日本の医療に変化の兆しが見え始めた。こういった流れが進み、日本で先端医療が盛んになれば、医療技術者の需要はますます高まると予想される。
医療技術者になる方法のひとつとして、大学で生体医工学を学ぶという道がある。生体医工学を教える代表的な大学には、岡山理科大学(工学部生体医工学科)、東洋大学(理工学部生体医工学科)などがあるほか、今年度から広島工業大学の生命科学部に生体医工学科が誕生している。

図2 : 医療技術者の有効求人倍率の推移(平成21年2月〜24年3月)

企業の開発部門などでも
数学者を求める動きが

国、大学、企業が一丸となり、数学・数理科学と産業との連携を高めようという動きがある。文部科学省では「数学・数理科学と諸科学・産業との連携研究ワークショップ」を平成23年度から実施。情報化・複雑化した社会の様々な問題を、数学・数理科学を用いて解決し、既存の枠組みを超えたイノベーションを生み出し社会に貢献することを目指している。一般企業でも数学・数理科学を取り入れる動きが活発化しつつある。大手化粧品メーカーの資生堂では、化粧品開発のために数学者を採用。理想の肌状態を数式で表すことで、肌の老化を抑える画期的な商品の開発を目指している。また、車自動車メーカーのマツダ技術研究所では、エンジン開発のために数学の専門家を雇い入れた。エンジンの部品の動きなどを数式で表すことで、性能分析にかかる時間を大幅に短縮したという。新しいエンジンの開発にも、数学者の活躍を期待しているという。こういった動向の中、2013年4月に明治大学総合数理学部が東京・中野に開設されることが決まった。同学部では実社会における数学・数理科学の役割を教えながら、様々な分野で活躍できる数学者の育成を目指す。

数学(数理科学)は全ての科学技術の基盤となる学問。国・大学・企業が一体となり、数学・数理科学と実社会を結びつけようというこの試みにより、今後、様々な分野で技術の発展がみられることが期待できそうだ。