大学Times Vol.23(2017年1月発行)
千葉工業大学では近未来を見据えた「研究開発」を積極的に行い、そのための環境を整備。 研究分野もロボット、惑星探査、海底資源など多岐にわたり、世界トップクラスの研究成果は数多くのテレビ番組や新聞・雑誌等で取り上げられている。さらに研究成果を広く一般に公開し、テクノロジーと人々を繋げている。
fuRoには「未来のロボットの研究開発」「産学連携(産業界=企業と大学が共同で研究を進めること)をしながらロボットの新産業を立ち上げる」「ロボットの機能とデザインを一体化して無駄を省き、デザインを追求することからロボットの性能の向上を目指す」という3つの柱がある。
fuRoが企業との共同プロジェクトで開発した、近未来のパーソナルモビリティー(個人向け移動車)「ILY-A」(写真右)が世界で高く評価されている。
ベビーカーとほぼ同じ大きさで、ビークル、キックスケーター、カート、キャリーの4つの形態に変化。ロボット技術を応用した「知能化安全技術」を搭載し、突然飛び出してくる人などを認識して、自動で速度を減速し制動・制御する機能を持っている。
「ILY-A」は2015年12月に「グッドデザイン・未来づくりデザイン賞」、2016年2月にはドイツ「iFデザイン賞2016」、7月にはドイツ「レッドドット・デザイン賞」の「レッドドット賞・デザインコンセプト2016」を連続で受賞した。ドイツの2つの賞は世界三大デザイン賞に数えられている。デザインの概念のみならずアイデア、先見性、将来性などを重視して選定され、この部門には60カ国から4698件のエントリーがあった。
「宇宙科学・惑星科学研究」と宇宙活動を行うための「基盤技術研究」を目的としてスタートした本学の惑星探査研究センター(PERC)は、国際宇宙ステーションの「メテオ」プロジェクトに参加している。2014年と2015年の2度、物資補給船を運ぶロケットが続けて爆発し、搭載されたPERCの超高感度CMOSカラーハイビジョンカメラが失われる悲劇に見舞われたが、2016年に打ち上げられたカメラによる、世界初の流星観測がスタートした。
PERCは今後2年間のメテオプロジェクトの観測で得られる膨大なデータを基に、流星の飛跡や明るさから流星塵の大きさを求めたり、流星発光の輝線の分光観測から、流星塵の化学組成を調べる。これによって流星塵を放出した母天体(彗星や小惑星)の直接探査に迫る科学成果が得られ、地球の成り立ちや地球生命の起源の研究の新たな展開につながることが期待される。
大気上部は、宇宙から地球へ微生物やウイルスが入ってきているのか、また地球の生物が宇宙空間へ出て行くことがあり得るのかを知る手がかりになる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、成層圏でも微生物が存在する可能性が高いと考えられている。
2016年度に行った実験では、成層圏に浮かんでいる微生物を、新たに開発した地上微生物の混入の可能性が少ない装置を用いて採集し、顕微鏡を用いて直接分析。それにより、成層圏に微生物がどのくらい存在しているのか、存在しているとすればそれは何故か、という手がかりを得ることで、謎に包まれていた成層圏微生物の全体像に迫っていくことを目標としている。当プロジェクトは、試料採集装置を大気球で成層圏まで上昇させて切り離し、パラシュートで降下しながら浮遊微生物の採集に成功した。現在、採取された微生物試料の初期分析に取りかかっている。
「マンガン団塊」「コバルトリッチクラスト」「熱水性硫化物鉱床」に加え、近年発見された海底鉱物資源「レアアース泥」など、レアメタル・レアアースの有望な資源である海洋資源の実開発には、未だどの国も成功していない。本学次世代海洋資源研究センター(ORCeNG)では、世界初の海洋資源開発実現に向けて、海洋資源の探査・揚鉱・選鉱・製錬といった基礎から応用にわたる多様な研究・開発を実施。その研究成果をもって社会を牽引し、関連産業の創出・発展を誘発して日本再生の起爆剤とすることを目指している。
ORCeNGでは、国立研究開発法人海洋開発研究機構(JAMSTEC)、東京大学と協同で行なった 2010年~2016年4月にかけての複数の航海により、南鳥島周辺の排他的経済水域の南部から東部にかけての深海底(水深5,500-5,800m)に広大なマンガンノジュールの密集域を発見した。これまで、我が国では小規模なマンガンノジュールの分布は知られてたが、深海底に広大なマンガンノジュールの分布が見つかったのは初だという。これにより、日本周辺における海底資源の研究開発の推進が期待されている。
英高等教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」の「世界大学ランキング2016-17」が2016年9月に発表され、本学が初めてランク入りを果たした。選ばれた上位980校に入った日本の大学69校のうち、私立大学は22校。本学のランキングは「801位以降」(個別順位は非公表)で、産業界からの受託研究費獲得額や国際的に引用された英文論文数、国際性、教育環境などで高い評価を得た。世界大学ランキングは2004年から毎年秋に公表され、英語圏の大学関係者の国際交流の場では「貴学はTHE何位ですか?」があいさつ代わりになるなど、世界中の受験生が進学大学を選択する際にも影響を与えている。
「世界文化に技術で貢献する」という建学の精神は真のグローバル化そのものであり、時を経ても色褪せることなく、今日まで受け継がれている。
未来ロボティクス学科には現在11名の教員が在籍し、全員がロボットに関連することを教えています。10年前の学科スタート当初から、ロボットの製作をはじめとした独自性のあるカリキュラムですが、大きな特徴は1年生から専門科目の授業があり、実習では学生一人ひとりが、半年に1台のペースでロボットを製作しています。
大学の一般的な授業は基礎から応用を学びますが、本学科の一部の授業では実習などで具体例を先に体験し、その後に基礎理論を教えます。たとえば数学や物理などで「この数式はロボット開発にどう応用するのか」と疑問を持ちながら理論ばかり先に勉強しても、研究室に入る4年生まで、具体的な繋がりのないまま理解を深めるのは難しいのではないか、という思いがあるからです。
実際に開発技術などの実務を学びたいという学生も多くいるので、先に実習を行い、その後に理論を学ぶことで学習する意欲に結び付けるのが必要だと考えます。
本学科はロボットの研究開発を行いたい学生が集まっているので、学生たちの願いを叶えるべく、私が学生の時に“あってほしかった”学びの環境を整えることを心がけています。その一つが「ロボカップ」(自律型サッカーロボットの世界大会。2050年にワールドカップの優勝チームを破るロボットを開発することを目標としている)の出場でした。
ゼロからのスタートでしたので、学生たちの「挑戦したい」という意欲を私たち教員が手助けし、継続して10年目になります。当初は、自律型のサッカーロボットが世の中にほぼ存在せず、その技術も公開していない状態でしたので、学生たちと仮説を立てて問題をクリアするために実験を繰り返しました。学生たちの努力とひらめきに企業の技術サポートも加わり、年々進化させていきました。直近の成績は世界大会のテクニカルチャレンジ部門で5年連続第1位、キッズロボット4対4の試合ではこの3年間で優勝2回、3位1回という成果を挙げています。「ロボカップ」は出場ロボットの技術をすべて公開しているので、前年と同じレベルでは続けて良い成績を挙げられません。サッカーという試合形式ですが、自律ロボットの技術向上のために各国の技術者が協力し合っている場でもあるのです。さらに対戦結果と技術貢献が評価の対象となり、出場技術者の投票で最優秀賞にあたるルイヴィトン・ヒューマノイド・カップをチームで受賞しました(2014年大会)。
「ロボカップ」は未来ロボティクス学科の垣根を超えて、学生が自由に集まって取り組んでいます。
「ロボカップ」のほか、「つくばチャレンジ」にも挑戦しています。通行人や自転車などのいる日常の公道を、自律ロボットがゴールを目指して走行します。障害物など問題を解決しながら、約2km先まで周りを認識しながら考えて動くのですが、上手くいかなかった情報も含めて、開発に関する情報をすべて公開しているのが特徴です。他の研究者も活用することができるので、その結果をフィードバックしてくれるなど、各研究室の垣根もなくなりつつあります。世界中の人が一つの研究室となって、目的達成に向かってチームワークで切磋琢磨しているのです。
「ロボット工学」というのは多くの技術から構成されていて、「機械工学」「電気工学」「情報工学」を総合的に学びます。これによって、ロボット全体が見渡せるようになります。これらの要素は、ロボットだけでなく、自動車や家電などを開発するときも必要になってくる技術であり、ロボットを学ぶと工学の全体像が解かってきます。つまり、ロボット工学を学ぶと、それによって視野が広くなり、卒業後はロボットの研究開発だけでなく、幅広い分野で活躍できる素地ができるのです。
本学科の卒業生は「モノを考える」ことと「作る」ことの両方ができるので、実社会へ出てからの強みにもなっていると思います。卒業後は国内のメーカーで研究開発の職につく人と、大学院へ進学する人が半々の割合です。
また本学では実際に、ロボット製作のできる環境が揃っているのも強みです。災害時の探査レスキューロボットをはじめ、本学で製作したロボットを国内外のあらゆる場所に提供しています。自ら理論を考えて解釈し、自分の手で実際の形にできるというのが大切で、本学科ではその点を目指して学生と共にロボットの開発を行っています。
実習と講義はリンクしていて、1年生の初めに手さぐりでロボットを製作し、そこで得たあらゆる疑問点を持って、講義の中で一つずつ解決しています。数式や設計図だけでなく、実際の部品の形状なども解説することで、教科書と実習を結び付けているのです。
また「ロボットに向き合う」ことで、問題が解決できているかどうかも解かります。動かなければ、現時点でまだ何かが足りていないことを実感し、解決に向けて努力を重ねてゆけるのです。研究という点でも問題発見の場となり、チームで情報を共有し、分担しながら皆で解決することになります。チームワークも重要になります。
最近実用化されつつある自動運転の技術は、世界中の「ロボカップ」出身者が数多く取り組んでいます。物流倉庫などで人の代わりに働き、サービスを提供するロボットが活躍し始めました。通販の米国アマゾンが買収した物流システムはビジネスとして成立し始め、自動車の自動運転は世界の各メーカーやグーグルも開発を進めています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの時には、今より一歩進んだ技術での実用化を目指しています。
米国のグーグル社が開発した自律運転カーは一部で実用化が始まり、弱視の人の移動手段として紹介されています。技術があっても、それを「使いたい」と社会が受け入れるかどうかは別の問題だと考えます。
AI(人工知能)とロボティクスが発達すると、世の中が大きく変革します。物流や自動運転をはじめ、今まで人が行っていたことがロボットに替わると、たとえば一日の労働時間や、社会インフラ自体も変わっていくでしょう。技術の進化は今後も止めようがないので、実際にロボットを作る工学のエンジニアは、これから世の中をどう変えていきたいのかを慎重に考える必要があります。
ロボットを学ぶのは「ドラえもんのポケットを持つようなもの」だと思います。電気も機械も情報もすべて学ぶので、「今ないものは作ればいいよね」という境地に至ります。手先の器用さよりも、情熱があれば大丈夫です。
ロボットの研究開発に興味のある人が学ぶには、本学科は良い環境だと思います。
【プロフィール】
林原 靖男 教授
筑波大学第3学群卒業、同大学院にて博士号取得。桐蔭横浜大学にて助手、専任講師、准教授を経て、2006年度より千葉工業大学未来ロボティクス学科准教授を経て現職