大学Times Vol.23(2017年1月発行)
理工分野の知識があまりない人にとって、「生体医工学」という言葉は聞き慣れないかもしれないが、病院での検査に使う心電図やMRIなどの検査機器や障がい者のための義足、車いすなどの福祉機器の研究・開発というとわかりやすい。日々、進歩する医療と福祉に貢献する生体医工学について、日本生体医工学会 理事・花房昭彦教授に伺った。
生体医工学とはどのような学問ですか。
病気の診断や治療を行うために生命現象や病気のメカニズムを知らなくてはなりません。生体医工学は医学に工学技術を取り入れて、生命現象を明らかにし、診断や治療に有効な手段を提供する新しい専門分野です。
生体医工学はまだ、多くの人々には浸透していないかもしれませんが、現在の医療現場には大変多くの機器が使用されており、工学の知識や技術が、医学の進歩を支えていると言っても過言ではありません。さらに、超高齢社会における福祉分野を支えるための機器の開発も生体医工学の一分野です。
また、メカトロニクス工学をベースに人工臓器や医療福祉ロボット、福祉リハビリテーション機器など生命・生体機能を維持・回復させる装置や、より人に優しく使い易い製品の設計についても学修できます。
先生が研究されていらっしゃる専門分野は何ですか。
車いすをはじめ、福祉人間工学について研究しています。障がいや病気を患い、思うような生活を送れない人々に、不自由のない生活ができるようサポートするための機器や装具の研究や開発をしています。たとえば、車いすに座るときに重要な姿勢を保持したり、腕が動かせない人のための装具の開発、また軽くて、さらに歩きやすい義足の研究などもしています。
また、福祉機器だけでなく、いくつかの大学の医学部と連携して、内視鏡手術用のロボット、脳外科で脳腫瘍を摘出するための鉗子、麻酔の針をどこに打つか支援する装置といった医療機器の開発も行っています。
生体医工学は機械工学に医学の知識を必要としますね。
それだけではありません。生物学、生命科学、電気・電子工学、化学、情報工学など広い分野にわたる知識を必要とします。幅広い知識を修得し、その上で学生がそれぞれ「医療機器を作りたい」「福祉に役立つ技術を学びたい」「体の仕組みと健康について勉強したい」など希望に沿って、関連分野である医療機器、医用画像、人工臓器、福祉機器、再生医療などについて深く学んでいきます。
また、生体医工学は、一人の患者さんの人工臓器や装具などのために医師や理学療法士、作業療法士、義肢装具士、看護師、臨床工学技士、臨床検査技師、介護福祉士などさまざまな分野の専門家とコラボレーションを行うことで研究を進めていきますので、チームワークがとても大切です。
生体医工学を学ぶことで、就職先に関してはいかがですか。
大学で資格を取得できる場合には、病院で臨床工学技士、臨床検査技師、臨床ME専門認定士として勤める場合もあります。当学科では,医療機器、福祉機器、リハビリテーション機器会社の技術者としての就職を希望する学生もかなりいます。しかし、生体医工学は先ほども述べたように機械、電気・電子、情報工学、化学などの知識を幅広く修得しているので、たとえ医療機器関係でなくとも、電化製品、自動車、健康器具、情報技術関連などさまざまな企業で活躍することができ、就職の幅を大きく広げることができます。
生体医工学を学ぶにあたり、どんな学生が向いていますか。
まずは、「人の役に立ちたい」「医療福祉に関連するものづくりで社会に貢献したい」と考えている人です。そして、大切なのは、一人ひとりの立場に立って、その人に合うものを作るために観察し、話をよく聞くことです。つまり、一人ひとりに興味を持つことが大事です。
通常、産業用ロボットは人が触れないことを原則として製造されますが、医療福祉のためのロボットは人に触れることを前提として作るので、細部にわたって安全で、使う人に寄り添った製品を作らなくてはなりません。
そのためにも、人とのコミュニケーションができる人が向いていると思います。
生体医工学は数年前と比べても、格段の進歩を遂げ、未来に向けて若い人たちによってまだまだ発展していく分野です。人の役に立つ工学技術の研究をしたいと考える高校生は是非学んでほしいと思います。また当学科でも約3割が女子学生ですが、医療・福祉という点からも、女子学生に是非興味を持っていただき、活躍していただきたいと思っています。
日本生体医工学会
生体医工学科活性化委員会
花房 昭彦(はなふさ あきひこ)教授
芝浦工業大学 システム理工学部生命科学科生命医工学コース
1981年 東京大学大学院工学研究科精密機械工学専門課程修了
1983年 富士通株式会社
1993年 職業能力開発総合大学校 福祉工学科
2009年 芝浦工業大学 システム理工学部生命科学科生命医工学コース教授、現在に至る