大学Times Vol.26(2017年10月発行)
東京女子大学は2018年に創立100周年を迎える。初代学長・新渡戸稲造の提唱した真のグローバル精神と人格教育は、今日まで色褪せることなくDNAとして受け継がれている。急速に変化する時代に対応し、次の100年に向けて「グランドビジョン」を打ち出した同大学が開学時より掲げる「リベラル・アーツ」や「女子教育」への想いについて、小野祥子学長に話を伺った。
本学は1918年、日本ではまだ女性が大学に行くことが叶わず、高等教育を受けられなかった時代に、北米のプロテスタント諸教派らの援助によって建学されました。以来今日まで、キリスト教主義に則ったリベラル・アーツ教育を実践し、来年で創立100周年を迎えます。
本学のリベラル・アーツ教育の特徴は「自ら主体的に学ぶことを学ぶ」という点にあります。そのためには視野を広く持ち、自ら考えて問題を解決するために、幅広く学びつつ物事の本質を見極めることが大切です。本学では学科科目と全学共通カリキュラムをリベラル・アーツ教育の二本柱として、その両方を重視しています。そして学生は卒業論文や卒業研究に取り組みながら、主体的に学び問題解決をまとめ上げることで、十分な問題解決力をつけて卒業します。
大学で学んだ専門科目の知識が、生涯そのまま通用するとは限りません。大切なのは卒業してからの人生をどう生きるかで、総体としての「学ぶ力」を養うことは、社会に巣立ってからも大いに役に立つと考えています。社会の変化が年々早くなり、専門知識だけでは解決できない、新しい問題や課題に対する適応力はますます必要になります。少人数教育で協調性を育みながら、生涯学び続ける知性も身につけます。
本学の初代学長・新渡戸稲造が提唱したのは「人格教育」です。個性を尊重し、一人ひとりを大切にする教育のことですが、開校式で新渡戸稲造は、社会を「ひとつの織物」にたとえ、「縦糸(男性)と横糸(女性)のどちらかが弱いと織物として成り立たない」と話しました。また教師と学生が対等であるという姿勢は、「神の下の平等」というキリスト教の精神によるものです。本学学生は「キリスト教学」を必修としていますが、キリスト教信者になることが目的ではなく、キリスト教の真髄である他者への奉仕や個性尊重の精神を学んでいます。本学の校章にもある「犠牲と奉仕」は、男女や国、人種など分け隔てなくキリスト教精神に基づいて他者に対して奉仕するという意味です。
第二代学長の安井てつは「自然の中で静かにものを考える」という、緑豊かな環境の大切さを提唱しました。善福寺キャンパスは元々緑のほとんどない平地に建てられましたが、卒業生たちの募金などで1本ずつ木を植え、今では緑豊かで閑静なキャンパスに育ちました。
さらに「本学には、ここで学んだ人にはわかるsomethingがある」という安井てつの言葉が伝統の一つとなっています。“something”はキリスト教精神がもたらす自由な学びや、他者のためにという寛容さなど、キャンパス全体を包む独特な雰囲気を指し、豊かな緑と共に今日まで受け継がれています。
建学以来、自立した女性を育てることを実践していますが、現在の日本はまだ十分に女性の力を活かしきれているとは言えません。本学は女子大学の特色を生かし、女性に特化した教育を行うことで、社会に出てからも女性のパワーを生かした活躍ができるようカリキュラムを整えています。
総合教養科目には、女性として一生の中で変化する身体のしくみや、女性の生涯を支える心身の健康について学ぶ「女性のウェルネス」という領域があり、多くの学生が受講しています。このような知識を修得することで自分の心身のコンディションを知り、さらに自分の健康のケアやマネジメントをしていく知識を身につけていきます。そして「キャリア教育」を単に就職支援と捉えず、卒業後も生涯にわたり学びながらステップアップをめざすべく、ワークキャリアのみならずライフキャリアを支援する場として「エンパワーメント・センター」を設けました。たとえば卒業後のキャリアアップや、子育てを終えて社会復帰したいなど、何らかの形で社会に貢献したいと考える人々をサポートしています。
2018年4月より、現代教養学部がこれまでの4学科から5学科に変わります。リベラル・アーツ教育を進化させ、建学の精神から繋がる「グローバル教育の強化」と、「実践的学びの導入」が大きな特徴となります。
新設の国際英語学科は、英語を国際共通語として捉え、英米だけではなくワールドワイドに英語文学・文化、英語教育および実践英語を学びます。将来は卒業生が企業はもとより、教育職をはじめ、国際機関や通訳、ビジネス、NPOなど幅広く国際社会の最前線で活躍することを想定しています。
同じく心理・コミュニケーション学科は、従来の心理学に加えて、新たに国家資格となる公認心理師の養成に対応し、インバウンド面で加速する日本の国際化や、多文化共生の中でのコミュニケーションについての学びを視野に入れています。
また国際社会学科コミュニティ構想専攻は、都市計画や街づくりなど行政あるいは観光に女性の視点を生かすことを目的としています。たとえば地元の川を通じて、ふるさとを再生するなど新しい研究も始まりますので、女性に適した分野に発展するよう、期待しています。
東京女子大学学長 小野 祥子(おの しょうこ)
1970年東京女子大学文理学部英米文学科卒業。
1973年東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程修了(文学修士)。
1982年より東京女子大学文理学部専任講師、1988年同助教授、1995年同教授。専門分野は英語史。現代教養学部全学共通教育部長などを歴任。2014年4月より現職。