看護・医療系大学特集学部長インタビュー
医系総合大学の強みを生かしコロナ禍でもポジティブに医療人教育を推進する~昭和大学~

大学Times Vol.38(2020年10月発行)

【看護・医療系大学特集】スペシャルインタビュー NPO法人ピースウィンズ・ジャパン「空飛ぶ捜索医療団(ARROWS)」”

1928年創立の昭和大学は、日本の大学でも数少ない医・歯・薬・看護・理学療法・作業療法の各学部学科を有する医系総合大学である。その強みは50年以上続く初年次全寮制教育(富士吉田教育部)や首都圏8か所の附属病院実習など、入学直後から【チーム医療教育】の学びが、学内で完結できることにある。コロナ禍でも安全を担保しながら感染管理教育を徹底し、アクティブラーニングを導入したICT教育改革を推進しているという。下司映一保健医療医学部長に話を伺った。

昭和大学 保健医療学部長 内科学教授 医学博士 下司映ー(げしえいいち)

昭和大学 保健医療学部長 内科学教授 医学博士
下司映ー(げしえいいち)

建学の精神「至誠一貫」のもと8職種の医療人を育成

本学は広く社会に貢献できる、優れた医療人を育成するため昭和3年に創設した大学です。建学の精神「至誠一貫」とは、相手の立場になってまごころを尽くす、という意味で、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、助産師、理学療法士、作業療法士の計8職種の医療人材を育成しています。特に附属の8病院には最先端医療を行う急性期病院に加え、歯科専門、リハビリ専門、精神科専門病院もあり、約3,100床の病床を有し、全学部のすべての学生が附属病院で臨床実習を行うことが可能です。

チーム医療の基礎は富士吉田キャンパスの4学部での全寮生活から

【チーム医療】のベースとなるのは、初年次教育における4学部での全寮生活です。入学後すべての学生は、富士吉田キャンパスで寮生活を行い、医・歯・薬・保健医療の4学部から1名ずつの4人部屋での共同生活を通じて“横のつながり”を育み、学部間で連携したチーム医療教育をスタートします。学部が違う4人の学生が同じ部屋で寝食を共にすることで、他者への思いやりと共生のこころを育み、幅広い視野を養い医療人としての基礎を固めます。この制度は1956年から始まって半世紀以上経った今日まで受け継がれており、かつて本学の医学生だった私も経験しました。「一つのチームで患者のために考える」というチーム医療教育の基礎を徹底することで昭和大学人の絆を築き、2年次以降の学びにおいても大きな意義をもたらすことは間違いありません。今でこそ【チーム医療】の重要性が医療・教育の場でも認識されていますが、本学では長きにわたり、独自のチーム医療教育を実践しているのが大きな特徴です。今年はコロナ禍のため前期はすべてオンライン授業となりましたが、入学生の約95%の学生が入寮を希望し、570名の学生、教員、事務職員、給食スタッフ等全員がPCR検査を受け、万全の準備で9月から寮生活をスタートさせました。本学では学内にPCRセンターを新たに設置し、速やかな検査体制を整えています。また今回入寮を希望しなかった学生に対しても、遜色なく学べるように配慮しております。

医療×教育のプロが教える臨床教員制度

本学の附属病院で勤務する看護師や理学療法士、作業療法士には博士・修士の学位を持つ職員も多く、保健医療学部の教員(臨床教員制度)として臨床実習の責任者を担っています。最先端の医療を実践している教員から指導を受けることで、学生はより実践的に学ぶことができ、本学の誇れる教育環境のひとつでもあります。最終学年で行われる学部連携病棟実習では、1年次から育まれたチーム医療教育の実践の場として、4学部からなる学生が1つのチームとなり、医療チームの一員として附属病院の入院患者さんに医療を実践します。

コロナ禍をステップにオンライン授業でもアクティブラーニングへ移行

本学では2、3年後を見据え、コロナ禍をステップとして捉え教育改革を推し進めています。能動的な教育による【学修】をめざし、今年度から学生が自ら学ぶ【アクティブラーニング】を多く導入しています。ICT教育改革はコロナ禍以前から準備を進めていましたが、前期のオンライン授業から導入が可能になりました。これまでの対面授業をそのままオンラインで配信するのではなく、学習環境をさらに充実させ、学生が自ら考え、他の学生と対話を重ねる方式にしました。

具体例としては、90分のオンライン授業のうち初めの20分程度をパワーポイント資料等で配信授業を自分の学習進度に合わせて受けます。その後、提示された課題を学生自らが考え、残りの40分でオンラインにて討議を行います。その中で、他の学生と討議を重ねるグループワークを積極的に行ない、最後に教員による統合を行い、学習の深化を図っています。

新型コロナウィルス感染症の拡大によっては、前年度までのように毎日の登校が難しい状況が継続することも予想されます。今後、1週間のうち、登校する曜日は対面で技能・態度を学ぶ授業を中心に行い、オンラインの曜日はアクティブラーニングを推進できるよう、時間割にも配慮しながら、学修の環境面を整えていく準備を開始しました。

学生生活の不安に寄り添い吸収する
指導担任制度・修学支援制度を活用

アクティブラーニングは学生によって多少の向き不向きがあり、修熟度に差が生じてしまうことがありますので、学修成績の芳しくない、落ちこぼれてしまった学生はいち早く見つけてフォローアップが必要だと考えます。そのためには、全学生に教員の目が届く「指導担任制度」「修学支援制度」を有効に活用しています。現在はオンラインも活用しながら、指導担任が週1回程度の学生面談を行っています。大学に登校できなかった前期では、積極的にオンラインを活用し「入学したのに大学に行くことができない」など、学生一人ひとりの不安に対するケアも行いました。1人の教員が各学年4、5名の学生をみるという距離の近さや面倒見の良さもあり、指導担任を通じて先輩後輩の交流も生まれます。

今年度は、コロナ渦の状況の中での対面授業の再開時、学生らが「大学で勉強できる!」といきいきとした姿をみせていたのが印象的でした。今までにない向学心が芽生えているのではないかと受け止めています。

学生生活のフォローアップとしてはこのほかにも、オンラインを活用し、学生生活のあらゆる不安などを、できる限り吸収する仕組みを整えています。

コロナ禍だからこその感染管理教育を徹底

本学部では、対面授業開始前に、学生自らが感染管理を行い主体的に学修できる環境を整えるために、これまでに体系的に実施してきた感染管理教育を1年生から4年生の全学科の学生に行いました。手の洗い方から正しいマスクの付け方や外し方、飛沫防止ガウンの脱着のしかたをはじめなど、医療人として必須となる知識と技術の教育を繰り返し行いました。また、附属病院の臨床実習の前には全員がPCR検査を行い、安全性を担保しており、前年度までと同様な実習が可能です。検査費用は大学の予算で賄っています。PCR検査の前には検査の目的を考えることにより、感染管理の重要性を再認識する機会としました。

本学では、これまでICT教育改革を推し進めてきましたが、コロナ渦をきっかけにさらなる大きな教育改革を進めていきます。