グローバル系大学特集学部長インタビュー
一つの価値観に縛られず広い世界を知りお互いが豊かになっていく
~国際基督教大学(ICU)~
大学Times Vol.40(2021年4月発行)
グローバル系大学特集
- スペシャルインタビュー 国連大学
- 副学長インタビュー 青山学院大学
- 学部長インタビュー 国際基督教大学(ICU)
- 学部長インタビュー 東京外国語大学
- 学部長メッセージ 上智大学
- 学部長インタビュー 神田外語大学
- 教員インタビュー 学習院大学
- 副学長インタビュー 国際教養大学
ICUでは、2020年秋学期から対面とオンラインを組み合わせた授業形態を導入、コロナ禍においても常に”ICUらしい学び”を実践するべく授業改善に取り組んできた。世界各地で留学中の学生や、海外からの留学生の多くは途中帰国を余儀なくされた一方で、このような事態でも国際交流はかたちを変えて続けられたり、オンラインの特性を活かした授業が実現するなど、新たな展開もあったという。石生義人教養学部長に話を伺った。
国際基督教大学(ICU)教養学部長
石生 義人(いしお よしと)
Baylor University大学院社会学修士課程修了(MA)。University of Minnesota大学院社会学博士課程修了、博士号(Ph.D.)取得。2000年国際基督教大学助教授として着任、2012年から教授。2020年4月より現職。専門は社会学、おもに、アメリカ人の愛国心に関する研究。
留学を断念せざるを得なかった2020年
国際交流のかたちもオンラインに
コロナ禍は世界的な問題であり、ICUでも留学生の受け入れ、派遣ともに難しい状況となりました。国の方針のもと、学生の安全を確保するため、外務省が発表した「感染症危険地域」に赴いた学生は速やかに帰国させなければなりませんでした。ICUで学んでいる留学生たちも、大半は自国へ帰国しました。1~2年生対象の海外英語研修(SEA)プログラムや、9月からの新たな交換留学の派遣も断念しました。日本の大学すべてが同じような状況となり、「留学が夢だった」多くの学生たちにとっては、とても残念な結果となりました。2021年9月からの交換留学については、ICUだけでなく各国の受入先の大学も方針が決まっていません。
一方で、ICUの協定校である香港バプテスト大学や米ノースカロライナ大学などでは、オンライン授業が開講され、現地に渡航することができない学生も、オンラインで留学することができるようになりました。これまでにない形での海外大学との繋がりが生まれたことで、今後の連携の可能性が広がりました。さらに世界中の大学がオンラインで繋がることで、これまで招聘が難しかった海外の大学教授によるゲスト講義なども、実現しやすくなりました。私は当初、オンライン授業には懐疑的だったのですが、学生、教員双方からの強い不満も噴出せず、むしろ、世界中の人々が手軽に集えるなどといったオンラインならではの可能性を見出すことができました。さまざまなかたちの国際交流が、より活発になっていくのではないでしょうか。
これからもオンラインの良いところは、積極的に取り入れていきたいと考えています。
教員の創意工夫と「対話」の文化で可能性が広がったオンライン授業
ICUでは教員たちがお互いに助け合いながらオンラインアプリケーションを学び、教育の質を落とさないように創意工夫を行っています。なかには、オンラインだからこそ実現できた授業もありました。「環境研究」という授業では、教員はどこにいても良いという利点を活かし、教室を飛び出してキャンパス内で行われている縄文式住居跡の発掘調査の現場から授業を行いました。
特にコロナ禍のような急激な社会変化が起きる時には、従来のやり方が通用しなくなり、新しい知識や考え方が必要になります。柔軟な思考を持ち、物事をクリティカルに考えられる人の方が、変革にうまく対応できるのではないでしょうか。ICUのリベラルアーツ教育は、そういう素養を育む教育なのです。
ICUの学びの特徴でもある「対話」を象徴するツールとして、毎回の授業終了後に学生がその授業への意見や質問を記入して教員に提出する「コメントシート」があります。このコメントシートは、オンラインでもその効果を発揮し、教員も学生からのフィードバックを授業の改善に役立てたようです。ICUでは対話の文化があったからこそ、オンライン授業においても幅広い知の機会を提供できたのではないかと考えています。
新入生を孤立させない「少人数教育」
2021年春学期は、対面とオンラインを組み合わせる授業形態「ミックス式授業」を導入しました。これはオンライン授業と対面授業をフレキシブルに組み合わせた授業です。こうして、キャンパスに来ることができない学生のニーズに応えながらも、対面で参加できる授業を増やしました。ハード面でも必要な機材を常設する教室を増やし、ヘルプデスクを強化したりするなど、授業支援体制を強化しています。
また、本学の1年生は全員、リベラルアーツ英語プログラム(ELA)(英語を母語とする学生は日本語教育プログラム)と呼ばれる語学プログラムを履修するのですが、この授業では約20名のクラスメイトと週に何度も顔を合わせるため、1年生にとっては、友だちづくりの場にもなったようです。学生一人ひとりに専任教員がつき学修に関するさまざまな相談をすることができる「アカデミック・アドヴァイザー制度」や、週の決められた時間に学生が全ての教員に自由に質問・相談することができる「オフィス・アワー」の面談も、オンラインで継続しています。
さまざまな価値観に触れる中で自分の考えを深めるリベラルアーツ教育
人間は本能的に自分や自分の家族、自分の住む地域、国といった自分に近い存在のことを中心に考える傾向があると思います。しかし、そればかりでは一つの価値観に縛られ“狭い世界”に生きていくことになり、異なる価値観をもつ人たちと有意義な関係を築くことが難しくなってしまいます。さまざまな価値観に触れ、お互いが豊かになる、多様性のなかで学ぶ大切さは、そこにあるのです。これからはグローバルな関係を無視して生きていくことはできません。生まれ育った環境や言語の異なる人と一緒に物事を進めるのは、大変なことですが、それを乗り越えていくのは、自分のためでもあるのです。
人生の中でどうしたらいいかわからないとき、多角的な視点をもって判断することが大切であり、理系、文系の枠を超え、さまざまな人との対話を重ねて学ぶICUのリベラルアーツが活きてくるはずです。多くの学問、多くの考え、多くの人と出会い、その中で自分の考えを深めていくのがICUのリベラルアーツなのです。
バイリンガリズムは批判的思考の第一歩
ICUは日英両語を公用語としており、授業は日本語で行っているものと英語で行っているものがあります。一つの事柄について、少なくとも2つ以上の言語を通して世の中を見ていくのは、一言語の文化的前提を乗り越えて物事を理解することになります。日本語もしくは英語の単一言語で行うよりも手間がかかりますが、これはICUが大切にしている批判的思考の第一歩でもあるのです。
また、英語は世界中の人とのコミュニケーションツールのひとつです。英語を学ぶと自分の情報源が増え、いろいろな情報を得ることができるようになり、世界も広がります。英語を学ぶことで、自分の世界がどんどん広がる楽しさを知って欲しいと思います。
留学と深い学びを志向する主体性のある高校生の皆さんへ
学問とは、あらゆる疑問に答え、気づきをもたらしてくれる、エキサイティングなものだと思います。ICUでは、高校までの勉強とは異なるさまざまな学問に触れ、先生や学生との対話を重ね、さらに留学経験を通じて広い視野を育む“知の世界”が待っています。「何が大切か」を見極める信念や価値観を確立し、判断力を養うことはとても大切です。そのような素養をICUで身に付ければグローバル化が加速し、どのように時代が変わっても、より良い方向へ向かって歩むことができるのではないのでしょうか。
ICUをステッピングストーンにして、留学もしたい、たくさん学びたいという主体性のある高校生は、ぜひICUを目指してください。ICUはラーニングコミュニティです。周りの発言を聴き、自分が発言することでお互いを刺激し合い、コミュニティに貢献する学びのスタイルです。
学生からの問いに、教員も刺激を受けています。学問の世界で「問う」ことに立場は関係ありません。素直に疑問を投げかけてほしいです。ICUでは、楽しい学びの4年間が待っています。