【建築学系大学特集】教授インタビュー 武蔵野美術大学 真の“建築デザイン教育”を掲げて半世紀 美大がめざす建築人材の育成とは|大学Times

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大学Times Vol.42(2021年10月発行)

【建築学系大学特集】教授インタビュー 武蔵野美術大学 真の“建築デザイン教育”を掲げて半世紀 美大がめざす建築人材の育成とは

1929年創設の帝国美術学校をルーツにもつ私学美大の雄・武蔵野美術大学。日本画・油絵や彫刻などのファインアートや、多彩なデザイン分野と同じ造形学部に建築学科はある。1964年の学科開設以来、約4000人の卒業生を輩出し、国内外の建築デザイン分野を中心に幅広く活躍している。学科設立時から続く建築家教員による“ムサビ建築”教育の特徴や工学系建築との学びの違いについて、布施茂教授に話を伺った。

武蔵野美術大学 造形学部 建築学科
教授 布施 茂(ふせ しげる)

'84年武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業、'84年東京工業大学工学部建築学科坂本研究室、'85年株式会社第一工房、'96年株式会社第一工房設計部長、'03年fuse-atelier設立、'04年武蔵野美術大学造形学部建築学科助教授、'06年武蔵野美術大学造形学部建築学科教授。
主な作品:群馬県立館林美術館(第17回村野藤吾賞、第38回BCS賞)、全労済情報センター(第38回BCS賞)、東京都立大学 体育館・図書館・国際交流センター(第33回 BCS賞)以上を第一工房で担当。研究テーマ:建築におけるシークエンス、空間の分節、プロポーション、素材、ディテールの探求。

美術系大学では「建築家」を工学系大学では「建築士」をめざす

日本には「建築家」と「建築士」という、似通った2つの名称があります。「建築家」は資格ではなく、職業名です。自らの作品を建築雑誌などに発表し、作家性が強いのが特徴です。「建築士」は建築家も含めた国家資格であり、どちらかというと技術者を指します。つまり、概論的には
●建築家養成→建築作家をめざすための教育を行うのが芸術系大学
●建築士養成→技術系人材をめざすための教育を行うのが工学系大学
というように大きく分かれます。

ものづくり精神に溢れたキャンパス

建築学科は造形学部の中にあり、教室から一歩外に出ればグラフィックや空間デザイン、油絵、彫刻など、すべて「ものづくり」に直結する学科に囲まれています。キャンパスにはものづくりのエネルギーが溢れており、この点も工学系大学とは一線を画しています。建築設計から家具・インテリアまで、デザインと言えるものはすべてを学びの対象としています。

建築を「作品」としてデザインする教育に特化
専任教員は設計事務所を持つ実務家ばかり

本学科では1年生から、建築設計・デザインを中心に学びます。特徴の一つは専任教員の専門分野が、全員「建築デザイン」という点です。構造家、設備設計家であってもメインの立ち位置はデザインであり、専任教員各々が建築事務所を持ち、実務に直結したデザイン教育を行っています。他大学の建築設計の教員は20~40%程度であることと比較しても、本学が“真の建築デザイン教育”を実践し続けていることが解ります。

さらに、毎年実施している入学時の学生アンケート調査によると、入学者全員が建築家・デザイナー志望(建築家50%、住宅設計メイン20%、インテリアデザイン10%、以下ランドスケープ、造園、アーティストなど)です。よって、卒業後は技術職ではなく、設計デザイン職を中心に目指すことになります。

デッサンでも数学でも受験OK
文・理・芸術系に対応した入試制度

建築学科志望の受験生は、理系(工学部)併願、芸術系、文系と幅広く、各々が得意科目で受験できるように配慮しています。入学試験はデッサンなど芸術系の科目もありますが、ここ10年は工学部併願者が増えており、「デッサン」と「数学」を選択受験できるようにしています。建築学科の場合、卒業後は建築雑誌の編集者や建築経営など、ソフト面を活かした進路もありますので、文系受験生にも配慮をしているのです。

〈一般選抜〉
●一般方式
 外国語、国語、数学またはデッサン
→最近の傾向として、数学とデッサンの受験者数はほぼ同じ
●大学入学共通テスト利用方式
「共通テスト2教科+専門試験方式」または「共通テスト3教科方式」
→文系、理系、地方の高校生が受験できるように配慮
〈総合型選抜〉(専願 募集10名)
 →モチベーションが高い学生が多い特徴あり

「設計計画」を軸とした独自のカリキュラム
一級建築士資格取得にも対応

「設計計画」と呼んでいますが、これは工学部の「設計製図」にあたります。本学では50年以上、設計だけではなく計画を同時に行い、計画を考えながら設計をするという学びの特徴があります。入学後、2年生までは全員が同じ必修科目を受け、出される課題も同じです。

本学では、設計の基礎力を固めることと、最大限の自分のデザイン力や発想力を磨くための学びを行います。建築の基本を理解し、基本的な設計ができるようになった上で自由な発想の作品作りはOKとしています。

3年生からはスタジオ単位での教育となり、前期に4つ、後期に4つの合計8スタジオから2つ選び、4年生は1つのスタジオを選んで卒業制作を行います。本学学生の制作した模型は大型化とともに解像度が高い特徴があり、学外展覧会をはじめ全国規模の大会でも上位入賞の常連という結果が成果の一つとして表れています。大学院に進学する学生は各々のスタジオに分かれ、専門分野の実践教育を行います。

本学科での一級建築士の資格対応は、他大学の工学部と変わりありません。所属するスタジオにもよりますが、資格取得率もほぼ同等です。

多彩な卒業後の進路

いちばん多いのが建築設計事務所、組織設計事務所、ゼネコンの設計部で、毎年十数名が就職しています。大学院生も、組織設計事務所やゼネコンに就職するケースも多くなってきました。ハウスメーカーは女子の就職が多く、不動産系企業は主に企画志望の学生が就きます。その他はランドスケープ(公共空間デザイン)、インテリア、家具プロダクト、家電メーカー、店舗内装、ディスプレイ、照明設計、サイン設計のほか、編集者、広告代理店、家具輸入ショールーム、まちづくりなど非常に幅広い現場で活躍しています。

デザイン教育で未来が広がる
“ムサビ建築”の可能性

本学科は半世紀前から「建築家の養成」を行い、デザイン力を磨いた学生は「どの分野にも行ける」強みを持っています。学内でも建築学科から油絵、彫刻、グラフィック系学科などに転科したり、大学院進学時から変更する学生もいます。その逆はほとんどありません。“ムサビ建築”のカリキュラムは年々広がりをみせており、その結果、卒業後の職業に敢えて建築設計を選ばないケースもみられます。私のゼミの卒業生もプロの漫画家、CA、弁護士、舞台美術(テレビ局、商業演劇)など実に多彩です。幅広いデザイン教育を受けているので企画力もあり、建築の域に留まらず、多様な“出口”があることを学生も認識しています。「建築設計ではない」進路を選択した学生には、他分野で活躍する先輩の存在がいい刺激となっているようです。

「建築が好き」な高校生を歓迎

本学科ではまず建築が「好き」であることが重要です。工学部では一般的に「安定した職業のひとつ」として建築を捉えている向きがありますが、美大の建築は、先ず「好き」であること、興味があることが最大のモチベーションで、だからこそ研究室スタッフ、教員含めて相当のフォローができるのです。卒業後の進路については、大学側のキャリア支援体制も整っています。

本学は、半世紀以上前から真の建築デザイン教育を行っています。本学科設立の1960年代に複数の建築家が教鞭をとっていた大学は、東京藝大、東京工大と本学しかありませんでした。建築家、構造設計家、設備設計家といった、建築の各ジャンルの実務家を専任教員として始めた美術大学の建築学科は、その点においても工学部の建築学科とは大きく異なります。本学科は課題の量も数多くこなし、中身の濃いデザイン教育を実践している分、学生は実力をつけて社会に出ているという実感があります。