【建築学系大学特集】学生インタビュー 東京藝術大学大学院 高校理系クラスから東京藝大建築科へ 自分の考えを“形にする”スキルと多様な価値観を受け入れるマインドを育む|大学Times

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大学Times Vol.42(2021年10月発行)

【建築学系大学特集】学生インタビュー 東京藝術大学大学院 高校理系クラスから東京藝大建築科へ 自分の考えを“形にする”スキルと多様な価値観を受け入れるマインドを育む

大学で建築を学ぶには建築学部をはじめ、工学部や芸術学部などその門戸は多岐にわたる。その中でも長年にわたり、独自の建築教育を行っているのが東京藝術大学である。入学定員15名という狭き門を潜った高校生は、受験対策をどのように進め、入学後はどんな学生生活を送っているのだろうか。東京藝術大学大学院修士2年生の今中真緒さんに話を伺った。

東京藝術大学大学院
美術研究科建築専攻2年
今中 真緒さん

オープンキャンパスで観た製図室に
“居場所”を見つけ 藝大建築科を志望

子どもの頃から絵を描き、何か作ることが好きでした。高校は都立の理系クラスで、経済的観点から国公立大学をめざし、2年生の時にオープンキャンパスに行き理系学部のある首都圏の国公立大学を見て回ったのですが、中々志望校が決まらず悩んでいた時親のすすめで見学に行って、「ここで学びたい!」と直観的に感じたのが東京藝大の建築科でした。実は私の父は東京藝大のデザイン科、母は声楽科の出身で、両親からの話や知り合いもいて馴染みはありましたが、「好きな絵を描いて将来は食べていかれるのか」との心配に対し「建築科ならば実務も学べるのでは」と背中を押されたことがきっかけでした。見学した製図室には自分たちで作った模型がたくさん置いてあり、学生が皆で作業をしています。その様子が自分に合っていると感じ、藝大建築科を受験すると決めました。

当時の私は、自分の手でモノを作ることが生きている意味につながるのでは、と考え、その世界で頑張ることで時に軽視されがちな日本の芸術の地位向上に繋がるのではないか、という熱い思いがありました。

受験対策は自力 浪人覚悟で土日は
美術予備校の実技試験練習に励む

高校で藝大を志望したのは私ひとり。先生からも「芸術大学の受験はよくわからないので、自分で頑張ってください」と言われてしまいました。両親の理解もあって半分は浪人覚悟で、平日は高校でセンター試験の勉強をして、夏期講習以降二次試験対策で、土日は美術予備校へ行って必死に絵を描く練習をしました。藝大建築科の二次試験は2日間、絵を描くことと計算問題です。美術予備校で他の人と一緒に絵を描くのはモチベーション低下も防げて、時間配分なども工夫できるようになります。私は絵の上手い人を見て学びたいと思い、近くに座って練習しました。授業の最後に先生のチェックがあり、全員の絵を並べて順位をつけるのですが、描きあがり度や絵の上手さなど、出来上がり完成度によって作品を並び替えます。常にトップ3に入っていれば安心して受験できるし、最初は一番下だったとしても、上位の人の作品から学んで練習して順位を上げればいいのです。美大の二次試験の実技は、絵が上手くても作品が出来上がっていないと大きく減点されてしまうので、描き上げるためには時間配分や鉛筆選びも重要になります。建築の場合は、構成と構図を決める時間を全7時間のうちの1時間半にして、描き始めから1時間で色を付け出してみようなど、常に時計を見ながら確実に仕上げる練習をしました。そして高3で無事に東京藝大建築科に合格しました。

受験勉強からクリエイティブな毎日に
入学式で課題発表 大変だけど楽しい時間

藝大は実技を非常に重要視している大学なので、毎日が課題の作業メインの学校生活になりました。建築の設計デザインなど、全くわからない状態からスタートして、ドローイングやCAD、模型製作など毎日必死に課題をこなす中で、どうやって自分の考えを形にしていくかを学んだと思います。入学してからは毎日が本当に忙しく、入学式の日にいきなり課題の発表があって「来週までにやってきてください」には驚きました。1年生のときは水曜日木曜日にエスキスという各自が課題を先生に見せて指導を受ける時間があるのですが、水曜日の時点で「明日までに全部直せ」と言われて徹夜で作業をしたり、必修課題で木工の椅子を作ったり、切れ間なく藝祭(学園祭)の神輿や法被も作りました。入学後間もないので慣れていないこともあり、1年の前期は本当に大変でした。

グループワークで仲間とぶつかり
自分の価値観が変わる経験も

藝大生はクリエイティブな反面各々の個性が強く、グループワークが苦手な人も少なくありません。私は学部3年生のときに女子3名でグループを組んで行ったフィールドワークが、自分のために良かったと言える経験になりました。初めは相手が何を言っているのかわからず、意見がぶつかってばかりいましたが、自分の持っていた“これが当たり前、普通”という見方が、必ずしもそうではないことを気づかせてくれました。意見がぶつかり合うことでお互いの言っていることが理解できるようになり、この課題の取り組みを通じてこれまでの価値観が揺さぶられ、良い方向に変わったのです。これは藝大にいろいろな価値観の人がいるからこそ起きた、化学反応でもあります。普通の友だちならば、価値観が変わるまでの経験はなかったかもしれません。学生同士の「グループワーク」によって共感力が身に付き、良い方向に向かったのかなと思っています。藝大生は、個性的で意志が強い人が多いからこそ、このような良い経験につながったのかなと思います。

インターンや産学連携事業など
授業以外でセンスを磨く機会が豊富

藝大では、企業と大学が共同で行うワークショップがいろいろあります。大手広告代理店に行ったり、世界的メーカーの方が来校して学生にお話してくださる機会も多く、私も参加しました。とてもおもしろかったです。学生の期間だからこそ体験できることも多いので、私もインテリア会社にインターンシップで2週間、実務を学ばせていただきました。課外活動では夏の集中講義として、先端芸術表現科教授の日比野克彦先生主催の『夏の空間演出』に参加しました。新潟の山荘で5日間、少人数の教室だったので、とても貴重な経験となりました。

魅力的な建物を街に増やし 街並みを変えたい

先日就活が終わり、修了後はゼネコンの設計部に就職が内定しました。商業施設など大きな建物の設計に携わる予定です。私自身が描いたものを、実際に鉄骨を組んだりコンクリートを打ったり外装や内装を作る、その作業にも興味があります。出来上がったものを障りなく使ってもらえるような設計・施工の両方を行う場所に進めたらいいなと希望しました。建築は多くの人に見てもらえます。次の世代の人にも見てもらえる、街に魅力的な建物を増やしていきたいです。

建築に興味のある高校生へ

「自分がやりたいことを実現するために努力する」、そのためには手を動かすことと、学校にいる間は勉強しておくのがいいかなと思います。魅力的な作品を作りつつ、社会でうまく活動して行くには勉強と実技をバランスよくやって行くことが大切です。自分のやりたい事を諦めず、自分らしい表現を追求して行くことは私たち学生にしかできない事だと思います。是非この記事を見て、芸術、ひいては建築に興味を持ってくれる高校生がいたら嬉しいです。