看護医療系大学特集学部長&教授インタビュー
コロナ危機を変革のチャンスに
医療人のアイデンティティを育みチーム医療教育を実践する
~昭和大学~

大学Times Vol.42(2021年10月発行)

【看護医療系大学特集】学部長&教授インタビュー 昭和大学

看護医療系大学特集

医・歯・薬・看護・リハビリの医系総合大学である昭和大学は、半世紀以上にわたる独自の【チーム医療教育】を通じて、社会に貢献できる優れた医療人を育成している。コロナ禍から1年半、対面授業や共同生活学習など、変革を余儀なくされた教育プログラムはどのように創意工夫されたのだろうか。保健医療学部の下司映一学部長と保健医療学教育学の榎田めぐみ教授に話を伺った。

(写真右)昭和大学 保健医療学部長 内科学教授 医学博士
下司 映一(げし えいいち)
(写真左)昭和大学 保健医療学部 保健医療学教育学教授
精神看護学 博士(保健医療学)
榎田 めぐみ(えのきだ めぐみ)

トライ&エラーで変革へ
アクティブラーニング導入1年後の進歩

―― 昨年秋の本誌インタビュー(Vol.38秋号)で下司学部長から「コロナ禍をステップに、対面授業をそのままオンラインにするのではなく、アクティブラーニングを導入」という発言がありましたが、この教育改革は1年を経て、どのように進んだのでしょうか。

榎田「現在は知識の修得は遠隔授業で学び、ディスカッションや体を動かす技能を身に付ける授業を対面で、というハイブリッド型に切り替えました。教員は、今のコロナの状況に初めは困惑していましたが、学部長が元々教育推進室長で教育が専門でもあるので、率先して 『アクティブラーニングをやってみよう』とかけ声をかけてくださいました。昭和大学のカラーは、すべてにおいてトライ&エラーで変革を恐れず挑戦できるので、今回の変革を後押ししています」

下司「『どんな状況でも教育をしっかりやっていこう』と決め、昨年8月に大学のワークショップと実施方法を検討し、可能な授業内容から変更し、改革を進めてきました。本年4月以降、学部全体の教育がある程度固まったところで本格的に実施し、シラバスにも反映されて現時点に来ています。これが1年間の進歩です。事務担当の職員とともに色々積み重ねて、ようやく形になってきたところです」

コロナ禍で改めて検証できた
伝統の「初年次全寮制教育」の重要性

榎田「昭和大学の良さは、1年生の富士吉田キャンパスでの寮生活を通しての学習(医・歯・薬・保健医療の4学部混合での共同生活・タイトル下写真参照)です。共同生活の場が、チーム医療教育の根幹にあります。異なる学部の学生たちがディスカッションを重ね、一緒に学ぶという期間が去年は短かったので、色々な問題を個人で抱え込んでしまい、自分の不安を軽減させていく作業ができずに2年生になってしまいました」

下司「昨年は入寮できたのは9月で、それから2か月ぐらいしか全寮制教育ができませんでした。今年は4月から、途中帰宅でリフレッシュしながら7月末まで、夏休み後は10月から再開しています。共同生活が短かった学生は、昭和大学が今まで教えてきたアイデンティティが少し希薄になっているようです。2年生になって弊害が出てきたことで、逆に我々がやってきたこと、1年生にとっては共同生活によるチーム医療教育が基盤であることが改めて検証できました」

榎田「報告・連絡・相談など、“集団で生活するというのはどういうことか”を学習していたことがわかりました。それは医療人としてとても大事なことで、臨床で働く上で、それぞれの職種の人が勝手なことをしていたら、あるいは看護師がケアしたことをスタッフに報告していなかったら大きな事故になりかねません。富士吉田で学んだ学生は2年生になっても、チーム医療の基本がスムーズにできていたと、去年と今年を比べて実感しています」

―― 今の2年生に対して、何かフォローなど検討はしていますか?

榎田「チーム医療教育を大切にしていますので、全学部連携の教育はもちろんのこと、“卒業した人たちのアイデンティティをどう育てていくか”ということも考え、本学部3学科(看護・理学療法・作業療法)の繋がりも大切に、連携教育を細かく取り入れようとしています。例えば解剖生理から臨床医学へ、それぞれの専門領域に繋げていく学習も、3学科合同で学べば自分の専門性がより明確になり、学生同士の繋がりを大事にできるという考えです」

Withコロナを見据え 医療人教育に不可欠な
2つの教育体制を整備

榎田「学部長の考えで、“シミュレーション教育”と“感染管理教育”の場を作っていきました。臨床実習ができない中でも臨床に近い状況、模した形で学習し、コロナであっても自己管理と他人に感染させないという、感染管理教育を徹底するために行います。『人の振り見て我が振り直せ』のような意識づけになると思います。先ほど申し上げた『知識教育は遠隔授業で学習』というのも、場合によっては違うのかもしれないということに気づき始めたところです」

下司「そのバランスをいかに保っていくか、考えていかなければなりません。時間が経つと見えてくる課題があり、環境を整えることや、教材を作るということも必要です。今般シミュレーション教育の場として、“バーチャル病室”(写真参照)を充実しました。病室のしつらえも附属病院と同じにし、10体ほどの“さまざまな病気の人形”を教材に、3学科の学生が合同で看護やリハビリを学んでいます」

コロナ禍でも臨床実習ができた
“附属病院は教育施設”という強み

―― コロナ禍で臨床実習が減り、「自分の学びは不十分ではないか」という不安から、このまま医療現場へ行って大丈夫なのか?という思いを抱えている医学生の報道を目にしました。

榎田「本年の卒業時に“学生のディプロマポリシーに対する達成度”のアンケートを実施したところ、今まで以上に自己評価が高かったです。本学は附属病院が数多くあるので、PCR検査を繰返しながら学生を極力実習に行かせることができましたが、卒業時に必要な学修、到達目標を整理し、レベルを下げずに“みんなが体験し到達できる”実習内容に組み替えました。これは臨床教員制度(附属病院の医師・看護師・理学療法士・作業療法士などが「教育職員」という職責を担っている)の効果だと考えています」

下司「私から見て、危機的状況だから学生も学習に貪欲になり、“実習に行ったからには学びたい、どうやったら学べるのか?”という気持ちを持って取り組んでくれたことで、到達度が高かったと思います。具体的な能力が身に付いてきていると感じます。おそらく今、附属病院を持っていない大学は実習が充分できていないでしょうから、本学のメリットを学生も感じてくれているのでしょう」

社会貢献と学生参加教育は「チーム医療」の素地

下司「本学は『社会に貢献できる優れた医療人を育成する』大学です。高校生には少しでもその気持ちを持って入学してもらいたい。附属病院は臨床目的のほか教育施設であり、先生方は“医療者”ではなく“教育職員”という契約で、組織的な医療人教育を行っています。本学は昨年3月にいち早く『新型コロナウイルス感染対策学務委員会』を立ち上げ、学生の勉強時間やメンタルストレスなど健康状態を1年半調査しています。理事長、学長以下20名の委員会メンバーで共有し、コロナ禍をどう乗り切り、改革を進めるかを真剣に取り組んでいます」

榎田「コロナ禍での教育を教員だけが改革改善するのではなく、学生教育委員と一緒に考えて推進しています。閉鎖した教室を開放してほしいという学生からの要望について『私たちも一生懸命案を出して頑張るので、みんなも協力して開放できるように力を貸してください』と委員の学生がオリエンテーションで発言していました。教育も学生参加で教員と一緒に作れると良いですが、いかに合意を求めていくかは、チーム医療にも求められる能力の1つです」