グローバル系大学特集学部長インタビュー
日本を世界の中で捉え直して日本人学生と留学生が一緒に学び議論を積み上げて課題を解決する
~東京外国語大学~
大学Times Vol.44(2022年4月発行)
グローバル系大学特集
日本における外国研究の歴史は19世紀半ば、江戸幕府の蕃書調書(官営学校)から始まったといわれている。その源流を受け継ぐ東京外国語大学は、IJ共学34年の実績のもと、2019年に3学部目の「国際日本学部」をスタートさせた。ポストコロナの今、世界と日本をどのように捉えて学びを展開するのだろうか。川村大学部長に話を伺った。
東京外国語大学 国際日本学部学部長 川村 大(かわむら ふとし)
私の専門は古代日本語(奈良・平安時代語)の文法です。「外国語大学」に「日本語」の、しかも「古文」の先生がいるなんて、と意外に思われるかもしれません。これには三つの理由があります。第一に実用的な理由。(中略)第二に「教養教育」的な理由。(中略)第三にもっと本質的な理由。現代日本語を分析すること、それ自体は必要ですし重要なことなのですが、それだけでは研究が深まりません。現代日本語を別の視点から相対化することが必要です。その視点を与えてくれるものは三つあります。一つは外国語(本学ではいくらでも学べます)、一つは現代の諸方言、そして最後の一つが古い日本語なのです。複数の視点から迫ることで文法の深奥に迫れますし、日本語研究の立場から言語学一般に貢献することも可能になります。
(以下略)※全文は東京外国語大学webサイトに掲載されています。
「国際日本学部」の学び 3つの特徴
専門分野に分かれて学ぶのではなく、私たちの住む日本をトータルに捉え直し、「世界の中に日本を位置付けて」学ぶのが国際日本学部です。主な特徴として、次の3点が挙げられます。
①高校までの学びを世界の視点の中で相対化し、日本を総体として捉える見方を養う。
②日本人学生(1学年45名)と留学生(1学年30名)が一緒に学ぶ。日本語と英語を共に使って学ぶ。
③課題解決型(アクティブラーニング)授業でグループワークを行う(協働実践科目)。
③には日本語教育の補助や自治体と連携して街へ出て取材を行う「社会連携科目」を含みます。
(別表1:専修プログラム一覧参照)
外大で30年余培われた「IJ共学」が学部開設に発展
この数年は私立大学でも「国際日本」を冠した学部学科が次々開設になりましたが、外大は一味違う学びの内容になっていると思います。その理由は、長きにわたる留学生教育の歴史と実績があるからです。1985年の「日本語学科」開設に伴い、日本人学生と留学生が一緒に学ぶ正規のプログラムがスタートし、その体制強化を行って2019年に「国際日本学部」が開設となりました。近年、日本の大学の「国際日本系」学部学科の多くが取り入れている、留学生と日本人学生が一緒に学ぶ「IJ共学」は、実は外大が草分けだったのです。
日本人学生と日本語のわかる、わからない留学生とのバランスのよい構成
いろいろな背景を持った人たちが一緒になって、同じ課題に取り組むのは相互に刺激となり、良い効果が生まれていると感じています。1学年で日本人学生45名と留学生30名(別表2参照)、留学生のうち10名は、日本に関心を持つものの日本語の勉強はほとんどしたことがない学生ですので、2019年の学部スタート当初は互いにコミュニケーションに苦労しながらも学生同士が協力する様子も見られました。コロナ禍で来日できない学生も多く、外大の中でも留学生比率の高い本学部では、オンラインの授業が中心とならざるを得ませんでしたが、この春からは徐々に留学生が来日できる見通しですので、またスタート当初の雰囲気が戻ってくるものと期待しています。
グローバル社会でも古文や漢文を学ぶ意義とは
私は1年生の「古文入門」の授業も担当していますが、受講生の中心は留学生です。日本人の持っている前提知識がないところで、工夫をしながら授業を行っています。また、別の先生に漢文の授業をお願いしています。外大で日本語の、しかも古文や漢文を教える先生がいるのは意外に思われるかもしれません。しかしグローバル社会において、古典の知識は重要な役割があるのです。たとえば、外国の政治家や経営者の中には古典教養の豊かな人が多いといわれています。将来、外交やビジネスの場で、自国や相手方の古典に関する知識が威力を発揮することがあるかもしれません。
日本の歴史を勉強する際に必要な歴史書や古い文書、小説も第二次世界大戦時までは文語体が正式な書き言葉でした。古文の知識がなければ文章を読むこともできないのです。さらに高度な日本語の表現を駆使しようとすれば文語体の古い表現は避けて通れません。そして、漢文は東アジア共有の知識でもあり、西洋人にとってのギリシャ・ラテン文学と同じ位置付けになるのです。
日本の文化を世界に発信したい学生も
国際日本学部の学生はみな日本に興味があり、その分野は現代社会からPOPカルチャーなどさまざまです。中には日本のある分野について、学んだ知識を世界に向けて発信したいという学生も一定数います。日本の発信力については以前から課題の一つとされてきましたので、将来は本学部の卒業生が発信力で貢献できるようになればという思いもあります。
これまでの常識が通用しない「ポストコロナ」をどう生きていくか
今は社会の大変動期にあり、去年一昨年の常識が通用しない時代です。
そのような中で私たちはどう生きていったら良いのでしょうか?言い古されていることですが、結局のところ今まで人類がそうしてきたように、膨大な過去の経験からさまざまな智恵を引き出して行動のより所とするしかないと考えます。こうして、私達は新しい時代を切り拓くのです。
古い文章から新しいものを引き出すスキルを磨く
人文系の学びは、テキスト(文章)を客観的に読み込むことから始まります。古い文章の中から、現在に通じる新しい見方や姿勢を引き出すには、まず、客観的な証拠と自分の考えを峻別するスキルが必要です。その上で、緻密な議論を積み上げていく訓練を行うのです。人文系の学びは極めて実践的な技として、自分自身を支える“一生もの”となるでしょう。実用的な知識の中には、時代と共に使いものにならなくなってしまうものも散見されますが、古い文章から新しいものを引き出すスキルは、人間が人間である限り、恐らく古びることはないだろうと考えます。古典を読み慣れている人は、昨今の世界情勢や流行のカルチャーには「もう何度も」繰り返しているものがあると気付くでしょう。
外大国際日本学部をめざす高校生へアドバイス
世界の中の日本を勉強する学部ですが、他学部同様に入試における英語の成績の占める割合が大きいことには変わりありません。入学試験ではスピーキングテストを含めた、英語の4技能(読む、書く、話す、聞く)のすべてを問う問題が出題されますので、しっかりと勉強しましょう。そのほか、歴史(世界史または日本史を選択)の試験があります。日本語学、日本語教育学については入学してから勉強します。今は高校の授業にしっかり取り組んでください。