【スポーツ科学特集】教授インタビュー 女子栄養大学|大学Times

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大学Times Vol.45(2022年7月発行)

【スポーツ科学特集】教授インタビュー 女子栄養大学

創立者の医師・香川綾の提唱する予防医学の観点から、90年にわたり「食と栄養教育」を実践する女子栄養大学。管理栄養士国家資格合格者数全国1位を堅持し、高い調理技術を修得する教育でも定評がある。「スポーツ栄養とは栄養学の応用」という考えのもと、連携する大学のスポーツ選手を栄養指導、卒業後も数々の成果を挙げている。上西一弘教授に話を伺った。

女子栄養大学 栄養学部教授 上西 一弘(うえにし かずひろ)
栄養生理学研究室教授。徳島県生まれ。徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。食品企業の研究所を経て、1991年より女子栄養大学に勤務し、2006年栄養学部教授に就任。専門はヒトを対象としたカルシウムの吸収・利用に関する研究、成長期のライフスタイルと身体状況についてなど。また、スポーツ選手のパフォーマンスを支え、勝てる体を作るための指導・研究を行っている。

「栄養学」がすべての基本
誰に展開するかで応用できる

「スポーツ栄養」という名称が大学の学科コースでもみられるようになり、今は高校生にも人気があります。但し、高校生のイメージするスポーツ栄養とは、オリンピック選手の食事を準備したり、海外遠征に帯同するなど華やかな部分だけを見ているような印象です。

スポーツ栄養とは、「栄養学を誰に展開するか」、その対象がアスリートというだけなのです。それがお年寄りであれば高齢者栄養、子どもならば小児栄養となります。よって本学では入学後直ちに「スポーツ栄養」を学ぶのではなく、「先ずは栄養学をしっかり学ぶ」ことから始めています。栄養学を応用して、スポーツ選手の場合は競技種目によって食べ方等を変えるという考え方は、臨床栄養(糖尿病や腎臓病患者等の食事の摂り方)と同じです。栄養学を学んだ上で、各競技に応用していきます。

「栄養の説明をして 調理もできる」のが栄大生の強み

栄養学を実践するにあたり、具体的な「料理で示す」ことも大切です。栄養について説明はできても、どのように食事に取り入れたら良いか、実際に調理ができなければ説得力がありません。これが本学の強みでもある調理技術です。たとえば「スポーツ栄養実習」という授業では、スポーツ選手に欠かせない貧血対策として「鉄」を多く含んだ食事を考えて、グループで実際に調理をします。このようなカリキュラムがあるのも、本学の強みだと考えています。

栄養学の学びすべてがスポーツ栄養に直結する

血液検査の結果数値を読み解くことも大切で、これは栄養学で学びます。また「食事調査」は、3日間何を食べたかを記録してその目的や手法を学び、「生化学」や「解剖生理学」など一見関係のない授業も、すべてスポーツ栄養に繋がっているのです。競技種目に合わせた「ケガをしない、強くなるためのコンディションづくり」に栄養がどのようにアプローチできるかは、栄養学をしっかり学んでないと難しいのですが、最近は中高時代に競技を経験した学生も多くなり、自らのケガや減量などの体験を生かしながら、より熱心に学んでます。本学で学んだ知識を生かして将来は母校で指導したい、という希望を持っている学生もいます。

高校スポーツ部活生対象
「スポーツ栄養セミナー」の効果

競技やマネジャー経験のある学生から、「高校ではスポーツ栄養の知識を学ぶ機会がなかった、もっと早く知りたかった」という声があがり、その基本知識は中高生にも必要と考え、本学ではおよそ10年前から中高の部活生を対象とした「スポーツ栄養セミナー」を全国で開催しています。前半は元トップアスリートやアスリートを支えるトレーナーから現場の話をしてもらい、参加者のモチベーションアップにもなっているようです。セミナーには部活マネジャーや選手、指導者、保護者の方も参加しています。高校現場にスポーツ栄養の専門家がいないので、貴重な機会になっています。質疑応答では男子学生から「プロテインの使い方」について質問されることもあり、食事で充分補えることを説明しています。本学にも過去にセミナーに参加した学生がいるなど、高校生が栄養学に関心を持つきっかけ作りにもなっています。

競技生活を一日も長く続けるために
食と栄養の大切さを学生選手に指導

メダリストクラスのトップアスリートは、健康のために競技を行っていません。極端に言えば「たとえ体を壊してでも勝ちたい!」のです。その結果短い選手生命に終わっても、一瞬の「最高の結果を残す」ことを最優先にしているので、そんな彼らに「バランスの良い食事で健康に」と指導してもあまり響かないでしょう。

ここで大事なのは「誰のためのスポーツ栄養か」ということです。現在は大学間で連携し、大学のトップスポーツ競技部(東洋大学陸上競技部、慶應義塾蹴球(ラグビー)部)選手への栄養指導を行い、本学学生も参加しています。中学高校から大学、社会人と競技生活を継続し、正しい栄養知識をもとにバランスの良い食生活で長く現役でいられることを目的としています。栄養指導を行った学生選手が社会人に進み、競技大会でさらに活躍してくれるのが何よりも嬉しいです。実はスポーツ栄養とは特殊なことはあまりなく、「バランス良く食べる」「熱中症にならないようにこまめに水分をとる」などの自己管理が最も大切です。米大リーグのイチロー選手が長年トップで活躍できた理由の1つは、食生活の管理を徹底して実践できたからだと思います。

子どもの食育にもスポーツ栄養のエッセンスを

食習慣とは一朝一夕に変えられません。長年朝食抜きの人に対し「健康のために毎日朝食を」と勧めても、なかなか習慣化しないものです。子どものころからの食育は本当に大切で、たとえば「背が伸びるから毎日牛乳を飲みなさい」の声かけに「牛乳を飲むと速く走れるよ」と添えるのも良いでしょう。スポーツ選手のサポートだけでなく、子どもを対象としたスポーツ栄養もあります。それには保護者の役割が不可欠であり、親子で参加して納得してもらうことでその家の食生活も変わっていくでしょう。

スポーツ栄養のもうひとつの分野-食品開発

アスリートと直接関わらなくとも、大学でスポーツ栄養を学び、食品開発の仕事に就く人もいます。4年間で「食品学」をしっかり学び、食品メーカーに就職してスポーツフードやドリンクの開発に携わるのも、スポーツ栄養の分野です。現在も飲料やゼリー、ビスケット、かまぼこや羊羹、腸内環境を良くする発酵食品など数多の商品が開発されていますが、それだけ人々のニーズがあり、間口の広い分野でもあるのです。

病院に勤務する管理栄養士も、スポーツ栄養に関わる機会があります。ケガをしたアスリートを早く回復させるために、栄養面でいかにサポートできるかを考えて指導します。

私たちは食べなければ生きていかれないし、きちんと食べれば強くなる。これがスポーツ栄養の基本です。皆さんのイメージする「スポーツ」に関する食と栄養のことは、本学ですべて学べます。