看護・医療系特集スペシャルインタビュー
未知のウイルスと対峙し検査データの変化から患者に寄り添う臨床検査技師の仕事とは

大学Times Vol.46(2022年10月発行)

【看護・医療系特集】スペシャルインタビュー 医療法人社団永生会 南多摩病院”

看護・医療系特集

「PCR検査」という言葉を多くの国民が知る今日。コロナ禍によって検査の重要性とともに、正確かつ速やかな遂行が社会生活を円滑にすると認識した人も多いことだろう。医療現場において大半の検査業務を担うのが臨床検査技師である。地域医療を守る病院の最前線では、どのように日々業務と向き合い、職責を全うしているのだろうか。東京・南多摩病院の臨床検査技師・楢原学さんに話を伺った。

南多摩病院 臨床検査科副主任 臨床検査技師
楢原 学(ならはら まなぶ)

臨床検査技師 緊急検査士 AMAT隊員 臨地実習指導者 CVIT認定技師国立大学理学部から新渡戸文化短期大学臨床検査学科へ編入、国家資格取得。入職9年目。
医療法人社団永生会 南多摩病院(東京都八王子市)
東京都指定二次救急医療機関。救急に特化した地域医療機関であり、ベッド数170床、年間5000台の救急車受け入れ、外来患者は1日570名。東京都新型コロナウイルス感染症入院重点医療機関として23床準備。2020年中国・武漢からの帰国感染者対応、横浜港停泊のクルーズ船医師派遣、入院患者受け入れ、宿泊療養施設の派遣管理など感染拡大初期から最前線で検査・治療にあたる。職員470名のうち臨床検査技師21名在籍。細菌検査室完備、PCR検査をはじめ救急患者の迅速な検査にも対応している。
医療法人として急性期・慢性期・介護・在宅医療20施設を事業展開。

大学時代の入院経験で進路変更
臨床検査技師の道へ

大学は理学部物理学科でした。将来は教員をめざしましたが、在学中に病気入院を経験し、そこで臨床検査技師という職業を知りました。病院では採血や心電図、超音波検査などを手際よく行い、速やかな検査データ処理などを目の当たりにしただけでなく、未知の世界だった入院生活で不安を抱える私の気持ちを和らげるよう、検査の際に声をかける心遣いなど、臨床検査技師の仕事にとても感銘を受けたのを覚えています。退院後は「臨床検査技師をめざしたい!」という思いが強くなり進路変更、専門教育が受けられる新渡戸文化短期大学臨床検査学科に編入することを決めました。必修の生物を高校で学んでいないハンデはありましたが、なんとか試験も突破できました。

新渡戸文化短大の学びは実践力重視。実習も多く大変でしたが、当時作成したレポートの内容が現場で使用できるほど実臨床に寄り添っており、正確な知識と技術を身に付けることができました。

「検体検査系」と「生理検査系」の違い

短大卒業後に当院へ入職し、最初は検体検査を担当しました。血液や尿など患者から採取したものを検査して結果を出す仕事です。当検査室には大きく分けて「検体検査系」と「生理検査系」の2つの業務があり、私は当初、心電図や超音波検査など患者の方とコミュニケーションを図りながら生体データをとる生理検査系が希望でした。当時、検体検査は得意な仕事ではありませんでしたが、編入前の大学時代は物理を学び機械いじりも好きだったので、自分の力で検査機器を操作し、データ調整するやりがいを見出しながら、実務経験を積みました。

検査データの変化から患者の体調・心情に思いを寄せる

検体検査では患者の顔が見えませんが、検査データの変化から快方に向かっていることを読み取ることができます。その逆のケースもあり「治療が進まず身体も辛いだろうな」と。特に若い患者の場合は、自分や友人家族と重ねて複雑な思いになることもありました。

現在は生理検査系に異動しましたが、入職当時の「検体検査でのデータをみて患者に寄り添う気持ち」を今も大切にしています。データから体調の変化を読み取って患者に寄り添うことができなければ、検査中の「丁寧な声掛け」などもできないからです。

専門職が力を合わせて“一人ではできないこと”に取り組むチーム医療

私は「心臓カテーテル検査室」というチーム医療の現場にも参加しています。心筋梗塞や狭心症の患者1名に対し、医師、看護師、臨床工学技士、臨床放射線技師、臨床検査技師がチームで治療にあたっています。私は心電図のエキスパートとして、検査データをもとに患者の状態を報告し、医師に助言をする役割を担います。専門職の誰が欠けても不具合が出るのが高度医療の難しさ。一人ではできないことを可能にするのが、チーム医療だと認識して日々取り組んでいます。

未知のウイルスに対峙する

2020年初頭、中国・武漢から帰国した新型コロナウイルス感染症患者を受け入れることになり、検査室では「どのように対応するか」から始まりました。当時はまだ国の方針も定まっておらず、ウイルスの全容が明らかにならないうちは現在のようなPCR検査もできません。国が定めた検査機関へ初めて未知のウイルス検体を検査に出す時も、採取方法から梱包形態、伝票までが手探りの状態でした。突如始まったコロナ禍ですが、当初から患者情報をデータに残すこと、作業をルーティン化させるなど工夫を重ね、経験値を積んでビッグデータを集約することができました。現在は当院でも核酸増幅検査室を持ち、迅速な検査体制を整えています。

手袋で患者に触れる違和感との闘い

さらに生理検査では「患者は全員感染者として扱う」として、検査時は必ず手袋を着用して患者に触れることになりました。今ではルーティンとなりましたが、消毒、除菌、殺菌作業が検査フローに組み込まれたのです。これまでは臨床検査技師がマスク・手袋を着用して生理検査を行うこと自体がなかったので、感染症対策とはいえ、患者に対する扱いの変化に違和感を覚え、一時は乗り越えられない気持ちにもなりました。

職員同士のコミュニケーション不足を補う努力も必要に

医療現場でもランチ黙食、飲み会や宴会もなくなり、気がつけば職員間の会話が大幅に減りました。検査室の仕事はチームで補う業務が多く、職員同士の連携が不可欠です。今は朝礼で顔を見るだけで会話のない日もあり、それが業務上のやり辛さになっていると感じています。特に、若手の職員たちは、大学時代からオンライン授業続きで学生同士のコミュニケーションも不足していたのでしょう。患者に関わる業務のことなど、聞いてほしいと思っても一人で抱えてしまう傾向がありますので、私たち先輩や上司がきっかけを作り、積極的に声掛けをして導くように心がけています。臨床検査技師は一般的に女性の多い職場ですが、さまざまなケースを男女でフォローしながら日々仕事をしています。

職域が広がる臨床検査技師
働き方も選べる時代に

臨床検査技師は一様ではなく、幅広い職域が特徴です。検体検査系、生理検査系のほか、病理検査系があり、就職先も病院だけでなく健診センターや食品メーカーなど、専門職として活躍の場が多岐にわたる仕事です。さらに医師のタスクシフトシェア(働き方改革)によって、今は点滴業務やワクチン接種も担えるようになりました。今後はさまざまなタイプの臨床検査技師が活躍することでしょう。今回の新型コロナウイルス感染拡大で経験したように、未知のウイルスに立ち向かうためには医学の発展とともに、私たちも新しい医療の知識や技術を常に勉強しなければなりません。その中で常に自己研鑽を積むことができれば、病院の第一線で長く働くことも可能です。

患者の方が元気に退院される姿に励まされ、チーム医療で共にする他の職種の人に刺激を受けて「自分もやらなきゃ」と思うこともあります。興味のある高校生は、ぜひ自分に合った臨床検査技師の働き方などを調べてみてください。