食物・栄養系特集准教授インタビュー
身近な野菜の有用成分を科学的に追究し調理加工時の成分間相互作用に注目する「農産食品学」とは
~日本獣医生命科学大学~

大学Times Vol.48(2023年4月発行)

【食物・栄養系特集】准教授インタビュー 日本獣医生命科学大学

食物・栄養系特集

葉物野菜などの植物がもたらす「人間の健康に有用な成分」には未知なる部分が多く、加工方法によっても変化するという。日本獣医生命科学大学では“体にいい”成分の正体を科学的に分析し、より良い食材としての可能性を追究する農産食品学の研究と教育が行われている。さらに学生向け「食品大好きプロジェクト」など同大学の取り組みについて、奈良井朝子准教授に話を伺った。

日本獣医生命科学大学
応用生命科学部 食品科学科 准教授
奈良井 朝子(ならい あさこ)

博士(農学)
専門分野:食品成分化学、食品酵素学、食品機能学
担当科目:生化学、農産食品学、農産食品学実験、農産資源論、食べ物の科学 入門

スムージーはなぜ体にいいのか
抹茶ラテなど“飲み合わせの活用”を追究

植物を使って私たちの健康に良い成分を分析、追究しています。薬効が認められている生薬成分ではないのですが、植物由来の成分には摂っていると体の調子が良くなるものがあります。私はその中でも“葉物野菜”と“茶葉”の研究を行っています。

野菜や果物は収穫後もまだ生きていて、スムージーのように機械的に粉砕すると細胞が壊れて酵素(物質変換すなわち化学反応の触媒)が出てきます。その酵素が普段接しない成分と出会うことで、人間の健康にとって良い成分が増すことを期待し、逆に良い成分の消滅は避けなければなりません。たとえば葉物野菜にはクロロフィルという緑色色素があり、調理・加工をすることによって、これまで注目されていなかった酵素に分解されて生じる成分が、抗肥満や抗糖尿病などに有用であることが解ってきました。このように、「なぜ体にいいのか」を科学的に解明する研究を行っています。

また、緑茶や紅茶に含まれるポリフェノールを研究しています。その中で苦味・渋味成分でもあるカテキンやテアフラビンはタンパク質や脂質と結合し、抗ウイルスや血中コレステロール改善、抗炎症などの作用があります。この特性は、ミルクティーや抹茶ラテのように他の食品中のタンパク質や脂質と合わせて飲んだ時にも活用できるのか、他成分との相互作用に関する物質的な条件を考えて「健康により良い飲み合わせ」を提案するべく、科学的に追究しています。

近年は健康志向の高まりから有用成分を活用した健康食品などが数多く出回っていますが、学生には「体にいいから」で完結せず、生理活性物質がどう作用するのかなど、科学的な視点を持って取り組んでもらいたいと考えています。

「食べる」とは「いのちをいただく」こと
地球生命の繋がりを意識できるキャンパス

本学は応用生命科学部と獣医学部がありますが、食品科学における動物実験などは動物愛護の観点を重視した倫理講習が徹底されており、学部間の協力体制も整っています。人間と動物、植物、微生物との繋がりを念頭に、すべての生命は自然の中で生かされていること、食とはいのちをいただくことなど、生命を繋ぐ意識をもって研究・教育を行っています。

さらに獣医学部のある大学には珍しく、東京の都心部に隣接したJR武蔵境駅から程近い位置にキャンパスがあります。通学の利便性はもとより、都心部ならではの社会貢献をはじめ、情報発信や情報収集においても強みを発揮しています。

1年生後期からの研究参加と資格取得を資金援助
「食品大好きプロジェクト」2年の成果

「食品大好きプロジェクト」は2021年よりスタートし、入学後は①早期ゼミ②学生の資格取得支援を中心に実施しています。

①シナジーを生んだ「早期ゼミ」の魅力
「早期ゼミ」は、1年生前期の成績が本学のGPA基準を満たした学生を対象に、希望者は1年生後期から研究室で実験等を行える取り組みです。従来は3年生からのゼミであり、入学後2年間は研究室での活動はありません。本学の志望理由に「研究室で興味分野の実験をやりたい」と希望を持って入学しても、2年間は待たざるを 得ないカリキュラムでした。「早期ゼミ」には1年生のモチベーションを保ち、本学入学の動機付けを維持する目的があります。この制度がスタートして2年が経過しましたが、学生は入学直後から学ぶ姿勢が積極的になり、「早期ゼミのために成績上位に入ろう!」と主体性が出てきたことなど、良い変化がみられました。中には早期ゼミに入りたくて本学に入学した人もいて、熱心な学生が増えた印象を持っています。

熱心な1年生の存在は、研究室の3年、4年生にもいい刺激になっているようです。さらに教員は、新たに1年生と“研究面の接点”ができました。試行錯誤しながら実験器具の正しい取り扱いなどを手取り足取り、実験データのエクセルを用いた整理方法から統計的な取扱いまで教えています。基礎知識のある3年生とは異なり、ゼロからスタートした1年生が日々育つ様子は教員にとっても新鮮でした。何より学生が満足することが、大学のいちばんの魅力になると思います。

②学生の挑戦者増加で活気づく資格取得支援
フードサイエンティストやHACCP管理者など、食品科学に関連した資格を在学中に取得することに対して大学が新たに経済支援を行い、学生の取得者が増加しています。資格取得支援はこれまでもありましたが、本制度は学生にとって経済支援のメリットが大きかったと思います。卒業後は食品関連の企業研究職に就職する学生にとって、働きながらの資格取得は簡単ではありません。「学生のうちに取得すればよかった」となれば、この制度の意義はさらに広がるのではないでしょうか。今では資格取得に対して学生が積極的になり、この挑戦が学内に活気をもたらしていると感じています。

将来的な食糧危機の回避に向けて植物の有効活用や可能性を探究する

近年は大豆や小麦たんぱく由来の代替肉が流通するようになりましたが、安定した食糧確保は、世界中で取り組む課題です。動物に替わる植物たんぱくの組み合わせを考えるとき、日本では大豆が幅広く食されるものの、梅雨の影響で北海道以外では米のように大量生産することが叶いません。日本の風土でも育てやすい植物たんぱくを、今後は探す必要があると考えています。さらに地球温暖化によって自然災害が頻発すれば、影響を受けない植物工場が脚光を浴びる一方で、野菜の生産コスト上昇が懸念されます。農作物の有効活用には、非可食部も無駄なく使わなければならず、植物の皮や芯などに含まれる体にいい成分や酵素の特性を活かした有用成分の生産は、今後も注目されるでしょう。アグリビジネスと連携した農作物の成分分析など、生産現場と食品科学の結びつきがさらに必要になるのではないでしょうか。

食べ盛り育ち盛りの高校生に食への関心を持ってほしい

高校生の皆さんには、普段食べているものがどこから来て、どれだけ人の手を経ているのかなど、食への関心を持ってもらえればと思います。また料理を自分で作ることも大切で、調理を通じて食材に対する関心度が変わってきます。人の身体は自分が食べたものでできています。食品科学は自然環境保護をはじめ、大人になってからの自身と大切な家族の健康管理にもつながる分野です。