データサイエンス特集教授インタビュー
大学まるごとデータサイエンス教育を実践
国内最高レベルの新・人材教育「デザイン思考・データサイエンスプログラム」始動
~電気通信大学~
大学Times Vol.49(2023年7月発行)

データサイエンス特集
- スペシャルインタビュー データサイエンティスト協会
- 教授インタビュー 電気通信大学
- 常務理事インタビュー 法政大学
- 准教授インタビュー 北里大学
電気通信大学は、データサイエンス教育を行う「情報理工学部」の国立大学である。昨年、文部科学省から日本の大学で最も高いレベル「応用基礎レベルPlus」の認定を受け、年間500名規模となる高度人材の育成を計画している。さらに、本年度からはビジネスや研究現場で指導的立場として活躍する、国内最高(エキスパート)レベルの人材育成も始動。責任者の西野哲朗教授に展望を伺った。

電気通信大学 大学院 情報理工学研究科 教授
データ教育センター長
西野 哲朗(にしの てつろう)
文部科学省「数理・データサイエンス・AI」プログラム認定制度
●複数の講義からなるカリキュラムを各大学が提出、文科省の「モデルカリキュラム」で設定した内容を満たしていれば、大学ごとに「認定」を受ける。レベルは3段階。
●カリキュラムの講義を履修して単位を取得した大学生に、認定したプログラム資格を授与。現在は「リテラシーレベル」(基礎レベル)または「応用基礎レベル」(応用レベル)のみだが、電気通信大学は「応用基礎レベルPlus」に加え、全国の大学に先駆け、「エキスパートレベル」(大学院レベル)となる6年一貫教育「デザイン思考・データサイエンスプログラム」をスタートした。
電通大は全学生対象の「応用基礎レベルPlus」資格取得が可能
応用基礎レベルは「実務や研究でデータサイエンスを活用できるレベル」ですが、その中でも特色を持った講義を実施している本学は「応用基礎レベルPlus」の認定を受けました。
全国で現在4大学(北海道大、東北大、九州大、電通大)のみとなり、認定された科目を履修した学生には、資格取得として「応用基礎レベルPlus」のオープンバッジが発行されます。本学は全学域生の必修科目に選択1科目をプラスして単位取得すれば「応用基礎レベルPlus」の資格認定が可能です。1学年750名定員のうち、毎年500名規模の資格取得を目標としています。このオープンバッジは、就職活動にも活用できる資格証明となります。
米国に後れを取ったデータサイエンス研究
“教員養成”と“高度人材育成”のジレンマから独自に「エキスパートレベル」を始動
国を挙げたデータサイエンティスト育成の背景には、研究や開発など米国に後れを取った現状があります。本来であれば米国に早く追いつくためにも、最高レベル人材(エキスパートレベル)養成が急務なのですが、今は教員自体が足りないという問題があり、文科省は教員養成を優先させることになりました。
しかし本学はいち早く、全学でデータサイエンス教育を実践しています。2015年にデータサイエンティストの養成講座(データアントレプレナーフェローシップ・プログラム:略称DEFP)を開始し、大学院生と社会人を対象とした高度人材の社会活用を推進してきたノウハウを活かして、独自にエキスパートレベルの教育プログラムを構築しました。昨年12月に文科省から認可され、この4月から全国の大学に先駆けて、エキスパートレベルの人材育成をスタートしたのが「デザイン思考・データサイエンスプログラム」です。現在は大学院生5名と学域1年生(プログラム分けは2年次後半から・成績上位者対象)が学んでいます。大学の学部新設ではなく、内部の組織改編なのであまり目立ちませんが、本プログラムについて産業界なども興味を示していただいています。
提携企業の生データを活用し「カグルマスター」獲得に向け腕を磨く
本プログラムでは実務家教員として、データサイエンティスト3名を新たに採用します。Googleグループが開催するデータサイエンスの国際コンペティション「Kaggle」に、学生も挑戦します。企業から依頼されたデータ分析の課題(例:金融機関より顧客の与信を算定)について、提供されたデータをもとに分析結果を投稿するサイトですが、より精度の高い投稿者には金メダル相当の(Kaggle Grand Master)や銀メダル相当の(Kaggle Master)が授与され、賞金を獲得する場合もあります。Kaggleは世界中の有能なデータサイエンティスト発掘の場でもあり、実務家教員の中にもKaggle Master獲得者もいますので、在学中にKaggle Master獲得をめざし、ビジネスで活用するための学びを深めます。連携する企業からは、実際のデータを教材用に提供いただいているので、実社会のデータで分析ができるのは本学の強みとなります。
今夏からブートキャンプ実施
インターンシップは国内、海外を必修に
データサイエンスの学びはオンラインのやりとりだけではなく、マインドの醸成が大事です。ビジネスシーンで活躍する業界人の声を直接聞き、議論の場を通じてスキルを身に付けることを目指し、今夏から合宿(ブートキャンプ)を実施します。実務家教員とともに終日議論を重ね、デザイン思考(アイデア出し)から設計、実装できるよう学びを深めていきます。
またインターンシップについて、学域3年生は国内企業、修士1年生は海外企業で実施します。この4月入学した修士1年生5名は、アメリカやインドネシアの企業に1ケ月程度赴く予定です。
ChatGPTは開発途上
AI技術は倫理観を持って向き合うべき
ChatGPTに代表されるニューラルネットワーク研究は未だ途上にあり、実用には程遠い段階です。 AIが学習する、インターネット上の情報の著作権許諾や、散見される誤情報による損害と責任問題など、棚上げのまま先走りで社会実装されているのです。これまでもAI兵器の使用など、倫理の問題を含めた議論はされていますが、明確な答えがない今日、学生に対して、技術とともに倫理観を養う教育が大事だと考えます。それは、AIがまだなかった時代の学習方法にヒントがあり、“紙とえんぴつ”で漢字の書き取り練習をするような「ずるが出来ない」学習習慣を身に付けて、スマホに頼らない知識や教養を身に付けてもらいたいです。ブートキャンプも、教科書では伝わらないことを、直接話して教えることの大事さを知ってほしいという願いもあります。本学2年生の必修科目「総合コミュニケーション科学」は、データサイエンティストの倫理問題として、著作権についてエピソードを交えて触れています。
高校の先生方からの反響の大きさとデータサイエンス教育への使命感
この2年あまりで本学のデータサイエンス教育に対する、高校の先生方からの反響の大きさに驚きました。埼玉県教育委員会からは先生向けのデータサイエンス講座を依頼されて、昨年秋にデータサイエンスとは何か?から学ぶ基礎的なビデオ講座を制作しました。その後はさらに熊谷高校から反響があり、データサイエンスに興味のある高校生向けの体験授業を現在企画しています。
「デザイン思考・データサイエンスプログラム」のWEBサイトは現在制作中で、夏ごろには公開できる予定ですので、先生方には今後も本学のデータサイエンス教育に注目していただけたら幸いです。
