データサイエンス特集常務理事インタビュー
データサイエンスを学生の“学びの基盤”にも組み込む、法政大学の牽引力~法政大学~

大学Times Vol.49(2023年7月発行)

【データサイエンス特集】常務理事インタビュー 法政大学

インターネット上にあふれる夥しい数の情報やデータを解析して企業戦略に活かすことは、もはや当然のロジックとなっている。大学の専門課程でもすでにそうした学問は確立されており、データサイエンティストと呼ばれる人材も輩出されはじめた。文理15学部を擁する総合大学の代表格、法政大学では文部科学省(以下文科省)が推進している「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」のモデルカリキュラムに準拠したプログラムのもと、文理融合でデータサイエンスを学ぶプログラムを2021年度から開講。学生誰もがビッグデータを読み解く力を基本として身につけ将来の仕事に役立ててほしい、と語る、データサイエンスセンター委員の平山喜雄常務理事にお話を伺った。

学校法人法政大学理事・常務理事、評議員
データサイエンスセンター委員
平山 喜雄(ひらやま よしお)

1963年生まれ。1987年法政大学法学部卒業。1987年学校法人法政大学入職。2008年女子高等学校事務室事務長(課長補佐)等を経て2016年学務部次長、2017年学務部長・教育支援統括本部長(2021年3月まで)、2017年学校法人法政大学評議員(2021年3月まで)等を歴任。2021年学校法人法政大学理事・常務理事、評議員(現在に至る)。

社会的課題を解決するための糸口を見出すデータサイエンス

2021年秋学期よりスタートした、数理・データサイエンス・AIプログラム「MDAP Mathematics, Data science and AI Program」(以下MDAP(エムダップ))は内閣府を中心とした政府が提唱する「Society 5.0」の方針に大学として、どう応えていくのかということから構想されました。また本学は「HOSEI2030」という長期ビジョンを策定しており、その中で法政大学憲章を定め、「実践知教育」として、さまざまな社会課題を解決できる人材を育成していくことを謳っています。社会課題の解決の糸口を見出していくためにも、データサイエンスの知識や技法を身につけることは、学生たちにとって必須のスキルになると考えました。

文理融合のMDAPは「リテラシーレベル」「応用基礎レベル」に分かれており、リテラシーレベルは2022年度に文科省の認定を得ました。導入のデータサイエンス入門ではビッグデータが社会にもたらす影響やどのように役立っているかなどを考察・体感できるようになっています。また、フルオンデマンド配信、ユニット型の授業形式となっているので何度も見直せるため、数学に苦手意識のある文系学部の学生も理解度に応じて学びやすくなっています。

・データサイエンスセンターウェブサイト
https://www.dsc.hosei.ac.jp/
・受講者の声
https://www.youtube.com/watch?v=vd1SuAI7ExY&t=233s

文系学部でもデータ解析は必須のスキル

プログラムをつくるにあたって文系学部のカリキュラムを改めてみたのですが、文系の学部でもデータを頻繁に使っている授業がかなりありました。経済学部は昔から統計学はありますし、経営学部であればマーケティングデータの解析は必須、文学部でも言語の変化を調べるために年代別に過去の新聞などからデータを収集し研究している教員もいます。

また、文系学部であっても3~4年生でゼミに入ると、自分で課題を設定し、論文を書くときには、根拠を示すためにデータが必要になってきます。こうした要素は今までも大学における学習の中に入っていましたが、ただ違うのはこのデジタル、SNSが隆盛の現代では扱うデータの量は昔とは桁違いということです。ですから、ビッグデータを扱えるような方法であるとか、基本的な知識をMDAPで身につけてほしいということです。社会的課題を解決するにはデータを解析して裏付けをもった提案をしなくてはなりません。これは社会に出てからも必要なスキルになっていくでしょう。

一躍、人気プログラムへ。

今年度のMDAPの受講者数ですが、リテラシーレベルの必修科目「データサイエンス入門」のAとBを見てみますと、Aが2,031名、Bが1,053名となっています。開講3年目は、在籍者数11%の履修者を目標としていたのですが、2年目に続けて見事クリアできたので、私たちとしてはその反響に大変満足しています。

ちなみに昨年度の受講者数はデータサイエンス入門A・Bをあわせて、2,357名。一昨年度の開講初年度ではデータサイエンス入門A・Bをあわせて、1,037名。このような傾向をみるとデータサイエンスに対する学生たちの関心は高く、私たちが思っていた以上にその必要性をより感じているのだと思います。

受講した学生たちの評判も良く、将来の展望として心理学の領域でインターネット・AIを融合させた新分野を切り拓きたいなど、意欲的な学生の声も寄せられています。将来的にはこのプログラムを社会貢献として、社会人の方にも公開する方策を検討していきます。

オープンバッジで学習成果を可視化

本学は以前よりサティフィケートプログラムなどの学習成果の可視化に取り組んでいます。サティフィケートプログラムとはダイバーシティやSDGsなどのテーマに応じて学生が学んだ成果として、修了証を授与するものです。これは従来の成績証明書ではテーマごとに学んだことを示すことが難しいため、修了証として学習成果を対外的に示せるようにしたものです。MDAPも同じように修了証を授与することを考えていたのですが、想定以上の受講者が集まったため、デジタル証明書のオープンバッジの導入を決めました。

オープンバッジは「一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク」が運営するもので、本学と同様に文科省が推進する数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度を受けている大学のうち、半数が加盟し、バッジを発行しています。大手企業、官公庁なども会員ですが、今後は大学として学習成果の可視化をより一層推進・深耕していく必要性を再認識するとともに、学生が大学で学んだことや身につけた知識・能力をどう社会に認知してもらうのかが課題になって来ますので、そのひとつの手段として、今後もっと普及していくことを期待しています。具体的には「自分はデータサイエンスを学んだ」ということを就活の際などに活用できるようになればと思います。

データサイエンス時代を担う人材を発掘

MDAPと関連して本学、関西大学、中央大学の3大学共催で学生参加型「データサイエンス・アイデアコンテスト(協賛マイナビ)」を開催しています。テーマは労働力人口減少の社会問題をデータに基づいて提案するというものです。3大学の共通点は数理・データサイエンス・AIに関する教育プログラムを同時期に開講したことや総合大学であるという点、2万人以上の学部生を擁することです。3大学でデータサイエンスのボトムアップを狙いとした取り組みで、参加対象者は学生だけでなく付属の高校生も対象としているのが特徴です。3大学はこれからもこの教育領域で大学間連携や社会連携を拡充していきます。

ソーシャルメディアの投稿量から話題を分析する

MDAPの学びが、どのように専門科目の学習に役立つのか、ソーシャルメディア(SNS)を研究している社会学部・藤代裕之教授(データサイエンスセンター委員)はMDAPと専門科目の学びの連携を次のように話しています。

メディア研究はデータ分析が不可欠

学生たちが最も身近に感じ、興味を惹かれるのはソーシャルメディア(SNS)のデータです。
『誰もが発信できるSNSは、膨大なデータを生み出しており、そのデータを分析することで、ニュースが人々にどう広がるか、消費者が企業の商品やサービスについてどう考えているかなど様々な社会のメディア的出来事を知ることができます。学部専門授業の「ソーシャルメディア分析」では、投稿量の推移を確認し、テキスト分析のツールを使いどのような言葉が話題になっているかを分析します。SNSはAIによる偽投稿も存在している可能性もあるためデータ分析に加え、投稿の目視やリアルなインタビューやフィールドワークと組み合わせることで、SNSでの出来事のより的確な理解を進めています。こうした知識を卒業論文に活かす学生もいます』。