データサイエンス特集准教授インタビュー
生命科学の総合大学に未来工学部 データサイエンス学科が誕生
~北里大学~
大学Times Vol.49(2023年7月発行)

データサイエンス特集
- スペシャルインタビュー データサイエンティスト協会
- 教授インタビュー 電気通信大学
- 常務理事インタビュー 法政大学
- 准教授インタビュー 北里大学
1962年に北里研究所の創立50周年事業として開学した北里大学。今日まで半世紀以上の歴史を重ねて生命科学の総合大学に成長を遂げてきた同大学に、2023年4月、8番目の学部として未来工学部が誕生。医療系の学部とデータサイエンス系の学部が協働する大学は日本初とあって、各方面から注目を浴びている。同大の学びと特長・魅力について、未来工学部 データサイエンス学科の力丸佑紀准教授に話を伺った。

北里大学 未来工学部
データサイエンス学科 准教授 博士(理学)
力丸 佑紀(りきまる ゆうき)
博士(理学)
専門はデータサイエンス、データモデリング。これまでは主に空間データモデリングの研究を行ってきた。2017年8月、博士号(理学)取得(慶應義塾大学)。日本統計学会員。
未来工学部データサイエンス学科誕生
未来工学部データサイエンス学科は、「まだ起きていない『未来の課題』に挑む」をキーワードに、「サイエンス」としてのデータサイエンスを実践し、環境問題、医療問題など複雑で広範囲な課題を解決できる人材を育成すべく誕生しました。
これは、学祖・北里柴三郎が、北里研究所の開所式にて述べた「医学と工学の融合こそが未来の医学研究を切り拓く」という願いを実現することに繋がるともいえるでしょう。
また、相模原キャンパスでは、先進的設備を導入した医工連携の拠点となる「未来工学部棟」が現在建設中で、2024年2月に完成予定です。
データサイエンスとの出逢い
私自身が今、特に興味を持って取り組んでいる研究は「空間データモデリングの理論構築」です。耕作地での作物の生産量や地価、宇宙の温度など連続的に広がりのある空間データを対象とし、空間上の各地点が互いにどう影響しているか、ある地点の値を決めるのにどんな値が影響しているか、などを探っていきます。その中で明らかにされた原理を統一的に説明する「理論」を丁寧に積みあげていくのが私の仕事です。
私は元々中学・高校の教員になることが夢で、数学の本質を伝えることに興味があり、大学では数理科学科に進学しました。それまでは数学だけに目を向けていた私でしたが、3年次に履修したある授業で、疑問を持つことや自分の頭で考えることの重要性などといった「サイエンス」の基本を学び、特に、データを通して他分野と組み合わせれば数学がより光る可能性があるという発想に大きな衝撃を受けました。それが私にとってのデータサイエンスとの出逢いです。さらに、当時、高校数学で「データの分析」が必修となり、非常勤講師として勤務していた学校で同僚の先生方とその教え方を議論した経験も重なり、「数学の地盤を持ちつつ、教育現場の先生方やデータサイエンスと出逢えた自分がすべきことはなんだろう」と思案し、データサイエンス研究者の道を選びました。
今は中高大が連携し、日本のデータサイエンス教育の未来を明るくすることが私の夢のひとつです。
未来工学部って何だ?
さて、いきなり「未来工学部」と言われても具体的に何を学ぶのかよくわからない人も多いと思います。まず、「工学」というとモノづくりのイメージがありますが、我々は「データ」という形のないものを扱うのが大きな特徴です。また、「未来」という名の通り、変化の激しい時代に発生する「未来の課題」を先回りして見つけ、知識と技術をもって解決へと導くことで人類の「未来を切り拓く」ことを目的とします。データサイエンス学科では、この「未来の問題解決」のための学びを、これから紹介する3つの特長によって実現します。
3つの学びの特長
まず1つめは、生命科学系7学部や3病院、大村智記念研究所等との連携を積極的に行える環境が整っていることです。日本に多くはない獣医学部、海洋生命科学部もあり、学生の興味をより深めることができるだろうと期待しています。
2つめは、「サイエンス(科学)」の精神を重要視していることです。「データサイエンス」と称するものが、必ずしも「サイエンス」を意識しているとは限らないのが現状だと思いますが、北里では「疑問をもって発見を目的とする」サイエンスの精神を大切にし、自分の頭で考えることを身に着けてほしいと思っています。この力は、様々なものが入り乱れる現代を生き抜いていくときに学生の皆さんの強い軸となってくれるでしょう。
そして3つめの前に、データサイエンスはデータを分析し、プログラミングによって実装するというイメージが強いかもしれませんが、実はその前に「目的達成に必要十分な情報をどのように表現するか」、「扱いやすく見通しのよいデータをどのように構築するか」という議論があります。その段取りを誤ると、その先すべてが間違ってしまう、とても肝心な部分です。目的によってデータの扱い方・組織化は異なり、統一的に説明するのが非常に難しいように思われがちですが、未来工学部にはそれに対応できる「データのモデリング」の専門家がいます。データサイエンスに欠かせない「データのモデリング」の学習がカリキュラムにしっかり組まれていることこそ、3つめの大きな特長です。
データサイエンスの授業で学ぶこと
2年次からは専門科目が始まります。データサイエンスにおいて必要となる数学、プログラミング、統計学などの基本を修得するのはもちろん、データサイエンスを教える人を育てる「データサイエンス教育法」や、歴史的背景からデータサイエンスの発展性を考える「歴史から見るデータサイエンス」のような科目もあり、いずれも「データサイエンスとは何か?」の答えを学生自身が自分の言葉で説明できるようになることを大きなテーマの1つとしています。
どのような学生が向いている?
「これが好き」と言えるものが1つでもあることが重要です。サイエンスは、「何で?」という疑問を持つことから始まります。興味があれば自然と疑問が生まれ、「そうなんだ!」という発見を求める意欲も湧いてくるでしょう。みなさんの興味をより広げ、より深めるために、私たちはデータサイエンスの知識・技術・精神を伝えることでその手助けをしたいと思っています。
入学前のスキルを気にする必要はありません。入試科目は数学と英語ですが、数学はⅡ・Bまでで、数学Ⅲまでは求められません。英語も高校で学ぶ基本的な内容をしっかり押さえていれば十分です。プログラミングについては入学後に授業がたくさんあり、基本からしっかり学べますので心配いりません。
高校生・進路指導の先生方へのメッセージ
現在、データサイエンティストはどの分野でも求められ、力を発揮できると言われています。先日、未来工学部の一期生たちと話していて感じたことがあります。それは、私たちが想定している進路、例えば、医療、製薬、化粧品、金融、教育、官公庁、コンサルなど既存の分野に留まらず、はるかに幅広いジャンルで活用できる可能性があるということです。例をあげますと、美術や舞台演出にデータサイエンスを組み合わせたいですとか、文学好きの学生が、好きな作家さんの作品データを分析したいという話がありました。また、ある学生はデータを扱って起業の可能性を探りたいと夢を語ってくれました。私たちより学生の方がもっと柔軟で、アイデアがいっぱいあるのだと感じ、話しているうちにワクワクする気持ちになりました。「興味」を広げて夢を語れる学生が集まり、学び、卒業していってくれれば、人類の未来は私たちが想像するよりずっと広がりのある世界になるかもしれません。高校生のみなさんには、日々小さな疑問を持ちながら生活をしてみて、それが「面白いなぁ」、「その答えが知りたいな」と思ったらぜひ未来工学部へ見学に来て欲しいです。
恩師の教え
恩師の言葉に「データは現象の放つ光」という言葉があります。これは今でも自分の根幹にある考え方で、「一見無機質に見えるデータも色づいて見える」、「データは素直に現象を表現するが、それを見る、触る人間が欲や先入観を持つと本当の姿が見えなくなってしまう」など様々な意味をもつ非常に深い言葉だと思っています。こうしたことも、データサイエンス学科で伝えていきたいと思っています。
