グローバル系大学特集副学長インタビュー
グローバル言語の理解を深めて日本と世界を立体的に捉え多文化共生社会に寄与する~東京外国語大学~

大学Times Vol.54(2024年10月発行)

【グローバル系大学特集】副学長インタビュー 東京外国語大学

多文化共生社会における人材育成をリードする東京外国語大学。独自の英語教育や、文系科目に加え理数系科目の教養教育を実施。さらには地域社会や日本の地方都市から社会課題を見出し社会貢献へ繋げる独自の活動まで、多彩なプログラムが躍動している。篠原琢副学長に展望を伺った。

東京外国語大学 副学長(教育等担当)/教授
篠原 琢(しのはら たく)

博士(歴史学・チェコ史) 研究分野:ヨーロッパ史、アメリカ史

英語の存在感が拡大
地域言語はもちろん英語力も伸ばせる充実した環境

本学を志望する受験生は、高校でも「英語が好き」「英語が得意」という人が多く、ネットメディアやSNS等にも慣れ親しみ、英語を身近に捉えているようです。本学では入学後の2年間で英語を含む28の専攻言語から1つを集中して学び、更に教養(第二)外国語やGLIP(後述)など専攻言語以外の言語教育にも力を入れています。この20年で世界のリンガ・フランカ(共通語)としての英語のプレゼンスが大きくなっており、非英語話者が世界のどこへ行っても英語を話す機会が格段に増える中、英語力を伸ばす必要性が高まっています。英語で自分の考えを豊かに表現し、相手のことを理解できるかが重要です。

グローバル人材育成プログラムGLIPとは

グローバル人材育成プログラム(GLIP)は、グローバル化が進む現代の国際社会で必要とされる職業人を育成するための本学独自プログラムです。国際社会で活躍するためには、どんな相手とも相互に理解を深め、創造的な関係を構築できるよう、英語のコミュニケーション能力が求められます。また自己や自分の文化を相対的に認識する視点と、幅広い教養が必要です。GLIPでは、このような力を備えた人材の育成を目的として、英語力を磨くための「GLIP英語科目」と、国際的な教養を英語で身につけるための「英語による科目」を提供しています。これらはすべて正課として開講され、一定数まで卒業所要単位に算入されます。


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基礎教養として理数系の学びに触れ将来の可能性を広げるべき

本学ではデータサイエンスや統計学を学ぶプログラムを用意し、現在は50名前後の学生が受講しています。規定の単位を修得すると、文部科学省の「数理・データサイエンス・AIプログラム」のリテラシーレベル認定のオープンバッジを受けられるようになりました。本学でIT技術者を目指して学ぶことはありませんが、言語分析などでは数理モデルが重要になります。先ずは、理数系科目に対して「苦手意識を持たない」ことが大切だと考えます。

本学は大学入学共通テスト(一般選抜前期日程)の数学を2科目課しました。これは数Ⅰ・数Ⅱの素養を教養として身に付けてもらいたい、という本学からのメッセージでもあります。高校生の初期段階で文系クラスを選択し、受験対策から理数系科目を授業で勉強しない人もいるようですが、これからの時代、数学だけでなく物理・化学・情報など数理的な考え方を育むことは必要であり、長い将来を見据えたら決して無駄ではないと思います。「数Ⅱの授業がないと受験できないのか?」というご質問を頂戴することもありますが、高校で授業のない方は、教科書を取り寄せて内容を理解できる程度の力を付けると良いと思います。

子ども向け国際理解への啓蒙活動を通じて
多様性理解と共生社会の一員を実感

外国に背景を持つ子どもたちが年々増加し、学校の先生方では対応しきれない状況が生じる中、本学学生はボランティアで学習支援を行っています。時に保護者の方と話す機会もあるので、学生には良い刺激になっているようです。学生ボランティアのサークルは複数あり、小学生や中高校生向けの「国際理解を学ぶ」イベントを通じて、コミュニケーションや多文化共生について学ぶ啓蒙活動を行っています。国際化とは遠い世界のことではなく、身近で気が付かないところにもあることを実感し、多くの学生が海外留学先で経験することを、この活動を通じて事前に学び準備している側面もあります。

多文化共生とは日本と外国との間にあると考えがちですが、実は日本社会の中にもあり、そこに目を向けないと課題を解決することもできません。自分の身近に存在する多様性に敏感になることが大切で、学生は大学のフィールドだけでなく、双方向的に共生社会の一員として歩みを進めていることを自覚するでしょう。

地方都市との連携を通じて
日本=東京ではない複眼的視野を身に付ける

また本学では、地方都市との社会連携を深めています。6年前にも山形県と寒河江市、高畠町、白鷹町、飯豊町と締結し、さらに山形市を加えてスタディーツアーとして学生と留学生を派遣しています。たとえば山形の文化遺産等を視察して、インバウンドに繋げる提案を実施しています。地方には貴重で魅力的な遺産があるものの、少子高齢化や人口減少、空き家など過疎の問題があり、東京にいるだけでは見えてこない日本の課題を学生の目で見て社会貢献に繋げ、留学生には日本の課題を知ってもらう機会として取り組んでいます。

さらに沖縄大学と連携協定を結び、来年度からは国内留学がスタートします。交換留学を行うことで、東京と沖縄という異なる特徴を持つ場所から、日本社会の課題を立体的に捉えるきっかけにもなると期待しています。

多言語を修得し、新たな文化と自分の可能性に出会う

「日本語を話す自分」と「外国語を話す自分」を持つことで、考え方の幅が広がり、自分を複数化する面白さに出会えます。たとえば、日本では意見を主張することが難しいと感じていた学生が、留学先で現地の学生が自由に意見を述べる姿を見て触発され、日本に帰ってから積極的にコミュニケーションをとれるようになったこともありました。

最近は自動翻訳などAIに任せて外国語を学ぶことに懐疑的な意見が聞かれますが、これはAIで代替できるものではないと考えます。言語は文化ですから、新たな文化と出会い、これまで気付いていなかった自分を発見することにもなるでしょう。日本語と英語、そして地域言語という3点で世界を捉え、多文化共生に寄与したい高校生を歓迎いたします。