データサイエンス特集講師&教授インタビュー
私大最速AIスパコン「青嵐」本格稼働。国内最高レベルのAI人材育成環境を創出~東京工科大学~
大学Times Vol.58(2025年11月発行)

AIは今日、人間の生活に大きな影響を与えるツールとして急速な発達を遂げている。AIを活用できる人材の育成は喫緊の課題であるが、東京工科大学ではいち早く、独自のAI・データサイエンス教育プログラムを2019年度より開始、2023年度には全学部に拡大した。さらに私大最速のAIスーパーコンピューター「青嵐」を構築し、本年10月より稼働を開始している。今回は同大学のデータサイエンス・AI教育とAIスーパーコンピューター導入について、各担当教員に伺った。
全学部でAI・データサイエンス教育プログラムを実践

東京工科大学 講師
藤澤 幸太郎(ふじさわ こうたろう)
専門分野 宇宙物理学、天文学、計算科学
理工系学部からデザイン学部、
医療系各学科にも整備
本学では、八王子キャンパスを中心とする理工系学部(コンピュータサイエンス学部、メディア学部、工学部、応用生物学部、医療保健学部臨床工学科※)で、1年次対象の「データサイエンス入門」を必修科目としています。AIやデータサイエンスの基礎知識を無理なく身につけることを目的とし、いち早く展開してきました。現在は蒲田キャンパスのデザイン学部、医療保健学部(看護・臨床検査・リハビリ系学科)を含めた全学部に拡大しており、デザイン学部では選択科目にもかかわらず約8割の学生が履修するなど、多くの学生がこの分野を学んでいます。
こうした取り組みは後に文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」として認定されました。八王子キャンパスでは、理工系中心である学部構成の特性を生かし、教員の研究テーマも教材として扱っており、学生はデータサイエンスを軸に他学部の学びを知る機会となり、視野拡大にもつながっています。データサイエンスというと、難解でとっつきにくい印象を持たれがちですが、授業では学生にとって身近なデータを題材にするなど、理解しやすい工夫を凝らしています。たとえば、Google Mapから取得できるデータ――コンビニの時間帯別滞在者数など――を使って可視化や分析を行い、データの扱い方やその面白さを体感できるようにしています。
※医療保健学部臨床工学科のみ蒲田キャンパス
学びを証明する“オープンバッジ”は
7割の履修生が取得
データサイエンス入門の習熟目標は『基本的なデータの読み書きと計算』『グラフを読み取ってそれらを理解し議論できるようになる』『複数のデータの関係性を調べる』『AIの基礎を理解する』などです。授業では小テストなどで習熟度を確認していますが、学生からは「データを扱う数学が理解できて楽しくなってきた」という声が多く寄せられています。また、習熟目標に達し、本プログラムを修了した学生の「オープンバッジ」(下画像参照)受領は履修生の約7割に及んでいます。これは他大学と比較しても高い水準だと自負しています。

視野を広げて深く理解する力が身に付く
データサイエンスの魅力
今後の授業ではデータから社会課題を分析して、学生の皆さんと議論を交わすことにも取り組みたいと考えています。デザイン学部では地元・大田区と連携した街づくりを進めているので、学生がデータサイエンスの知識を深めていけば、行政と関わる新たな活躍のフィールドが生まれるかもしれません。今は何をするにも“データと数値”が必ず付いて回ります。データを正しく扱えることは、物事を深く理解することにつながっていくのです。
AI特化型スーパーコンピューター「青嵐」による人材育成

東京工科大学 コンピュータサイエンス学部教授
AIテクノロジーセンターICT部門長
生野 壮一郎(いくの そういちろう)
専門分野 数値シミュレーション、ハイパフォーマンスコンピューティング
私大最速スパコンを学内に設置
世界的半導体企業と連携
「青嵐」は、国内私立大学で最大規模を誇るAIスーパーコンピューターで、2025年10月、八王子キャンパスに設置されました。大学でスパコンを保有する例は他にもありますが、多くは汎用的に運用されることが多く、その点、本学はAI特化型であることが特徴です。「青嵐」は生成AIや大規模言語モデルなどの処理に適した設計がされており、システム全体の理論上のAI演算性能は0.9EFLOPS(1秒間に90京回の演算)に達する圧倒的な計算能力を有しています。こうした大規模な本物のAI環境で学べることは学生にとってかけがえない経験となり、大きなアドバンテージになると確信しています。
本学のスーパーコンピューター「青嵐」には、アメリカの半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)製の先端GPUが搭載されており、AI研究と教育の中核を支えます。少しさかのぼりますが、本学は2023年にNVIDIAの日本法人エヌビディア合同会社と学術交流に関する協定を締結しました。こうした連携に加え、学生たちは同社の『NVIDIA学生アンバサダープログラム』にも参加しており、NVIDIAのサポートを受けつつ同社製品を実際に活用しながらAIをはじめとするさまざまなテクノロジーの理解を深める貴重な機会を得ています。
本学では、上述のように以前からAIの教育・研究に注力し、2020年度には他に先駆けてコンピュータサイエンス学部に人工知能専攻を設置(現在は先進情報専攻と社会情報専攻の2専攻体制に進化)するなど、これまでもこの分野をリードしてきました。さらに、四足歩行ロボットを活用したラボや、クラウドシステムを学ぶ“道場”を展開するなど、自発的に学べるプログラムを複数展開してきました。こうした取り組みが、今回のスパコン導入や大学として掲げる「AI University」構想の礎となっています。
AIリテラシーの人材教育に重点を置き
学生の斬新な発想を期待
近年、社会全体で「AIリテラシーを持つ人材の育成」が重要課題として取り上げられています。本学では、「AI as a TOOL」をキーワードに、人間中心でAIを捉え“道具(TOOL)”として活用する視点を重視し、基礎から応用、そして倫理やガバナンスまでを一貫して教育する体制を整備したいと考えています。AIの社会実装に欠かせない倫理的・法的課題の検証を行う「AI Ethics」に加え、説明可能AIやデジタルツインの構築など、最先端の研究も展開していきます。学生たちは「青嵐」のスペックとこうした学びの中で、従来の枠にとらわれない発想を形にする力を伸ばしていけるでしょう。
さらに、今回のスパコン導入と同時に、本学は八王子市と「AI/DX技術を活用した連携に関する協定」を締結しました。地域が直面する高齢化や人手不足といった課題の解決に加え、AI人材の育成や地域産業の振興を図ることを目的としています。
本学では「青嵐」導入を機に、AI教育と研究の体制を一層強化してまいります。スパコンの活用にとどまらず、「AI/DX価値創造機構(下図)」を中心に、全学部横断でAIを深く学べる環境を整備し、学内外における価値創出に取り組んでいきます。

