探究学習特集受賞者インタビュー②
いじめ撲滅と不登校支援拡充へ立ち上がる
自己研鑽と周囲の協力を得た活動の記録~角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校・R高等学校~
大学Times Vol.58(2025年11月発行)

中高生の探究学習の成果を企業団体が評価する『自由すぎる研究ⓇEXPO2025』(主催:株式会社トモノカイ)。応募総数8352件は、昨年の2.5倍。先日、最終審査結果が決まり、金賞(さんぽう賞)に角川ドワンゴ学園悉知信さん『いじめ撲滅と不登校支援拡充に向けて』を選出した。自ら経験したいじめ被害や不登校と向き合い、発展的解決に向けた勇気ある行動と将来について、ご本人に熱く語ってもらった。

角川ドワンゴ学園 S高等学校
悉知 信(しっち あきら) さん
いじめ被害と不登校の経験から導いた
「行政書士国家資格取得」の起点
私が小学6年生の時に心身のいじめ被害を受け、大人に向けてSOSを出しましたが、向き合ってもらえませんでした。たとえば骨折に至るいじめ被害に、「あなたの証言だけではいじめの証拠にならない」と。中学校では約2年間、不登校になり結局、転校に追い込まれました。高校に進学し、同様のいじめや不登校の問題で悩みを抱えている子は他にも多いと認識していたので、何か自分自身ができるアクションは…と考えたのが探究学習のきっかけです。通信制高校進学を機に生活環境を変え、まず自分を見つめ直し「何がやりたいのか」を考えた末に、自由な時間を使ってまずは「行動を起こそう」と決めて、高1で行政書士試験に挑戦して合格できたことも大きかったと思います。
「法知識があれば、同じような事態は防げたんじゃないか」試験勉強を通じて、法律が行政や学校の行動を規定する根底にあることがわかりました。法律を変えるためには、実際に議会に対してアクションを起こすしかありません。「法律」改定はハードルが高いのでその前段階の「条例」に対しての地元の議員への働きかけや、文科省・子ども家庭庁への働きかけをひとりで行ってきました。また、いじめ被害者同士の交流会を開催した時は、活動を通じて知り合った県議会議員の方に福祉協議会を紹介いただいて会場を貸してもらうなど、大人の方たちからの協力を得ました。
通信制高校進学で増えた「自分の時間」
「政治部」活動で“社会のいろは”を学ぶ
S高を含む「N高グループ」にはユニークな部活動があり、経験や体験を重視したいと思い選びました。その中でいちばん目を惹いたのが「政治部」です。私も1年生の頃所属し、政治家に対して最終的には政策提言を目指して、国会議員、元総理大臣など著名政治家を招いて講義を受けたり、個別に政治家の方にインタビューにも行きました。そこで培ったコミュニケーションが今の活動の礎になっているので、普通の生活をしていたら得られない体験が何より良かったと思います。部活担当の職員の方がメールの書き方、電話のかけ方を含めて教えてくれたのが有難く、政治へアプローチする意義や、高校生でも「声を届ければもしかしたら動くんじゃないか」と感じた希望が、今の活動を下支えしています。
法律や条例の改正には、社会的関心や、世論の醸成が重要です。探究学習は正解がないので、一つ行動を起こして課題が見えても、解決するために次はどういう行動を起こしたらいいのか、とすごく悩みます。どういうアプローチがあるのか、選択肢もいっぱいあるので、行動までの考えをまとめるのに苦労することもあります。

“筋の通し方”を体得し、まずは
地元での条例制定を目指す
まず地元の「いじめ防止条例の制定」をいちばんに目指したいと思います。地元は水戸市で政令指定都市の一歩前、ある程度人口がいて権限移譲も進んでいるので、水戸市でモデルケースをつくることを目指しています。水戸市が起点となって、他の自治体へ伝播していけばいいなと。今までは「陳情」として出していたんですが、今度は一段上の「請願」という形で条例の制定を目指していきたいです。と同時に、いじめ防止条例の「ルーブリック評価」(達成度の客観的評価)をしっかり普及、啓発を通じていじめ防止条例制定のインセンティブを高めていきたいと思っています。
議会の論理に苦戦するも
SNS活用で味方になる議員を見出す
知識や知見も何もない状態で始めましたが、行政書士試験を通じて法律や行政の法体系をしっかり理解した点が生かされています。それでも不十分なところはあって、この活動を進めていく中でA党派の方とB党派の方の両方にアプローチをかけると議会の論理でうまくいかず、お叱りを受けたことも何回かありました。この経験を通じて痛感したのは、「自分の味方になって条例をつくり、一緒に同じ方向を向いてくれる政治家をみつける」ことです。具体的には、SNSで水戸の市議会議員の方を片端からフォローして、フォローバックしてきた人にDM送ってお会いしに行って、「この方だったらちゃんといじめの問題を教育問題に取り組んでくれるし、ある程度、期数も重ねているので議会内でもパワーあるな」という人をみつけました。その方のアドバイスも受けながら、どんどん伝播していき、県議会議員や国会議員でも協力をしてくれる方も出て来ましたので、一歩ずつ進めていけたらいいなと思っています。
「人生100年。1、2年の遅れも誤差」
母の言葉に“焦り”が消える
いじめも不登校の問題も最初に「まず焦らないこと」が大事だと思います。周りとの差を感じても、焦らない。私自身、いじめや不登校を受けていた当時、母からかけてもらった言葉で今でも印象に残っているのは「今は【人生100年】っていわれる時代。1年、2年遅れたとしても誤差みたいなものだから、絶対取り戻せる時は来る」と。平均寿命も延びて、勉強する手段もYouTubeやインターネットを通じての通信制など色んな勉強の仕方あります。まずは自分の気持ちを第一にして、「ここが充電期間だ」と思ってゆっくりしてから、心の整理がついて徐々に勉強していって取り戻せました。頑張っている知り合いもいっぱいいるので、本当に「焦らなくてもいい」という一言に尽きると思います。

当事者としての意義と
周囲に恵まれた責任を胸に
いじめや不登校を経験された方の中には、自分を取り戻せずに引きこもり状態になってしまうことも多く、その中で自分自身は比較的に環境にも恵まれ、周囲や親に支えられて、自分自身を取り戻して今の活動ができている「恵まれた者の責任」を実感しています。いじめや不登校問題についての発信を見るとすごく詳しい方もいますが、その方々が実際に経験したことがあるのかというとそうでもない。もちろん当事者でないからこそフラットな目で指摘する良い面もありますが、逆に自分は当事者だからこそ被害者に寄り添えたり、自分にしかできないこともあると思います。いじめ被害も不登校も経験した当事者が考えを発信し、行動を起こしていくのが従来の識者、活動者とはまた違う意味での「意義」があるんじゃないかと思い、活動しています。
今後の目標としては、いじめ問題への機運を高めて制度改革を目指すべく、卒業後は弁護士を視野に進学します。大学は法学部で行政法やいじめ防止対策推進法などの現行制度について学び、教養として社会学、特に社会調査とか分析の手法を学びながら制度設計の裏付けや、心理学を学んで被害者の心の支援に生かせたらいいなと考えています。
また先日18歳になり、行政書士の登録を行いました。これからは国内最年少の高校生行政書士として講演等で社会へ訴えたり、市民法務の立場からいじめ問題にも取り組んでいきたいです。

