食物・栄養学系特集副学長インタビュー
「栄養学」を深化させて未来にいかす
女子栄養大学から日本栄養大学へ(2026年4月より共学化・校名変更予定)

大学Times Vol.56(2025年4月発行)

【食物・栄養学系特集】副学長インタビュー 「栄養学」を深化させて未来にいかす 女子栄養大学から日本栄養大学へ(2026年4月より共学化・校名変更予定)

2024年12月、「女子栄養大学が共学になる」という第一報は、業界関係者に大きなインパクトを与えた。翌月には正式発表され、2026年4月から「日本栄養大学」として新たな船出となる。同大学が誇る女子教育の成果の一つ「管理栄養士国家試験合格者数全国1位」を長年にわたり堅持、その見据える先はどこにあるのか、武見ゆかり副学長に展望を伺った。

女子栄養大学 副学長
武見 ゆかり

女子栄養大学 教授 栄養学部 食生態学研究室

“女子教育の要”という建学時の想いと
栄養を学ぶ男子学生の潜在的ニーズ

本学は創立者の医師、香川昇三・綾先生が、92年前に「女子教育の場を確保したい」という想いから発足した「家庭食養研究会」が源流にあります。創立当初は、家族の食事を担う女性の役割が大きく、人々の健康を維持増進する予防医学の観点から、“食と栄養”を女性が学ぶことは有益でした。日本の栄養学は今日、独自の学問領域として発展しており、本学卒業生の多くは、大学で学んだ栄養学を社会に還元することを徹底し、実社会で生かすべく、食と栄養に関連するさまざまな分野で活躍しています。

その一方で、本大学院では開設時から長年にわたり、男女を問わず学生を受け入れてきました。かつては男子が栄養学を研究できる大学院が希少で、京都大学から本大学院へ進学した例もあり、「男子に対しても栄養教育が必要だ」という思いは、学内には常にあったのも事実です。本学校法人としては過去の大学二部や、香川調理製菓専門学校は共学であり、時代の変化を鑑みて最終的には香川明夫理事長兼学長の決断で、大学と短期大学においても男女問わず学びの門戸を広げることになりました。

「すべての人の役に立ちたい」
管理栄養士合格の先にある強い意志

今日、「食」と「栄養」は女子だけの学問領域ではありません。人生100年時代を迎え、すべての人が「自分の食を考える」ことが必要な世の中になりました。本学には質が高く熱意ある教員と学びの環境が整っており、充実したカリキュラムで学ぶ多くの女子学生が希望する「社会の役に立ちたい」という強い想いが、管理栄養士国家試験合格者数全国1位や養護教諭採用者数1位という実績に表れているのです。これらは決して資格取得や採用が目的ではない、その先にある「実社会への学びの還元」という彼女たちの決意の賜物です。男子学生も本学での学びを通じて、この精神が育つのではないか、そして男性ならではの視点をシンクロさせて、本学が築き上げてきた栄養学をさらに深化・発展させることができるのではないか、そのためには男女を問わず議論を重ねて、新たな発想と知見を得ることが不可欠ではないでしょうか。

日本の栄養学をグローバル栄養に深化させて社会課題を解決

日本の栄養学をさらに発展させて広く社会に貢献するには、食文化の似通っているアジア地域への普及も重要になると考えています。現在、東南アジアの若者は食文化の異なる欧米の大学で栄養学を学ぶ傾向にありますが、主食が米という共通の食文化がある日本の知見が、アジア地域の食と栄養の課題解決に寄与することは大いにあります。昨今、環境問題に配慮した食事として「プラントベースフード」(CO2削減をめざした植物由来の開発食品)が肉食中心の欧米で関心を寄せていますが、日本にはもともと大豆製品に米飯など植物由来の食事が伝統として根付いています。日本の食文化をアジア地域で活かすべく、本学が世界の食課題に対してお役に立てるように、今後は日本からの情報発信や留学生の更なる受け入れなど、教育・研究を通じて社会課題に取り組んでいきたいと展望しています。

スポーツ栄養は男子高校生の「栄養学」興味への切り口に

本学では予防医学の観点から食と栄養を学びますが、いくら体にいい食事でも美味しくなければ続きません。調理の基礎をしっかり学ぶのは、生活者として日々の暮らしの中で専門性を高め、自分の食事を考えて準備する応用力や適切な簡便性を養うことにあります。

また本学は他大学や競技団体等と連携し、スポーツ選手の体力維持と競技力向上のための栄養サポートを行っています。大学屈指の駅伝部や世界大会メダリスト、ワールドカップ日本代表など多くの実績がありますが、近年は“スポーツ栄養”が高校生にも注目され、先日本学で開催した恒例の「スポーツ栄養セミナー」には、例年以上の350名を超える参加者がありました。その半数以上は男子学生で、スポーツチーム単位での参加者も多く「競技のパフォーマンス向上のため」スポーツ栄養を学びたいとのことでした。本学では栄養学に加え、実践としての調理も併せて学びますので、本セミナーでの講義と学食の実食は参考になったと思います。男子高校生にはスポーツ栄養を切り口に、栄養学に興味を持ってもらえればと期待を寄せています。

栄養学+αの相乗効果をめざす栄養イノベーション専攻

来年春の共学化・校名変更に先駆けて、本年4月より保健栄養学科の栄養科学専攻を「栄養イノベーション専攻」に名称変更しました。ねらいは“栄養学プラスアルファ”の学びです。栄養士資格に加えて、臨床検査技師、フードウェルネス(食品開発)、新素材開発、食安全のエキスパート、データサイエンス、教員(家庭科)など多彩なキャリアをデザインできるカリキュラムを用意しています。たとえば健康診断の結果をもとに食生活の課題をアドバイスする臨床検査技師、栄養学に精通した食品メーカーの開発者、食品系企業でビッグデータの数値が持つ意味を理解して分析するデータサイエンティスト、 AIについて生徒に教える家庭科教員など、想定できるキャリアは無限に広がります。従来の食品開発者は栄養学とは異なる農学部出身者が多く、医師も大学では生化学には触れますが食品については学んでいません。栄養学は食と人とを繋ぐ学びであり、社会学や文化学にも広げることが可能です。既に、本学卒業生が栄養・フードサービス系の複数企業で開発したスマホアプリは社会実装されており、新たな道を拓いています。栄養イノベーション専攻は、本学でもやや理工系の学科に近いカリキュラムですので、男子高校生にも興味を持ちやすく、男女を問わず多様な議論や実験実習を重ねて、新たな気付きや成果を得られることでしょう。

日本の栄養学をさらに深化させ、本学が牽引して世界の課題解決に寄与するグローバル栄養で健康で幸せな未来に貢献するよう精進する所存です。