食物・栄養学系特集学部長インタビュー
食を科学に、健康を未来へ
すべての人に正しい食の知識を提供する~日本栄養大学(2026年4月共学化、女子栄養大学より校名変更)~
大学Times Vol.59(2026年4月発行)

“女子大学の共学化”が全国的に相次ぐ中、今年度の動向が注目された女子栄養大学。共学初の大学入試を経て第1期生の男子学生が入学し、1世紀にわたる同学園の歴史に新たなページを刻んだ。共学化は学生たちの意識をどのように変えてゆくのだろうか。石田裕美栄養学部長に教育展望を伺った。

日本栄養大学 栄養学部長
石田 裕美 教授
専門領域:栄養管理論
女子教育としての栄養学を
男女・世代を問わない“当事者の学問”へ
栄養学は長年、女子教育の一つとして行われましたが今日、男女問わず生涯学び続ける学問として再認識されています。本学は創立者(医師の香川昇三・綾夫妻)の理念として、当時家庭での役割が女性にあった“食と栄養”の教育によって人々の健康増進を図ってきましたが、一世紀近く経た時代の変化や、社会的機運の高まるSDGsに掲げられた「誰ひとり取り残さない」ための“食と栄養”の知識が広く求められています。男女・世代に関係なく「当事者」となる食と栄養の問題に対し、今こそ本学で研究教育を構築した栄養学の知見を社会に還元することが重要と考え、共学化することとなりました。
男子学生のキャリアプランが多様になる
共学で顕在化した教育力への信頼
昨年のオープンキャンパスに参加した男子高校生からは、将来「養護教諭」や「家庭科教諭」になりたいという進路希望も聞かれました。「男性の仕事、女性の仕事」といった旧来の固定概念に囚われていないのかもしれません。男子高校生にとっては学びの領域や職業選択の制限から解き放たれ、本学の共学化によって将来の進路希望が顕在したのではないかと分析しています。
すでに本学大学院では、管理栄養士の実務経験で向き合った課題を解決してステップアップを目指す男子学生も区別なく学んできています。また本学卒業生からは、「勤務先で本学の共学化が話題になり、男性の管理栄養士から『(当時は)女子栄養大学に行きたくても行かれなかった』と言われた」という話を聞きました。管理栄養士をめざす若者にとって本学が一つのステイタスになっているようで、教育力の高さへの期待を裏切らないような教育を続けてゆかねばならないと気を引き締めています。

予想以上の男子学生が入学
授業カリキュラムはこれまでと同じ
この春入学した男子学生は、予想を上回る人数になりました。既存の共学校の栄養系学部でも、男子の割合は全学生の約1割といわれていますので、それ以上の入学者を迎えたことを嬉しく思います。共学化発表に際し、在学生に対しては副学長より事前にその経緯を丁寧に説明しましたが、大方受け入れてくれていると認識しています。学外実習など実践的な学びにおいても、受け入れ施設とも意見交換し、共学化による特別な変更はなくこれまで通り充実したプログラムが準備できています。但し、更衣室など運営上の配慮や性差を意識しなければならない実習などの対応は必要と承知しており、具体的には2年生以降になる予定です。
学生生活では、学食の食事の量を増やすことや、運動系部活動の練習などは学生の希望を尊重しながら徐々に進めていきたいと考えています。
食と栄養学の知識を関連分野で活かす
データサイエンティストは需要大
栄養学プラスアルファの学びとして、本学は昨年度から「栄養イノベーション専攻」を設置しました。特筆すべきは、食や栄養に強い、データ分析ができるデータサイエンティストを目指せるカリキュラムがあることです。これまでは、食に関する膨大なデータをどのように解析して新しいものを創出するかの課題に取り組める、食や栄養に明るい専門家が乏しかったこともあり、食品メーカーなどからも人材の需要が求められているのです。
近年は文系理系問わず、データサイエンスを学ぶ大学の学部学科が増加していますが、本学では“データサイエンスを何に活用するかが明確”という特徴があり、在学中から「学ぶ目的」を見据えて研究や学修に取り組めるのは、就活でも大きな強みになると思います。すでに、食や栄養の領域に活かせるアプリ開発では本学卒業生が活躍していますが、今後ますます職域としての可能性が広がり、この分野のデータサイエンティストが期待されているのです。たとえば、給食施設での献立作りをAIが行うようになると、食事の対象者をはじめ食材の入荷状況や予算など、さまざまな条件を選択したきめ細やかなデータが短時間で作成できます。栄養士の業務の中で献立作りは特に時間がかかりますので、人手不足の現場のニーズは益々高まると思います。

全学生対象の調理実習は栄大の強みに
「作れる栄養士」のポテンシャルは高い
さらに、厨房設備の分野にも期待が寄せられています。調理ロボットの開発者は工学系の技術者ですから、食や栄養に明るいデータサイエンティストの意見が、より良い製品づくりに寄与するのは明白です。調理時間や温度管理などの効率化を図りながら、これまでにない発想の優れた厨房機器が開発できるかもしれません。
本学は全学生が1年次に調理学実習を履修します。日常での調理経験が少ない学生もおり、包丁の握り方など基本から全員で学びます。栄養系大学の中でも、全学生が調理技術を身につけるのは稀有であり、その可能性を将来の進路にも活用してもらいたいです。

スポーツ栄養の要望に応える拠点を整備
2027年春「スポーツ栄養実践センター」設置へ
近年は男女問わず、スポーツ栄養が高校生にとって魅力的な領域と受け止められているようです。トップアスリートのインタビューやSNS、マスメディアによって、スポーツの能力向上と栄養との関係が、広く認知されつつあるのかもしれません。本学が毎年実施している「スポーツ栄養セミナー」には数百名にのぼる男子学生が参加していますが、高校まで競技スポーツを続けていたが大学では現役を退き、選手を食や栄養面でサポートしたい、という高校生も少なくないようです。
本学では来年度から、栄養学部実践栄養学科に「スポーツ栄養実践センター」を新たに設置することになりました。これまでスポーツ栄養に関するご相談があった場合は各教授が個別に対応していましたが、今後は専任窓口を設けて、スポーツ栄養に関するさまざまなご要望にお応えしていきます。また学生の教育に留まらず、卒業生が難関資格の「公認スポーツ栄養士」取得を希望した際に、資格要件となるインターンシップ先の紹介などサポート体制やネットワークも整備します。スポーツ栄養は実績を重ねた本学の強みであり、スポーツ栄養を学びたい高校生にもより充実した学びの環境を提供できると期待しています。