【特集】就職内定率ではわからない本当の大学生就職戦線の現実|大学Times

【特集】就職内定率ではわからない本当の大学生就職戦線の現実 −リーマンショック以降の景気低迷に伴う雇用環境の悪化は、大学生の就職活動を直撃。
その厳しさは「就職氷河期」を上回るとの報道が新聞やテレビを賑わせている。
しかし本当に、企業は新卒採用の扉を閉ざしてしまったのだろうか?
公表されている調査データを改めて検証するとともに、いまの就職戦線で納得のいく
就職を勝ち取るための方策を考えてみる。−

就職内定率ではわからない本当の大学生就職戦線の現実

内定率は過去最低を更新も就職者数はバブル期以上
氷河期の一因はW大学生数が増えたWから

バブル経済崩壊後、有効求人倍率が“1”を下回り、就職が非常に困難だった「就職氷河期」(1993年〜2005年)。その再来といわれるほど、いま、大学生の就職難が深刻化している。文部科学省と厚生労働省が11年1月に発表した10年12月1日現在の11年3月卒業予定者の就職内定率(学部)は68.8%。前年同期と比べ4.3ポイントの減で、かつての氷河期でも最も低かった03年度の73.5%を下回り、96年の調査開始以降の最低を更新した。

しかし、就職環境はどんな意味で「超氷河期」に入ったのだろうか。公表されているさまざまなデータを精査すると、意外な側面が見えてくる。

文部科学省・厚生労働省が発表した就職内定率のほかに、文部科学省がまとめた「学校基本調査」の就職率というデータがある。

計算式は、前者が就職内定者÷就職希望者、後者は就職率就職者÷全卒業者。まるで違う。就職率でみると、一番低い03年卒は55.1%だが、これにほぼ対応する学生の02年12月時点の就職内定率は76.7%。10年卒でも就職率は60.8%なのに、09年12月時点の就職内定率は73.1%。就職率で比較すると、10年卒は03年卒を上回っているのである。就職者数で比べてみても、バブル景気前夜の85年卒(就職率77.2%)288,272人に対して10年卒は329,085人。10年卒の方が多いのだ。つまり、企業は大学新卒者を好景気時以上に採用しているのである。

大学卒業者数・就職者数・就職率の推移/大学卒業者の就職内定率の推移(PDFが開きます)

大学生の商品価値が下がりつつあるのに変わらない
学生の意識と厳選採用する企業意識の埋められないギャップ

ではなぜ、氷河期なのか。
理由を端的にいえば、「大学生が増えている」からだ。戦前、戦後、大学進学者はごく一部に限られていた。それが高度成長とともに大学進学者は増え続け、今や大学進学率は5割を超えてしまった。“猫も杓子も”とまではいわないが、大学生が増えたのである。大学生がエリートだった時代は終わり、その“商品価値”は大きく下がってしまった。

そんな大学生を、企業はお金をかけて採用するのである。人は欲しいが、「優秀な」という但し書きが付く。採用方針は厳選採用に傾いた。バブル時、企業の多くは数合わせにこだわった。計画人数を満たすまで採用を続けた。しかしバブル崩壊後、採用方針は大きく転換した。採りたい。しかし無理に採る必要はない、と。自社に貢献してくれそうな人材を見極め、おメガネにかなわない学生はきっぱりと断るのだ。

企業のグローバル戦略も、日本人学生の採用枠を圧迫している。海外進出、海外企業との競争、そして業務提携。そんな時代にふさわしい人材を、大手企業では“グローバル人材”と称し、求めている。だから、日本人にこだわらない。海外からの留学生でも、意欲と資質が合致すれば、積極的に採用する。楽天をはじめ社内での“公用語”を英語にする会社もある。対中ビジネスのために中国人採用枠を設ける企業もある。終身雇用制が崩壊し雇用が多様化したように、企業の採用戦略も数合わせから厳選採用、さらには国籍の枠を超えつつあるのである。

大学卒業者求人総数・民間企業就職希望者数・求人倍率の推移/大学卒業者・従業員規模別求人倍率の推移(PDFが開きます)

元気な中堅・中小企業は大卒者を積極的に求めている所も
学生は意識を変え明確なキャリアプランを持つべき

これだけ就職環境が変化しているのに、学生の就職意識には大きな変化が見られない。

最大の問題は「大手志向」。相も変わらず大企業に就職希望者が殺到している。商品価値が下がり、大手企業がますますグローバル人材を求めているにもかかわらず、である。

反対に、中堅・中小企業には学生が集まりにくい。リクルートワークス研究所が実施した「大卒求人倍率」調査では、11年卒予定者で従業員1,000人未満の企業を希望する学生は前年から約46,000人増え、1,000人以上の企業を希望する学生は約38,000人減った。企業規模による“志望格差”は縮小し、企業と学生とのミスマッチは緩和される兆しが見えてはいる。

それでも中堅・中小企業の大卒者採用は困難を極める。内定を出したのに受諾するかで迷う学生を説得するため、わざわざ保護者向けに会社説明会を実施する企業もあるという。

こうしたことから見えてくる課題。それは、学生のキャリア意識をいかにして高めるかという点だ。一人ひとりが自分を客観的に見つめ、冷静かつ広い視野に立って将来設計を立て、そのプランに立脚して就職活動のスタートラインに立つ。それこそが、学生の就職意識の持ち方、さらには企業の選択基準に変化を生むのではないだろうか。

4月から大学・短大でのキャリア教育が義務化
いっそう求められる「就職」など大学の出口指導

とはいえ雇用対策は待ったなし。文部科学省も就職支援の強化に乗り出した。「大学の就業力向上プラン」と呼ばれる施策で、その一つが、大学と短大の教育課程に就職指導(キャリア教育)を盛り込むことの義務化。11年度から実施する。産業界と連携して課題解決型授業やインターンシップの充実など就業力向上のための大学の取組みを支援する「大学生の就業力育成支援事業」も推進する。

多くの大学、短大でもキャリア支援に積極的だ。日本学生支援機構のまとめでは、就職セミナーやガイダンスなどを実施する大学は全体の91.8%、短大で95.7%。職業意識を育てることを目的にした授業科目を開設している大学は74.3%、短大は72.4%に上る。

湘南工科大学では、06年に学生の学力向上を図る「学習支援センター」を設置し、10年春には、「就職支援センター」を始動させた。東京女学館大学の「卒業成長値を高める『10の底力』」プログラムは、キャリア形成に必要な能力として、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力など「10の底力」を設定。

この中から、学生が特に伸ばしたいと考える能力を選び、授業を通じて教員とキャリアカウンセラーなどが学生を支援し、能力を伸ばしていく。個々の学生を対象としたオーダーメイド型のキャリア教育支援として注目されている。

ちなみに、東洋経済新報社が企業の人事担当に「キャリア教育が優れている大学」を聞いた際、名前が挙がった私立大学は50音順に、青山学院大学、大阪商業大学、大阪電気通信大学、金沢工業大学、甲南大学、産業能率大学、上智大学、千葉商科大学、中京大学、帝塚山学院大学、東京工科大学、阪南大学、法政大学、立命館大学、早稲田大学。

大学選びの第一の理由が「大学の就職率の良さ」を挙げる時代。大学も入口だけでなく出口指導にもよりいっそうの努力が必要だろう。

先を見据え、広い視点に立って今は中小でも将来の成長産業、成長企業を見極めることが大切

長引く不況の中、学生が安定志向⇒大手企業に目を向けたい気持ちもわかる。しかし、先に述べてきた通り、企業の採用戦略が大きく転換している時代にあって、やみくもに大手企業を志望するのは無謀、無意味ではないか。

日本の産業界は時代の変遷とともに“主役”が入れ替わってきた(「日本の産業隆盛の変化」参照)。繊維・衣料などの軽工業から鉄鋼や電気機械、自動車などの重厚長大の輸出産業へ、さらには情報産業へ。しかも、変化のスピードは時代を追うごとに早くなっている。企業規模にしても、ソニーや本田技研工業などのグローバル企業が、最初から大企業だったわけではない。多くの企業が、設立当初は中小、ベンチャー企業からスタートしたのである。現に、日本の企業の99%は中小企業。労働者の7割がそこで働いている。これはまぎれもない事実なのだ。

知名度は低いが「この製品で国内(海外)シェア何%」というような技術や製品を持つ企業、卓越したサービスを有する中小企業は数多くある。産業界の動向では、高齢化社会に到来により、介護や福祉へのニーズが高まることが確実視されることから、食品、医療用品、製薬から、はては通信機器、ゲーム業界など、さまざまな業界が今、介護・福祉ビジネスに注目している。

ましてや、間もなく“団塊の世代”が次々とリタイアしていく。新しいマーケットが形成される可能性は十分にある。自分で会社を興す選択肢だってあるだろう。

現在の就職環境は確かに厳しい。しかし、変化する社会情勢や自分の本当にやりたいこと、さらに今後成長の可能性がある産業や企業を見極められる正しい視点があれば、必ず納得のいく就職はできるはずだ。だから大学には、学生の能力を最大限に引き出し、学生一人ひとりに合った就職ができるよう導いてほしい。それが、「就職氷河期」を乗り切るためのポイントといえるだろう。

ここで、元気がある中堅企業を代表し、電子メモ「ポメラ」やラベルライター「テプラ」などで有名な株式会社キングジムの高橋利彰人事部人材育成課長に、企業側から見た採用活動の実際、採用したい人に求める人材像、大学生へのメッセージなどをうかがった。

日本の産業隆盛の変化(PDFが開きます)